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偉大なセントラル・バンカーの教訓

2023年、メディアの報道では余り触れられていないようですが、偉大なセントラル・バンカーの講演(*1)がありました。

(*1) Seven Reflections on Japan's Economy, Monetary Policy, and the Bank of Japan
Speech at the Center on Japanese Economy and Business, Columbia University in New York
WAKATABE Masazumi, Deputy Governor of the Bank of Japan
February 27, 2023
https://www.boj.or.jp/en/about/press/koen_2023/data/ko230228a1.pdf

素晴らしい内容ですので、ぜひ、原典にあたっていただきたいです。
僕の拙い英語力ではありますが、簡単なまとめを作りました。

(内容が良かった、気に入ったなど、よろしければ、スキ、共有、サポートをお願いします)

日本経済、金融政策、日本銀行に関する7つの考察

考察 #1: チームワークがすべて
考察 #2: 予想外の事態を想定して準備するが、完全な先見性は期待しない
考察 #3: 集中力を維持しながら、変化に適応する
考察 #4: 研究は不可欠であり、研究には経済学が不可欠ですが、それだけではありません
考察 #5: 日本はエキサイティングな研究テーマを提供しています
考察 #6: コミュニケーションは絶対に必要で、非常に重要ですが、本当に難しいものです
考察 # 7: 過去から学び、未来に備える

考察 #1: チームワークがすべて

2つの視点から挙げられています。
1つ目が中央銀行で働く人々の分業の重要性です。
2つ目は政府と中央銀行の協調です。危機の際に、とても重要である、と述べられています。
脚注2で、スタンレイ・フィッシャー(植田和男日銀総裁候補のMITでの指導教員)を引用し、中央銀行は、手段の独立性は持つが、目標の独立性は保持しない、という主張を紹介されています。この点は、日本の多くのメディアでは、目標と手段を分けずに中銀の独立性に言及することが多く、残念です。

考察 #2: 予想外の事態を想定して準備するが、完全な先見性は期待しない

新しい状況から学び続けることの重要性について、言及されています。
自然災害、米中貿易摩擦、消費増税、COVID-19のパンデミック、ロシアのウクライナ侵攻などのショックに日本経済が打撃を受けたが、政府との協調で、雇用者数の減少などをある程度抑制できた、と振り返っておられます。
雇用環境に言及することが黒田日銀になってから、増えたように感じます。
それ以前の日銀は、雇用環境なんて「知らん顔総裁」(任期満了前に辞任なさり、円安株高を招いたとか)だったような印象を持っています。

考察 #3: 集中力を維持しながら、変化に適応する

中央銀行の歴史を振り返り、決済システム、最後の貸し手、経済・金融危機対応が求められてきたこと、今はデジタル通貨などの新しい課題への対応が求められていることに触れられています。

考察 #4: 研究は不可欠であり、研究には経済学が不可欠ですが、それだけではありません

経済学と中央銀行には双方向の関係性がある、と述べられています。
クルーグマン、バーナンキ(いずれも、ノーベル経済学賞受賞)らがデフレ脱却への提案をし、それが、日銀のインフレ目標採用(2013年)に役立った、とも。
最先端の学術研究から最適なものを選び出すことや、経済・金融分析に様々なデータ、アンケートやインタビューの活用が重要である、と。

考察 #5: 日本はエキサイティングな研究テーマを提供しています

ゼロ金利制約、インフレ期待の形成に触れられています。
最も興味がある話題として「デフレはなぜ悪いのか?」を取り上げています。
実際に「日本企業は長引くデフレの下で販売価格を引き上げることができなかったため、賃金を上げることができず、コスト削減に多大な努力を払わなければなかった」ことを挙げています。
デフレとは言えない状況で賃上げが進んでいる昨今の日本の状況と整合的です。

考察 #6: コミュニケーションは絶対に必要で、非常に重要ですが、本当に難しいものです

重要性と難しさを指摘され、中央銀行のコミュニケーションは「終わりなき探求」、と。

考察 # 7: 過去から学び、未来に備える

日本化(低インフレ、低成長、低金利)について、6つの視点から、今後を展望されています。
第一:政府の役割の増大。
第二:経済成長率の収斂。
第三:グローバル化の終焉(または脱グローバル化)
第四:人口動態の変化
第五:脱炭素社会への移行
第六:戦時経済の開始

興味深いのは、第一の視点で触れている、物価上昇率と政府支出や政府債務の対GDP比の間には、明確な関係が見られない、という図表7,8です。

コストプッシュ・インフレの性質や人口動態の影響に関する考察も興味深い内容が書かれています。

最後に、長い間デフレに苦しんだ日本経済が、2013年の物価安定目標導入後の持続的な金融緩和により、実体経済にプラスの効果をもたらしたことを述べて、結ばれています。

感想

僕が言うのも変ですが、とにかく、5年間、ありがとうございました。そして、お疲れさまでした!(下界に戻られたら、また、ご一緒したいです)

「川を登り、海を渡れ」とは、とある方の言葉です。
歴史をさかのぼり、海外に目を向けること、と受け止めています。
若田部副総裁のご講演は、この点から見ても素晴らしい内容だと思います。

今回のご講演で使われた図表の多くが、2022年12月3日の講演資料の図表(*2)に掲載されていますので、併せてご覧になることをお勧めいたします。

(*2) 金融政策の未来:貨幣経済学の歴史に学ぶ
景気循環学会第38回大会における基調講演 ( 日本銀行,若田部副総裁,2022.12.03)
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2022/data/ko221203a2.pdf

図表出典:(*2)

また、2013年からの金融政策の歴史や足下の経済状況を振り返るうえで、有益な内容を、若田部副総裁の講演から得ることもできます。

(*3) 最近の金融経済情勢と金融政策運営
静岡県金融経済懇談会における挨拶
(日本銀行,若田部副総裁, 2023.02.02)
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2023/ko230202a.htm

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