建物のストーリーを描いて 人の繋がりを生み出す─岸本千佳 (不動産プランナー)

京都大学平田晃久研究室と京都の建築学生,新建築社で,建築学生のための拠点づくり「北大路プロジェクト」をスタートさせました.その思考を広げるため,学生によるさまざまな専門家へのインタビューを行い,連載として紹介します.
第2回は京都を拠点に不動産業で活躍する岸本千佳さんにお話を伺いました.学生たちよりひとまわり上の世代である岸本さんと,建物の価値を再発見して活用する手法について議論していきます.
インタビューの聞き手は,大須賀嵩幸さん,志藤拓巳さん,吉永和真さん(京都大学 平田研究室M1 ※所属は雑誌掲載時のもの).(編)




目次
●京都はお年寄りと学生のエネルギーに満ちている
●使い手が入り込む余白を残す
●建物のストーリーを共に描く

インタビューの様子.左から志藤さん,岸本さん,大須賀さん.
撮影:吉永和真/平田研究室


京都はお年寄りと学生のエネルギーに満ちている

──岸本さんは東京でのシェアハウス事業を経て京都に戻ってこられています.東京と京都で,ご自身の活動はどのように変化しましたか?

岸本 東京にいたのは3年ほど前までで,5年間で40棟のシェアハウスを運営しました.東京には日常生活にプラスを求めている人が多く,会社と家の往復だけではないサードプレイス的な意味でのシェアハウスの需要がありました.また,ひとりで住むのが不安なのでシェアハウスに住む人も多く,セーフティネットとしての役割もありました.シェアハウスが急激に増えていた当時に対して,横ばいの状態が続く今,京都に戻ってきて感じているのは,シェアハウスに対する需要がかなり違うということです.
京都では,東京でシェアハウスを選ぶような世代の人がすでに結婚して家を購入していることが多く,東京型のシェアハウス事業をそのまま当てはめるのが難しいのです.東京は洋服のような感覚で家を選べる人も多いですが,地方ではもっと切実で,シェアハウスをただ用意するのではなく,ニーズをすくい上げシェアハウスと住まい手を繋ぐ仕組みをしっかりつくらなければいけないと感じました.
京都に即したモデルを考える中で見えてきたのが,お年寄りの家に学生が住む「次代下宿事業」の構想です.

「次代下宿事業」の仕組み.この事業は,シニアの自宅の一室に若者が同居するサービスで,シニアと若者が交流を図ることにより,若者に対しては低廉で質の高い住環境の提供,高齢者に対しては安心で生きがいのある暮らしを実現する.2016年の京都府主催の公募型プロポーザルにより,addSPICEが委託事業者として選ばれた.


京都は学生の街と言われていますが,それはただ学生が多いだけでなく,目的意識をちゃんと持ってわざわざ京都を選んでいる学生が多いのだと私は思います.また,街の人も学生に対して寛容です.京都に昔から住んでいる方は学生が好きで,自分たちが学生を支えているように思っていたりもします.京都は商売人が多く,80〜90歳になっても頭の回転が早い人が多いです.私が住んでいる団地ではお年寄りが多く,皆さん服装もちゃんとして,自転車を乗り回し,文学の話で盛り上がったりと,とても元気です.お年寄りと学生が京都のポテンシャルだと思っていて,私なりのひとつの答えとして,事業を進めています.

大須賀 京都が学生の街というのは,まさに僕たちも着目しているところです.学生は自然に入れ替わっていきますが,共通の目的意識を通じて知恵や財産が蓄積されていき,どんどん豊かなシェアハウスになっていくような仕組みがつくれそうです.

岸本 やはり暮らしに興味がある学生のほうがシェアハウスにも興味を示しますから,建築学生のシェアハウスというのは面白いと思います.今は実践する時代だと思うので,このようなプロジェクトがどんどん増えるとよいですね.


使い手が入り込む余白を残す

──京都では,空き家や使われていない町家の活用が問題となっていますが,それに対して今後どのような取り組みが可能でしょうか?

岸本 私が京都に戻ってきた理由のひとつとして,残すべき価値のある建物が多いということがあります.しかし一方で,そういった物件はなかなか市場に出回らないという難しさもあります.そこで,大家さんや建物の持ち主と住まい手が直接関わる仕組みが必要だと思い「次代下宿事業」などの事業に取り組んでいます.
そこで見えてきたのは,建物の売り手には,建物を大切に思い,壊したくないという方が多く,一方で投資家などの建物の買い手も,利回りだけでなく,よい建物を残したいと考える人が多いことです.売り手にも買い手にも,建物をしっかり使いたいという共通の意識があり,京都で活動する身としては救われる思いです.
また,「カリアゲJAPAN」(「カリアゲプロジェクト」『新建築住宅特集』2016年7月号掲載)の仕組みを利用した,「BASEMENT KYOTO」というアーティストの住居兼制作スタジオを大量につくるプロジェクトを進めています.TANKという設計施工の会社と,「京都アートホステル kumagusuku」『新建築』2016年3月号掲載を手掛けられた美術家の矢津吉隆さんと協働し,TANKが空き家を借り上げ,矢津さんがアーティストの立場から,私がシェアハウスや住宅の管理をやっている立場から,3者で意見を言い合ってつくり,それがそのまま空き家対策にもなるという構図です.その時に大事にしているのは,こちらで決めつけてつくり切ってしまわずに,余白を残しておくことです.

「BASEMENT KYOTO」の仕組み.京都の空き家オーナーから空き家を現状のまま借り上げ,アーティストやものづくりをするクリエイターが住居兼制作スタジオとして使用できるよう改修.改装自由・原状回復不要の物件として貸し出す.オーナーは自己負担をすることなく,固定の収入を得ることができる.

ものをつくる人たちは最後は自分の手でやりたいという人が多いので,素地だけつくってあとは使う人次第にした方が,彼らの心をくすぐることができる.それに京都にはお茶やお花の文化が残っていることもあってか,一般人のセンスがいいんです.上手く使いこなせる人が多いので,人が入れ替わっても楽しいし,京都はそれくらい自由な方が合っているんだと思います.

大須賀 使い手の参加という点では,「北大路プロジェクト」ではつくり手と住み手と使い手がいっしょくたになってやっていることが興味深いのではないかと思います.一緒につくってきたから,自然とここに集まる流れができるのではないでしょうか.

岸本 つくる時からファンを増やすのは私も大事にしていることです.定員があって最初は入れなくても,気になっていてイベントに来てくれたりするような小さなファンがたくさんいる状態が大事だと思います.そうすれば募集しなくても,定員が空いたときにスッと次の人が入ってきて,場所としての魅力も増すと思いますよ.


建物のストーリーを共に描く

──「BASEMENT KYOTO」のように,さまざまな「場」を協働でつくる取り組みが増えてきていると思います.今後,建築家の立ち位置はどのように変わっていくと思われますか?

岸本 私は普段から建築家と一緒に仕事をし,場合によっては建築家を選ぶ立場となることもあります.そこでは,「こういう人に使ってもらいたい」「10年後こうなっていてほしい」というイメージを共有できることを大事にしています.
やはり,設計以外の能力もすごく求められていると思います.
私の仕事は,大工さんや建築家よりも建物と関わる時間が長く,店子さんなど建物を託す人も決めることができます.だからいちばん大事なのは建物ができた時ではなく,実際にどう使われているかであって,そのストーリーをいかに描くことができるかが重要だと感じています.

志藤 僕たちも設計をしていて,完成して最後に竣工写真をきれいに撮って終わりではなく,そこからどう使われていくかが大事になってきていると感じています.

岸本 10年前は「不動産」をやっているというだけで建築業界であまり認められていない感覚がありましたが,今は時代が変わってきていると感じています.
特に自分より下の世代で共感してくれる人が多いです.私たちの世代はリノベーション第2世代だと思っていて,第1世代の東京R不動産ブルースタジオの活躍を学生時代から見ていました.彼らが新しい不動産のあり方を開拓したことは前提としてあって,そこから次の世代の私たちは何を考えることができるのか.同世代の建築業界の仲間と仕事で顔を合わすたびに,よくそんな議論をしています.

吉永 卒業設計でリノベーションをテーマにしましたが,ただ設計するだけでよいのかという疑問がありました.これからはいろいろな視点を持って人を巻き込みながらストーリーをつくっていくことが大事なのだと思います.

岸本 時代に柔軟であることが私たち以降の世代では求められているように思います.京都なら京都に即した事業が求められるし,リノベーションなら建物に即したことを考えなければならない.京都では,生かすことがひとつのテーマになるのかもしれませんね.

志藤 「北大路プロジェクト」もリノベーションのプロジェクトですが,既存の建物があることで,学生からの意見もリアリティを伴うものになっています.現在の案を進めるにあたり,不要となる壁や床を取り除いた後,今度は残った部分をきっかけとして新たな意見が生まれ,案が変化していくことを期待しています.リノベーションのプロジェクトであることが,過程を複層化し,多くの議論を起こすことに繋がっていると思います.本日はありがとうございました.
(2017年2月20日, addSPICEにて  文責:平田研究室)


岸本千佳(きしもと・ちか)
1985年京都府生まれ.2009年滋賀県立大学環境建築デザイン学科卒業後,東京の不動産ベンチャーに入社.2014年京都でaddSPICEを設立.不動産企画・仲介・管理を一括で受け,建物の有効活用を業とする.他にも,DIYPKYOTO,京都移住計画メンバーとしても活動.暮らしに関する執筆も行う.著書に『もし京都が東京だったらマップ』(イースト新書Q,2016年).



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●「北大路ハウス」住人による日々の生活での学びや気づき
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北大路ハウス
所在地 京都府京都市北区紫竹上梅ノ木町28(MAP)
最寄駅 地下鉄烏丸線「北大路駅」徒歩10分/市バス「上堀川」下車3分
連絡先 
kitaoji.house@japan-architect.co.jp




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