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Dundee Unitedが育成クラブへ進化するまで

今シーズン、Dundee Unitedはスコットランドで最も多くのユース出身選手をデビューさせたクラブでした。10名がメンバー入りして5名がデビューし、ローンに出ている選手たちも活躍し始めています。

その中心にいるのがアカデミー・ダイレクターのAndy Goldie氏です。

Goldie氏は「(一定の成功を収めることができたが)アカデミー組織によって開発されたスタイルを持った選手たちがトップチームで持続的なインパクトを残し、大きなクラブが彼らに大金を支払うまで油断できない。」と言います。

Dundeeのアカデミーはスコットランドで最も成功した育成組織となりましたが、彼らのゴールは「チャンピオンズリーグに出る選手を輩出すること」です。

契機

Dundeeのオーナーはアメリカ人のMark Ogren氏で、彼がクラブの株式を取得した2ヶ月後にSDのTony Asghar氏によってGoldie氏がアカデミーダイレクターに就任しました。

就任当初アカデミーはピッチの中央に大きい水溜りができていて、選手とコーチの比率も良くない状態でした。

Dundeeが栄華を誇ったのは80年代に遡ります。地元出身の選手たちで魅力的なサッカーを展開し、ヨーロッパの大会に出場した1980年代のような栄光を取り戻す為にアカデミー重視の投資を積極的に行っていきました。

Dundeeのスタイルを体現したワードが「The ARABS - aggressive(積極性), relentless(執着心), awareness(意識), and bravery(勇気)」です。これらの項目は定性的なパラメータとしてアカデミーに落とし込まれ、選手たちはこれを体現する存在として戦います。

アイデアとビジョン

Dundeeは一つのシステムに適応する選手よりどんな環境にも適応できる選手を育成することを求めています。Goldie氏が就任した際はコーチの言ったことをロボットのようにこなす選手ばかりだった為、そういった選手は契約解除していきました。

スコットランドの育成はオランダやスペインのメソッドを実践していましたが、フロントランナーとして自らのスタイルを確立しないと10年以上の遅れを取り戻せないとGoldie氏は危機感を持っています。

Head of ResearchにDan Parnell教授(博士)が就任し、パルマが主導するユースチーム間の選手育成に関して知見をシェアしたりテストゲームを行うInternational Youth Methodological Boardのメンバーとなりました。 (他メンバー:マルセイユ・ライプツィヒ・Maribor(スロベニア)・ブラガ(ポルトガル)・ヴィジャレアル・フィラデルフィアユニオン(アメリカ))

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SDのTony Asghar氏はアカデミースタッフの育成や発展にも注力したいと考えており、アカデミー出身の指導者がトップチームの監督を務めるべきだと考えています。W杯やチャンピオンズリーグを優勝したチームは、地元出身の監督が指揮しているケースが大半だというのが理由です。

例として、ランゲニック氏がドイツで多大な影響力を持ったおかげで、2000年代まで戦術的な側面をリードするコーチがそれほど多くなかったドイツのサッカー環境を変えました。そこにクロップやトゥヘル、ナーゲルスマン、フリックが登場しました。彼らは全員ドイツ国内のエコシステムで育った指導者たちです。

発展

Goldie氏が行った最初の改革は伝統的なユースのヘッドを置かなかったことです。その代わりにTam Courts氏がHead of Tactical Performanceとして就任し、全カテゴリーのコーチが一貫した育成戦略に沿って働けるようにしました。Courts氏はアマチュアのKelty Heartsから加入し、自分のメソッドを確立し地域リーグで5回優勝した経験がある人物です。

Courts氏は独立系コンサルとしてWest Ham、Sheffield United、オランダのNAC Bredaとサッカー産業における戦略的提案に関するディスカッションに加わっていましたが、Goldie氏とのディスカッションに共感してDundeeに参画することになりました。

Courts氏のトレーニングは6つの「R(Receives、Regains、Releases、Retains、Runs、Risks)」を中心に行われており、主に1対1で相手選手に勝利するスキルの向上を目指しています。

この指標を基に個別選手のパフォーマンスプランに注力しており、11歳以下から16歳以下までのカテゴリーで過去6ヶ月の成長速度を計測しています。

このシステムを通じて17歳のLewis Neilsonや21歳のLogan Chalmersなど、アカデミー出身の選手たちが活躍するようになりました。

Courts氏は16歳の急成長中のセンターバックがいたとして、アカデミーレベルではボールを運べるしロングボールも通るものの、プレー強度が高い中でのサバイバルスキルが磨かれることは難しいと考えています。

そこで若手の出場機会を担保する為、スコットランド3部リーグのクラブと提携しユース選手たちをローンに出しています。

Courts氏は5年後にDundee Unitedのトップチームの半数がアカデミー出身になることを現実的な目標として置いています。しかし、18歳から23歳でロードマップもなく管理もされない状態になると選手たちが流出してしまうので、彼らの成長する筋道を立てる為に中長期で能動的なプランを考える必要があると説いています。

Courts氏は選手の発展にはアイデアとシステムだけでは成立せず、個人間の絆が重要になり、正しいポジションに正しい人間を配置することが重要だと語ります。

キャプテンを誰にするか、誰がどの役割をこなすか、どうすると正しいコミュニケーションを取れるのか、それを決めていくことで選手たちがチームとして発展していく型を作っていくようです。

既にプロデビューしているLewisを中盤からセンターバックに戻した時、彼は中央のラインをドリブルで上がることでスペースを作り、他の選手がそれを自動的に埋めていました。練習でパターン化していた訳ではなく、選手たちが自発的にやるべきことをやっていたようです。

通常はパターンを決めてそれをやるだけですが、それでは選手の発展性において十分ではないと考えています。正しい人物を正しい配置にし、選手間で考えられるような習慣をつけていくことが大切だとDundeeのアカデミーチームは考えています。

まとめ・指導の哲学について

選手たちは彼らの強みや弱み、改善箇所、ロールモデルなどを記入し指導者に提出します。選手たちが十分に自己分析できている場合、練習のうち20分間は選手たちが自ら練習を組み立てることを許容しています。これは選手に説明責任を与えるものです。

選手たちを対等な存在と捉え、彼らに自分のことを説明してもらうことで言い訳のできない環境を選手たちで作っていきます。

Goldie氏はリーダーを育てるのに一番良い方法は若い時から試合に関する彼らの考えを聞くことだと言います。何が彼らを駆り立てて、何をしている時が一番活躍できて、どの選手のプレーを見るのが好きかなど。

Goldie氏「我々は未だに監督やコーチが絶対的な権力を持ち、選手たちは自分たちのことを説明する機会が無いという状況を目にします。なぜ彼らのパフォーマンスが落ちていて、どうすれば改善できるかなど。我々のアカデミーでは監督やコーチが選手にどんな期待をしているかフェアなコミュニケーションを通じて選手に伝え、選手たちも自分たちの課題や強みが何なのか表現する機会を大切にしています。」

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