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【本】きっと読めば心が温まる~百田尚樹さん「輝く夜」

先日、百田尚樹さんのYouTubeで紹介していたのが、ご自身の「輝く夜」という作品でした。せっかくだから、読んでから番組を観ようと思い、実際の動画は拝見していないのですが、百田さん自ら朗読されるなど、素晴らしい内容だったとか。こちらも観なければ・・・なのですが、まずは実際に読みましたので、こちらの感想をお伝えしたいと思います。

大ヒット『永遠の0』著者による、もうひとつの号泣ストーリー。
人は最後に誰を想い、何を願う?

幸せな空気溢れるクリスマスイブ。恵子は、7年間働いた会社からリストラされた。さらに倒産の危機に瀕する弟になけなしの貯金まで渡してしまう。「高望みなんてしない、平凡な幸せが欲しいだけなのに」。それでも困っている人を放っておけない恵子は、1人の男性を助けようとするが――。
5編の泣ける奇蹟。

amazonより

初、百田小説。なぜ、今まで読まなかったのか・・・!

まずは正直に告白しますが、恥ずかしながら、「日本国紀」やエッセイ等はは読んでいますが、百田さんのベストセラー小説をしっかり読んだことがありません(来年は「永遠の0」「海賊とよばれた男」「影法師」などを読もうと思っています)。というか、ここ10年15年、ほぼほぼ「小説」というジャンルをしっかり読んできませんでした(ほとんど実用書やビジネス本、自己啓発本に費やしてしまいました・・・)。今年は自分の中でもいろいろな「変化」の一年でしたので、こうして素晴らしい小説と出会えたのも、何かの「きっかけ」なのかな、とプラスに思うことにしたいと思います。

浅田次郎さんの「鉄道員」につながる温かさ

読んだ感想は・・・今回のnoteのタイトル通り、心が温かくなりました。かつて浅田次郎さんの「鉄道員(ぽっぽや)」の短編集を読んだときの読後感に近いかな、と思いました。あちらの場合、ゴーストとの遭遇といいますか、今は現世にいない故人や思い出の人たちが現れて、主人公に奇跡を届けるという大きな筋があるのですが、「輝く夜」はちょっと違った形でこちらも数々の「奇跡」が舞い降りてきます。ちょうど読んだのがクリスマスシーズンだったこともあり、なんとなく自分を主人公たちに重ねながら、どっぷり世界観に浸りつつ、あっという間に読むことが出来ました。


以下は、短編集の冒頭を紹介しつつ、自分の感想をまとめていきたいと思います。極力、ネタバレしないよう、注意したいのですが、どうしても雰囲気が伝わってしまうと思います。ぜひ、本作をお読みになった後にお読み頂くことを強く推奨します!

第一話 魔法の万年筆

クリスマス・イブに恋人もおらず更には会社をリストラされて踏んだり蹴ったりの恵子。自分が困っているにも関わらず他人が困っているとどうしても助けてしまう性格。リストラされた帰り道にホームレスのおじさんを助けると、そのおじさんからお礼に願いが3つ叶う魔法の万年筆を貰う。

「たまあざらしの部屋~本・漫画・ゲームの紹介」より

好きなんですよね・・・「3つの願い」話。古今東西、いろいろなパターンの「3つの願い」話がありますが、そこはさすが名手百田さん!そんなオーソドックスなパターンを踏襲しつつ、最後にホロッとさせるところはお見事です。とにかく主人公の恵子さんが、とても健気なのに不憫でならないんです。なぜ、こんなに真面目で一生懸命な方に、こうした不幸が訪れるんだ・・・という前半。そんなときに「魔法の万年筆」が手に入り・・・。という流れ。普通なら、自分のために使いたいですよね、絶対に自分ならそうします(笑)。この先の恵子さんの選択がまた、「彼女らしい」。だからこそ、ラストに素晴らしい「奇跡」が訪れたんでしょうね。

第二話 猫

今日が派遣期間最終日の派遣社員の雅子。クリスマス・イブに密かに思いを寄せる派遣先の社長石丸の仕事を手伝う。仕事も無事に終わり、石丸から食事に誘われるが、飼い猫のみーちゃんが帰りを待っていることを思いだす。石丸にそのことを話すも、「少しだけと」結局、食事に行くことに。

同上

こちらの主人公雅子さんもまた、あまり幸福ではない生活。というのも、正社員ではなく「派遣社員」。それゆえに肩身の狭い毎日を送っている。しかもクリスマスイブの今日が契約最終日。できることなら、継続して働けないものかと密かに淡い期待もしながら、懸命に働く姿がまたいじらしい。そして雅子さんがずっと思いを寄せている社長から、思いがけず食事に誘われるのですが、自宅に猫がいますから・・・と一度は断るわけですが、結局食事に行くことに。短編ではありながら、二人の駆け引き(というか、石丸社長が必死に誘うわけですが)を会話で巧みに表現しています。そして最後に訪れる「奇跡」。偶然が重なる展開ながらも、いいですよね、こういう話。私は好きです。

第三話 ケーキ

末期がん患者の真理子は密かに医者の大原に思いを寄せていた。死期が近づいた時、夢の中でがんが奇跡的に治り幸せな生活を営む夢を見る。

同上

今回の主人公、真理子さんもまた不幸な境遇から、懸命に努力して美容師の職を得た頑張り屋。そんな彼女が若いのになぜか末期ガンで入院中という・・・もうここまでで十分悲しすぎるわけですが、ここから奇跡が起きてガンが治り、新しい生活を始めることになり・・・というのがあらすじです。ここまでの二つのストーリーとは異なる展開を描いてみせる、百田さんの多才ぶりが遺憾なく発揮されている作品です。真理子さん・・・幸せだったのかな?そうであってほしいな、と心から思える感動の一作です。

第四話 タクシー

30歳になる依子はクリスマス・イブの夜に酔っぱらって一人でタクシーに乗り込む。そこでタクシー運転手に、昔本当に好きになった男島尾のことを語りはじめる。

同上より若干改編

旅先で出会った男女のストーリー。ちょっとした「嘘」をついたことから、どこかで訂正しなければ・・・と焦る主人公の依子さん。架空の職業の彼女を好きになる、お相手の島尾。彼に真実を言わなければ・・・と決意した日に、「会えない」という連絡が入り、思いを断ち切る依子さん。それでも彼を諦めきれず、こうして見知らぬタクシーの運転手にこぼすわけですが・・・というお話。もちろん実際にはないかもしれませんが、全くの赤の他人だからこそ、いろいろ話せる、なんてのは「ありそう」ですよね。ましてや、黙って自分の話を聞いてくれる運転手なら尚更です。そして最後に訪れるサプライズ。百田さんの腕が冴えまくっていることが伝わってくる一作。

第五話 サンタクロース

優しい旦那と4人の子供に囲まれて幸せな家庭を営む和子。しかし過去にとても辛い時期があり、その苦難を乗り越えて今がある。両親を失い、最愛の婚約者を失い、お腹の子供と二人だけになってしまったのだ。クリスマス・イブの夜その時の辛い経験を初めて今の夫賢治に語るのだった。

同上

最後は「家族」もの。私はこの「家族」がテーマの作品に弱くて、しかもこれがラストですからね。いやー、こう来たか!と唸らずにはいられない作品でした。ここでも主人公の和子さんには、夫にも言えない過去の苦悩があった。思いを決してそれを夫に告白していくわけですが・・・というのがあらすじ。きっと子どもたちにもお二人の「愛情」はしっかり伝わっていると思います。特に長男くんは反抗期真っ盛りですが、絶対にしっかりとした青年に成長していくだろうと、未来へ向けた「光」を感じつつエンドロールを迎えます。


名作の法則(AIやチャットGPTには不可能でしょう、きっと)

私の考える、名作の法則(というほどでもないですが・・・汗)は「続きが気になる」「いいところで終わる」ということ。ハリウッド映画の法則にもあるように、いい映画は先のような法則で作られているように思います。今回の5作品もすべて、とてもいい場面で終了し、余韻を感じながら、「もうちょっと続きが気になるな」というところで締めくくられています。

そして最後に残るのは「温まった心」でしょうか。この爽快感というか、読後のほんのり温かくなる気持ちはAIやチャットGPT云々には決して出来ない芸当ではないかな、と思います。そりゃ、彼らに「感動する話を書いて」と言えば、書くんでしょうけど、それって本当に感動するの?って話ですよね。まだまだAIが書いたにして「泣けるよね」の域を出ないと思うんですよね。

今こそ、もっと人に優しくなる時代に!

さて、ラストの締めくくりですが、偉そうなことを書きたいと思います。先日の映画「あの花が咲く丘で、また君に出会えたら」でも書きましたが、そして今回の「輝く夜」といい、「人に優しく」がなぜかテーマになっているような気がします。そして何より、当たり前なんですが、今こそ必要なテーマなのかな、と思います。なんだか、ちょっと大丈夫か、日本!?って出来事があまりにも多すぎるように思いませんか?

もちろん私のような一介の素人が大きな事ができるわけもないのですが、身の回り数メートルの範囲なら、なんとか出来るはず。自分と関わる人たちだけでも、こうした気持ちをもって接する、いや、行動をせずとも「思うこと」から始めるだけでもいいので、少しでもこうした気持ちを持つ人が増えていけば、今よりちょっとは心温かい世界になれるかもしれないのにな、なんて思いました。ま、映画や本に影響を受けやすいだけかもしれませんが・・・。でも、こうした「心の教養」って今こそ必要なのではないでしょうかね。じゃ、何が出来るのか・・・は、これから考えていかなければならない課題ではありますけどね。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。やっぱりこうした心が温まる話っていいですよね。すっかり百田さんの作った世界観にどっぷり浸かっております。皆さんも素晴らしいクリスマス&2023年の年末でありますように。

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