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贈りたい本を探しに、吉祥寺へ(前編)

この年末年始は、親しい人にサプライズで本を贈ってみるのはいかがでしょう? それが贈る相手の守備範囲であってもそうでなくても、本をきっかけに楽しい会話が生まれるかもしれませんし、この時期は、いつも以上にプレゼントしたくなるような素敵な本を揃えている本屋さんも多いので、本を探す時間もまた格別なんですよね。

ジュンク堂書店吉祥寺店 6階レジ付近にて開催されているブックマンションとの選書コラボフェア「たいせつな人に贈りたい本」も、この時期ならではの企画です。残すところあと1週間ほど(〜12/31まで。年明け 1/2 からは、新たな11組による「2021年に読みたい本」が展開される予定)になりましたが、今回はそれぞれの「贈りたい本」を選書した11組の棚をすこしだけ紹介しようと思います。

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↑ こちらが、フェア会場の棚(2020年12月半ば頃)。参加者が各自ポップや本の位置を入れ替えるなど、様子を見ながら棚のお手入れをしています。[ 上から1段目左: 816 号室 / 同右:1neko. / 2段目左: 書肆駒田 / 同右:あかりbooks / 3段目左:ひそひそ書房 / 同右:紅茶と文学 / 4段目左:books on the grass / 同右:ライネケ堂 / 5段目右-左:南と華堂 /同右-右:なつや書房 / 同左: 清水家! ]


それでは、棚ごとに私が気になる本についてすこしずつ。

《1段目左》 816 号室

[選書リスト]ドラえもん ①巻・色を奏でる・てつがくのライオン・ヨーンじいちゃん・blue・ひみつのしつもん・あたらしい路上のつくり方・センセイの鞄・永遠の詩③山之口獏

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ブックマンションNo.62の棚主「816号室」さんは、今回、ひと棚の中にコミックから詩集まで、色とりどりの世界を揃えました。その中にいつもブックマンションの棚にストックしている『ヨーンじいちゃん』がラインナップされているところに、816号室さんらしさが光ります。

『ヨーンじいちゃん』(1985年/偕成社)は、ドイツの作家 ペーター・ヘルトリングによる、愛すべきお爺ちゃんの物語。自分らしく生き生きと暮らすお爺ちゃんの騒動と顛末が描かれているようですが、わたくし未読です。涙なしには本を閉じられない模様です。気になります。


『ドラえもん』①巻の隣に面陳(表紙カバーが見えるように並べること)された『色を奏でる』(1998年/ちくま文庫)も読みたい一冊。30歳を過ぎてから染色の道に入ったという志村ふくみさんが綴る「色と糸と機と」。丹念な手仕事を続けてきた著者の長年の思いを綴る珠玉のエッセイ集なのだとか。丁寧に暮らしを営む人、ものづくりに関わる人に贈ると喜ばれるのでは、と思われます。


《1段目右》 1neko(いちねこ)

[選書リスト]モミの木・旅をする木・紙の動物園・回転ドアは、順番に・風邪の効用・この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた・ゼロからトースターを作ってみた結果・悲しみの秘儀

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どこかロマンを感じさせる本が多い「1neko.」さんのフェア選書。1neko.さんは訪れるたびにコツコツと、会場の棚やブックマンションの棚にクリスマスの飾りや動物モチーフを仕込んでいます。その姿は、まさに職人。楽しそうな姿が微笑ましいんですよネ。

センターを飾る『モミの木』(2013年/アノニマ・スタジオ)は、ハンス・クリスチャン・アンデルセンのお話に、マリメッコのデザイナー、サンナ・アンヌッカが絵をつけた作品。美しい森で生まれた小さなモミの木がたどる運命を、場面ごとにモダンなタペストリーのようなアートワークで魅せてくれます。大人に贈りたい贅沢な絵本です。

写真のドットシールは、本の透明カバーや包装を好みのデコレーションで飾れるよう、1neko.さんが棚に設置したフェア特典。透け感のあるグラデーションが美しく、ラッピングにぴったりです。


すでに棚にはなくて、会期中再入荷があるかもわかりませんが、故・星野道夫さんのエッセイ集『旅をする木』(1999年/文春文庫)も取り上げたい一冊。星野さんがアラスカに暮らして15年を経た頃に書かれた33編は、自然を愛する人なら共感せずにはいられないはず。時に厳し過ぎる大自然と対峙してきた彼の言葉は、普遍的で詩のようにも聞こえます。(以下、本書から一部を抜粋)

「ページをめくるように変化してゆくこの土地の季節感が好き」

「人間の気持ちとは可笑しいものですね。どうしようもなく些細な日常に左右されている一方で、風の感触や初夏の気配で、こんなにも豊かになれるのですから」

「ぼくたちが毎日を生きている同じ瞬間、もうひとつの時間が、確実に、ゆったりと流れている。日々の暮らしの中で、心の片隅にそのことを意識できるかどうか、それは天と地の差ほど大きい」


《2段目左》 書肆駒田

[選書リスト]数学ガールの秘密ノート 学ぶための対話・テクノロジーは貧困を救わない・生き心地の良い町・かかわり方のまなび方・演劇入門・隅田川のエジソン・他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論

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「友達や家族や同僚が、悩んでいる・苦しんでいるときに助けになれるような本」「人間関係について考えたいときに勧めたい本」という視点で選書された、「書肆駒田」さんの棚。そのセレクトの中に、『演劇入門』が入っているのがちょっと興味深いです。このラインナップを眺めるだけでも、駒田さんの誠実な人柄が感じられますし、読んでよかったと思える本が並んでいるはず、と信頼できるというものです。理数系カラーを感じる本も多く、普段なら個人的に出会わなそうな本ばかりであるのも新鮮です。

中でも、背表紙だけが見えている『かかわり方のまなび方』(2011年/ちくま文庫)というタイトルが気になります。『自分の仕事をつくる』等の著書のある西村佳哲さんの本です。社会の第一線で活躍されているファシリテーターやワークショップ実践者へのインタビューを通して、他者の強みを引き出したり、コミュニケーション力を向上させるスキルについて探求した一冊のようです。

「お互いの価値を尊重することを知って生きるのと、ただ生きているのは違う」という登場者の言葉にすでに感銘を受けました。一冊読み通したらどれだけの示唆に触れることができるのか。自分に贈りたいと思います。


『テクノロジーは貧困を救わない』(2016年/みすず書房)も、関心を覚えたタイトルのひとつ。インドの教育現場で翻弄された外山健太郎さんが、「社会を前進させるのは、テクノロジーではなく、人間の知恵である」と身を持って知り、語り尽くした一冊だとか。


《2段目右》 あかりbooks

[選書リスト]至福の味・ときどき旅に出るカフェ・マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ・東京すみっこごはん・あまからカルテット・戦場のコックたち・東京バンドワゴン・そして、バトンは渡された

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「食卓のある風景を贈りたい」というテーマで選書をされた「あかりbooks」さん。「家族や友人と囲む食卓でも、ひとりで楽しむごはんでも、食べることに幸せがある。そんな根本的なことを思い出させてくれる小説たち。食事を楽しみながら、読んだ本の話を気のおけない人たちと話す時間。そういう至福の時間を過ごしたくて、私は本を読むのかもしれない」と、「食卓のある風景」への思いを正面のポップに綴っています。

どの本もおもしろそうですが、私が贈られる側なら、棚の中でひときわ存在感を放っている(←食いしん坊ゆえに、そう感じるのでしょうか!?)、『至福の味』(2001年/早川書房)をリクエストしたいと思います。哲学の教員資格も持つというミュリエル・バルベリによる料理小説で、フランスの「最優秀料理小説賞」2000年度受賞作品だそうです。美食の限りを尽くした料理評論家の記憶に残る味とは?

あかりbooksさん曰く「すごく嫌な奴なのだけれど、料理への飽くなき探究心がすごい! 料理の描写にはよだれが」とのこと。主人公の性格も料理のジャンルもかなり異なるはずですが、石井好子さんの『東京の空の下、オムレツのにおいは流れる』を読んだときの感覚を思い出しました。


《3段目左》 ひそひそ書房

[選書リスト]読書は1冊のノートにまとめなさい【完全版】・読書について・ケーキの切れない非行少年たち・空が青いから白をえらんだんです・わたしは10歳、本を知らずに育ったの。・明日の子供たち・むこう岸・ぼくがスカートをはく日・永遠に生きるために・

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「ひそひそ書房」さんは、児童書も一般書も幅広く読まれる、ベテランの棚主さんです。ブックマンションでも、時節ごとにテーマを意識して本を入れ替えては、本のあらすじや選書コメントを手製の冊子にアウトプット。今回の棚に設置された手書きポップにも、「インプット/アウトプット」をキーワードとして強調されていますが、とにかくマメな方なのです。そんなひそひそ書房さんが今回のフェアで選書テーマとしたのは、「読書」であり、「様々な環境で生きづらさと向き合う子どもたち」を語る本(と私は解釈、、)。

どの本も興味深いのですが、子どもと関わりのある本がより気になります。

・『わたしは 10 歳、本を知らずに育ったの。: アジアの子どもたちに届けられた27万冊の本』(2017年/合同出版)
・『空が青いから白をえらんだのです ―奈良少年刑務所詩集― 』(2011年/新潮文庫)

2冊の内容や、残りの棚については、後編で紹介したいと思います!

文 清水家!(た)



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