（この育児Q＆Aは『チャイルドヘルス　2023年4月号』に掲載されたものです）

はじめに

『チャイルドヘルス』は，子どもの保健と育児を支援する専門誌として，毎号，子どもにかかわる専門職の皆さんに役立つ情報をお届けしています。
本誌「育児Q&A」のコーナーでは，子どもの保健や育児等に関する質問について，編集委員の先生方を中心に回答しています。
noteでは，過去の「育児Q&A」をご紹介していきます！

Question

4 歳になる息子は，2 歳頃から乗り物酔いをするようになり，自動車に乗るたびに吐いてしまいます。
先日は， 電車でも酔ってしまいました。酔いを軽くする方法はあるでしょうか。

Answer

乗り物酔いは 4～13 歳で起こりやすく，特に 6～9 歳でよく起こるとされています（注1）。
思春期を過ぎると減っていきますが， 起立性調節障害や片頭痛のあるお子さんは乗り物に酔いやすいことがわかっています。

乗り物酔いが起こる理由はまだはっきりわかってはいませんが，脳の空間把握機能と視覚情報にずれが生じるためではないかとされています（注2）。
特に頭が揺れることで酔いやすくなることがわかっています。車外前方の景色が見える席では，車の動きを予測して体を預けられるため頭の揺れが減り，酔いにくいです。運転手が車に酔いにくい理由でもあります。助手席も景色が見やすくお勧めです。

自家用車の移動で移動ルートが選べるのであれば，カーブの多い道は揺れが大きくなるため避けるとよいでしょう。また，より低い位置で頭を背もたれに付けるほど頭が揺れにくいため酔いにくくなります。ヘッドレストの使用も一案です。

バスに乗るなら後方座席より前の座席がお勧めです。バスの場合には後部にエンジンが搭載されていて揺れがより強く，酔いやすいためです。船では中央に近い位置，飛行機なら翼の上だと揺れの中心に近く揺れが少ないため，酔いやすい場合にはお勧めです。

また，遠くの景色を見るのも効果的です。遠くの景色を見ることで，頭が揺れても視線を保てるためです。乗り物の中で本を読むと酔いやすいですが，これは乗り物の揺れを感じる頭の感覚と文字を追いかける視線の動きがずれるためです。そのほかには，体調不良や睡眠不足で疲れているとき，また空腹の場合に酔いやすいことも知られており，長距離の移動の前にはしっかりと睡眠をとって体調を整えておくことや，出発前に軽くお腹を満たしておくことも大切です。ただし，乳製品や炭酸飲料は避けたほうがよいという意見もあります（注3）。

一番効果的な乗り物酔いの予防は寝てしまうことです。脳の空間把握機能自体がお休みしてしまうため，視覚とのずれも起きず，乗り物酔いも起きようがないためです。

なお，酔い止め薬も有用な方法の一つです。ただし，酔い止めの成分には脳内で鎮静作用をもつ第 1 世代の抗ヒスタミン薬が用いられています。この第 1 世代の抗ヒスタミン薬は子どもではけいれんを起こすリスクがあるため，熱性けいれんの既往がある幼児や発熱している場合には注意が必要です。
熱性けいれんは，おおむね小学校に入る頃になると起きにくくなるので，酔い止めを飲ませてもいいのは小学校以上のお子さんと考えればよいでしょう。なお，飲ませる場合は乗車 30 分前くらいに飲ませます。

酔い止め以外にはショウガが効く， という話や手首の指圧が効く，という話もありますが，いずれも十分な医学的根拠はありません。一方で乗り物酔いの治療にはプラセボ効果が強いこともわかっているため（注4），信じて使えば，意外に効果があるかもしれません。

最後に，乗り物酔いを起こしたときの対処について記載します。
もし停車できる状況であればこまめに停車し， 外に出て少し散歩するのが有効です。また気分不快感から注意をそらせるように歌ったりおしゃべりすることや， 本やゲームではなく車外の景色を見せる，額に冷たいタオルを当てる，なども有効です。

（佐久総合病院佐久医療センター小児科/坂本昌彦）

文献

注1．Huppert D, et al.：Survey of motion sickness susceptibility in children and adolescents aged 3 months to 18 years. J Neurol 266（Suppl 1）： 65—73, 2019

注2．宇野敦彦．乗り物酔い（動揺病）．小児科臨床 7 2（増刊号 ）：1 2 9 5— 1297，2019

注3．矢部多加夫．乗り物酔いの相談にはどう答えるか？ JOHNS 28：364— 365，2012

注4．Horing B, et al.：Reduction of motion sickness with an enhanced placebo instruction：an experimental study with healthy participants. Psycho- som Med 75：497—504, 2013

おわりに

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