【往復書簡】10通目( 岩谷さん)

岩谷さま

ぼやぼやしている間に夏は秋になり、そして冬になり、いつの間にやら新しい年を迎えていました。お手紙の返事、たいへんたいへん遅くなりました。

お返事が滞っていた最中も、度々のご来店ありがとうございます。お越しいただくたびにお返事に書こうと温めていたネタを大放出してしまい、同じ話をしてもなぁと下書きフォルダの文章を削除する流れを何度か繰り返しました。手紙でのやりとりはボールを投げる前にどんな球を放るかじっくり考えられて良いのですが、オフラインの場で相対してキャッチボールする臨場感はやっぱり堪らないですね。

リモート飲み会も瞬間的に流行りはしたものの、お店(やお家)に集まる飲み会が完全にそちらに移行することはおそらくなさそうです。電子書籍が世に出ても結局紙の本がなくならずに愛され続けるのとおんなじで、きっとそこには代替できない魅力があるんでしょうね。まだうまく言語化できませんが、いざ自分も数回リモート飲み会を試してそれを実感しました。

前回岩谷さんのお返事をいただいてから早数ヶ月が立っていますが、世の中は相も変わらずな状況ですね。相も変わらずすぎて、もともと非日常だったものが日常になりそうなのが若干おそろしく、せめて油断はしないようにと事あるごとに自戒しています。こんな時に感じたくもないのですが、あらためて人間は慣れる生き物なんだなぁと我が身をもって痛感するばかりです。

お店ものほほんと営業しながら、何かがあった時(というよりも自分の判断がそちら側に傾いた時)にはいつでも長い休みに入れるよう準備と覚悟をしています。昨年の春先に初めて数ヶ月の長期休暇(春休み)をとった時と違ってすでに一度長い休みを経験して、その結果どうなったかも今回は知っています。その経験が今の判断に影響を及ぼしていて、それがまた意外と厄介でして。

前回春休みの前後で、現場のあり方や関わってくださる方々が本当にガラッと変わりました。もちろん岩谷さんはじめもうずっと前からながーーいお付き合いをしてくださる皆様もたくさんいるので一概には言えませんが、個人的な感覚として休暇明けしばらくの営業はゲームでリセットボタンを押したぐらい劇的な状況でした。

本来であればリセットボタンは上手くいかずやり直したい時に押す安全装置のようなもので、コツコツ地道にレベル上げしてやっと戦えるようになってきた段階で押すものではありません。ましてや現実世界は都合のいいところでセーブできるわけでもないし、押したら最後。

日常に浸透していくことを目標にしているお店にとって「存在を忘れられる」のは致命症に近い痛手です。新しい生活様式の中に食い込む隙がなければ、一瞬で泡のように消えてなくなってしまいます。そんな中で地道に書き記したぼうけんの書が消えて呆然とする感じを、また、しかも自らの手で作らなければならない。現場を持っている人間が請け負うべきリスクであることは百も承知ですが、それでもヒリヒリする毎日です。

なんだか穏やかではないですが、これが前回の長期休暇とそのあとしばらくの営業を踏まえての気づきです。野暮ったいけど今じゃなきゃ書けないと思うのでそのままお送りしました。(悪送球ごめんなさい!)

ただ別にそれで悲観的になっているわけでもありません。ボタンを押したら押したでその先には別の世界線があって、そっち側でしか見つけられない楽しいものも当然あるわけで。悩む暇があったらそれを探して捕まえた方がよっぽど良い。

事実は変えられないけど、解釈は変えられる。

とても好きな言葉で、お店にこられた方にもよく話しているのですが、今一度この言葉を自らも体現して楽しく泳いでいかねばなと、剥き身のリセットボタンを前にして思っています。

はてさて久しぶりのお返事がこんな話で良いものか心配ではありますが、本年も引き続きオンラインオフライン共にゆるゆるとお付き合いのほどよろしくお願いいたします。せっかくなので問いで締めさせていただきます。

"今の"世の中に必要なものってなんだと思いますか?

2021.1.5
シモダヨウヘイ

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