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アイデアが死ぬとき。

アイデアは大切だ。なぜかと言えば、閉塞した状況を打開する力があるからだ。

「アイデアというのは、複数の問題を一気に解決するものである」

これはマリオの生みの親であり、現在、任天堂の代表取締役フェローをされている宮本茂さんの言葉だが、僕の知る限りもっとシンプルなアイデアの定義だと思う。

さて問題はここからだ。仕事でアイデアが求められるとき、多くの人は知恵を絞って中身や表現を考える。それと比べて「どう出すべきか」を大切にする人は少ない。

僕が言いたいのは、プレゼンや見せ方のような演出の話ではない。それ以前の話。コンディションづくりに近い。どんなポテンシャルがあるものも、コンディションが悪ければパフォーマンスが出ない。それはアイデアも同じだ。

結論から言えば、「最初が山場である」ということ。分かりやすくするために、一般的な受発注でのクリエイティブワークを例に書いていく。主にアイデアを提案するクリエイター側の視点になるが、これは同時にプロにお願いする企業側にも重要な視点だ。社内の企画会議でも、町内会の会合でも同じようなシーンはあるはずだ。

前提として、どんな仕事においても最初の印象ほど正しいものはない。理屈よりも直感のほうが複雑なものを処理する思考が速いし、何よりそれがピュアな世の中の目線だから。「一発目の企画やデザインが一番良かった」そういう経験したことある人は少なくないだろう。何度も繰り返している人は要注意だ。

ファーストコンタクトで閃いた視点や違和感があるなら、大切に持っておいたほうがいい。ただ感想を伝えたり議論するのは大事だが、いきなり提案に入ってはいけない。

その理由はなぜか。それは多くの場合、問題が出し切られていないから。先程のアイデアの定義で記したように、「アイデアとは複数の問題を一気に解決してしまうもの」である。だから問題を顕在化させことが極めて重要だ。(こんな言い方はおかしいが、その問題は多ければ多いほうがいい。マラドーナーの5人抜きゴールのように多いほうが魔法になる。古い例えだけど笑)

もしも発注側が用意したブリーフィングだけを聞いて、その情報で考える癖がある人はやり方を疑ったほうがいい。とにかく聴く。粘り強いヒアリングから全ての問題を炙り出す。ビジョンとか大きな話から、SNSの言葉遣いまで、サボらずにテーブルに上げる。数日かかってもいい。後から修正をかけるよりもよほどローコストだ。

よくあるケースは、数ページのブリーフィングを魔に受けて、これだ!と直感を頼りに閃いた一発目のアイデアが刺さらないこと。発注する側がビジネス思考の強い人だと、ロジックが追いつかないとアイデアの価値そのものが伝わらない。複数の問題を解決してるはずなのに「表現としてはいいけれど」とかズレた議論になりかねない。人はなかなか脱学習できないので、すぐにフレッシュな状態には戻れず、何かを引きずったまま2回目3回目の提案になっていく。モチベーションの問題もあり、お互いよほど前向きでバイブスが合わない限り、数を重ねて良い感じになっていくケースはあまりない。

もっと最悪のケースはこうだ。一発目のアイデアは刺さった。いいね!となった。しかし、後日やっぱりこの情報が足りなかったとか、社内の事情が変わったとか、他社との比較して変更して欲しいとか、後出しジャンケンで問題が出てくること。一度修正が入ると際限がなくなり、生活者からすれば関係ない話ばかりが盛り込まれ、複雑で劣化したものになっていく。気がつけばストーリーがぐちゃぐちゃになり、全体像を見失ったまま手術を繰り返されて、見るも無惨な姿になるケースは少なくない。

これが、アイデアが死ぬとき。

提案の一発目は、ダイアモンドである。(またはその原石だ)まずこの認識が足りないように思う。そして鮮度が大切だ。これだ!と、みんなで同じタイミングでブレイクスルーを経験することで一緒にジャンプできる。

逆に言えば発注する側は、その道のプロに任せるなら、責任者自らがブリーフィングの場に出て、ビジョンから問題までをすべて洗いざらい話して、プロジェクトの目的と目標を伝えて、あとは提案されたアイデアを選ぶだけにしたほうがいい。それが正しいプロとの付き合い方だと思うし、ブランディングなど主観が問われる領域ほど、それくらい信頼できる人だけにお願いするべきだと思う。(もちろん両者でアイデアをより先鋭化していく議論は良い)

アイデアは、非連続な成長には欠かせない資源だ。しかし、いとも簡単に死ぬ。だからこそ、最高のコンディションで解き放とう。