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夢を叶えてくれた「ブッラータ」

CRAFTSMAN 2.0を宣言したものの、発表できる具体的なプロジェクトは、もう少し先のこと……。まずは、CHEESE STANDの商品について、改めて書いてみようと思います。

第1回は、CHEESE STANDが国産で初めて製造・販売に成功したブッラータです。以前にもnoteで書いているのですが、そのポストが商品紹介だけになってしまっていたのが、ちょっと心残りだったので、ブッラータへの思いを込めて、リライトしてみたいと思います。

そもそもブッラータってなんだ?

「ブッラータ」とは、イタリアで「バターのような」を意味するフレッシュチーズです。ブーツ型のイタリア地図でいうとかかとの部分にあるプーリア州で発祥したチーズで、モッツァレラタイプの生地に、クリームと割いた繊維状のモッツァレラが入っています。

ブッラータを割ると、トロッとしたクリームにまみれたチーズがあふれてきます。この時の繊維状のチーズとクリームのバランスが命。2つが絶妙に馴染むような食感を意識して作っています。

賞味期限が短いチーズなので、食べるタイミングでも味がけっこう変わります。出来たてよりも、賞味期限ギリギリぐらいのブッラータの方が、クリームが酸化発酵して、トロッとおいしいくなると思っています。実際に店舗でお出ししているのも、常温に戻したものを使っています。

天邪鬼な僕と、日本初のブッラータ

CHEESE STANDは、2012年12月、日本で初めてブッラータを製造に成功しました。尊敬するシェフの一人、西麻布HOUSEの谷祐二さんに「作ってみてよ」と言われたのがきっかけです。


当時の日本では、高級百貨店で売っているくらいで、賞味期限が短く空輸のコストもかかるので、1個3000円くらいもして「幻のチーズ」なんて呼ばれていました。

僕自身、ブッラータは、27歳頃にサンフランシスコで初めて食べて「おいしいチーズだな」と思っていて、ビストロやサンドイッチ屋とか、当時のカリフォルニアの先端の店のメニューに入っていたのを覚えていたのですが、イタリアでは作り方を習っていませんでした。それでも、ブッラータを作っている人は、日本にはまだいなかったため、「自分が最初になってみたい」と思い、Youtubeなどを見ながら作り方を勉強して、何度も試行錯誤して試作を繰り返したました。

今考えると、本場イタリアでの作り方も知らないのに、無謀なことやってます。でも、天邪鬼な性格で、誰もやっていないことをやりたいというのが僕の性格。そもそも、奥渋谷なんていう(当時としては)辺鄙なところで、フレッシュチーズを作って販売するCHEESE STANDのコンセプトもその性格から生まれたものなので、自分らしさというのは、考えてやることよりも、直感だったり、楽しいと感じたらやってしまうものなのかな、と思っています。

ブッラータの販売を開始した、翌年3月に「月曜から夜ふかし」という番組に出演させていただくという幸運も重なりました。CHEESE STANDを多くの方に知ってもらえたことで、ブッラータにも注目してもらえて、今も続く「ブッラータのブーム」にも繋がったんだとおもいます。

イノベーションから生まれた「食べられる紐」

CHEESE STANDのブッラータは、ちょっと特殊な形状をしています。ぽてっとしていて可愛らしい。「アニメの『おでんくん』みだいだね」って、よく言われます(おでんくんもいいですが、CHEESE STANDで出している絵本「モッツァーマン」もよろしくお願いします!)。


紐まで食べられるのは完全なるオリジナルなものです。でも、実はこれ、製品段階で生じたある問題を解決するための苦肉の策として生まれたものなんです。

イタリアのプーリアでよく見かけるタイプは、ビニールの紐で結んだもの(これは、昔に葦の茎で縛っていた名残だそうです)か、もしくは、紐がついてない、モッツァレラのようにまんまるとしたものです。

まず、葦で結ぶのは、衛生的にNGだと思いました。食品にビニール紐がついているのって、日本では受け入れられませんし、異物混入の恐れにもなります。紐をつけないブッラータは、チーズが熱い状態で上の部分をちぎって、チーズとクリームを入れ、そのあと熱の力で接着させています。しかしこれは、職人が僕一人だったCHEESE STANDでは、大量に作るのは、コストの面を考えると難しかったのです。

じゃあ、どうしようかって悩んだ末、「それなら紐も食べられるようにしたらいいのでは?」と発想を変え、食べられる紐を試行錯誤して生み出したのです。この紐を作るにはコツがあり、ちょっとした職人技も必要とします(企業秘密なので、この先は割愛しますね)。

日本中に届けた、22万回の「食べる幸せ」

2012年末から2018年まで、およそ22万個のブッラータを作ってきました。いちばん多い時期で、1日300個も使ったことがあります。こんなにもたくさんの方にブッラータを楽しんでいただいているのかと思うと、本当に嬉しい限りです。そして、もしかしたらその分だけの「食べる幸せ」を僕たちは届けられたのではないか、と思うとチーズ職人という仕事は、とても素晴らしい仕事だな、とも思います。

ブッラータは、売り上げの面でも、しっかり貢献してくれて、オウンドメディア「CHEESE STAND Media」をもてたのも、ワインやオリーブなどチーズ以外の商品を置いて、お客さまと生産者さんをつなぐ「& CHEESE STAND」を作れたのも、このブッラータのおかげです。

「誰もやっていない新しいことに挑戦したい」という僕の夢を、ブッラータは、いくつも叶えてくれました。だからこそ、その恩返しとして、これからもブッラータを作り続けていきたい。そして、ただ作り続けるだけでなく、もっとおいしくなるように見直しを続けて、もっと多くの方に「食べる幸せ」を届けたい。

CRAFTSMAN 2.0 を実現していくためにも、ブッラータはCHEESE STANDと、そして僕自身をもっと遠くに連れて行ってくれる、頼りになるチーズだと思っています。

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