ノンソロ・ピッツア・ルーナ

　夜の道を行きます

　自転車に乗って行きます

　あなたはスコーンを焼きます

　その三角形の頂点で誰か

　嫌な奴を殺せるように

　ですが最悪です

　ピッツアでは人を殺せません

　幸せの象徴だからです

　私達は美味しいものを適量食べられるのが良いのです

　いくらピッツアが好物だったとしても丸々一枚食べるのは苦しいです

　でもそれが一人だとわかりません。丸々一枚を苦しみながら食べることになるので

　ピッツアとは誰かと食べてこその幸せの形です

　美味しいものを誰かと食べられるというのは幸せです

　ですがそこに至るまでには大きな選択が要ります

　手放すこと

　痩せていること

　ピッツアのカロリーはとても高く、普段カロリーを抑えて食べているあなたの努力は台無しになります。あなたはどんどん太って醜くなります。

　一人で好きなだけ食べることと、一人の時間

　あなたはその時間ピッツアを食べずとも、焼肉だとかありったけのパンだとか、別の美味しいものを一日中一人で食べて、独り占め出来たかもしれません。それらの予定を全てキャンセルして、誰かと食べるためにお皿を買いに行ったり、二人分の手料理を用意したり時間を使わなければなりません。

　そしてお腹がいっぱいでも

　吐かないこと

　太るのが嫌なのなら、満腹が気持ち悪いのならば、吐いてしまえば良い。

　ですが

　嘘を吐かないこと

　あなたは用事があると嘘を吐いて人と食べることを避けることも出来ます。

　誰かと食べた後に喉に指を突っ込んで

　食べたということを嘘にすることも出来ます。

　それらを手放すこと

　放した手を繋いで

　あなたは食後に誰かと夜の街を散歩することも出来ます。

　それはとても気持ちが良いものです。

　クロワッサンでも人を殺すことが出来ません

　ピッツアと同じで頂点が柔らか過ぎます

　スコーンくらいの硬さが丁度良いのですが

　今日のあなたはそれでも人を殺せません

　痩せたいあなたは普段スコーンを焼くのに低カロリーの粉を使いますが、

　人にあげるものにはきちんと普通のものを使い美味しく仕上げました

　あなたはそれを食べないということも出来ました

　わざわざバターを買いに行かないことも出来ました

　しかしあなたは差し出されたクロワッサンとスコーンを

　半分ずつ食べました

　きちんとバターを使ったので

　スコーンは柔らかく

　ほろほろと口の中で蕩けて

　あなたの喉を切っ裂くことは出来ません

　ですので最悪です

　昼過ぎまで誰かと一緒に寝て

　朝ご飯にクロワッサンとスコーンを食べるのは

　幸せの象徴だからです

　どんどんと太っていってしまいます

　それなのにあなたはそれを選びました

　ですが太るのはひとりではなさそうです

　夜の道を行きます

　自転車に乗って行きます

　あなたはここでピッツアを吐いて帰ることも

　キャンセルした焼肉やパンを改めて食べることも

　出来るわけですが

　月を見て帰ります

　昼に二人乗りで通った道を

　他に道はあれど真っ直ぐに

　欠けた月の

　半分はあなたの中に

　もう半分は独り占めではなく

　あなたの好きな誰かの中に

　太った体で漕ぐペダルは重たくて最悪です

　が幸い

　あなたは何処にでも行けます

　取り敢えずイタリアには行きました

　クロワッサンを食べたので三日月にもフランスにも行きました

　次は何処に行こうか

　下り坂になりました

　太っていてるので自転車には勢いがつきます

　嘘を吐かない

　あなたの強さです

　幸せとはピッツアをひとりで食べないことを選んだ

　あなたの強さの形なのです