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ミニ読書記録⑤『サロメ』

【 不道徳をたしなむ 】

⁡冬の話ですが、家庭内パンデミックにより数日、床に伏していました。
「こういう時こそ、小説の出番でしょ!」ということで、積読してあった原田マハの『サロメ』を手に取った。

⁡19世紀末のイギリスを代表する作家、オスカー・ワイルド。オスカーに見出された夭折の画家オーブリー・ビアズリー。この2人を取り上げたアート小説。

⁡タイトル『サロメ』とは、そもそも新約聖書の中にある短い記述。世紀末を生きる芸術家たちを魅了し次々と絵や小説のテーマに選ばれた、禁断の恋に狂った舞姫の名。

⁡オスカー・ワイルドもサロメに魅せられたひとり。その『サロメ』に悪魔的な挿絵を提供したことで一躍有名になったのがオーブリー。表紙の恐ろしくも美しい絵がそれです。一度見たら忘れられない。怖いけど、惹かれる。

ワイルドの〈サロメ〉には、宗教的観念と道義に縛られ、秩序と道徳を重んじたヴィクトリア朝イギリスにおけるタブーが、これでもかというほどに盛り込まれている。男色、近親相姦、少女愛、聖人を殺害してその首に口付けするという究極の残忍性とエロスー。まさに稀代のトリックスター、オスカー・ワイルドの独壇場である。

『サロメ』本文より

と、ここまでは史実の話。

⁡表紙の絵とは違う未発見のオーブリー真筆の「サロメ」が発見された、という謎からストーリーは始まる。描かれるのは、主役の2人に加え、女優を目指すオーブリーの姉・メイベル。そして、オスカーの同性の恋人、美青年のダニエル。四つ巴の愛憎劇。

「史実とノンフィクションの絶妙な組み合わせ、そのあわいに自由にはばたく想像の翼が原田作品の大きな魅力であることは、誰も異存はあるまい。」

『サロメ』解説より

この解説には頷くしかない。大して知識のない私もズブズブと足を取られるようにその世界に沈み込んだ。

⁡「うまいなあ」と唸るのが、〈サロメ〉が抱えるタブーなテーマの数々が、そのまま彼ら4人の物語になぞらえてあること。ラストの重ね合わせ方が、見事!としか言いようがない。

それにしても、原田マハを読むといつも思う。芸術家というのはこんなに痛々しさを味合わなければその名を轟かす作品が生み出せないのだろうか。いや、フィクションって分かってるんですけどね(笑)⁡特にこの「サロメ」は、穏やかな日常を尊ぶ人間から見るとかなり狂った世界観。決してスカッとする話ではないのだけど、狂気寄りの人間の気持ちを体験する面白さはある。

⁡そしてこの、文字で読むからこその耽美な世界。漫画や実写ではこの妖しさやエロスが直接的で単純なものになってしまうだろうなと。こんな追体験は、やっぱり小説じゃないとできないはず。

【あらゆる芸術は不道徳】らしいですよ

ひゃーっ!

久しぶりに没入して楽しめた。ありがとう原田マハ、ありがとう風邪。


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