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「マッサゲタイの戦女王」刊行記念エッセイ 第六回 ミトラ教について

ペルシア人の宗教は拝火教(ゾロアスター教)でしたが、国教としたのは最後のサーサーン朝からで、アケメネス朝からパルティア王国時代あたりまでは、伝統的な多神教も同様に信仰されていましたの。本書では太陽と契約の神ミトラ、水の女神アナ―ヒタ―、軍神ウルスラグナなどが言及されています。

支配層から庶民まで一番人気のあったのは、主神で創造神のアフラマツダ神よりも、善神ミトラ(ミスラ)神でした。太陽神であり、正義と誓約の神さまで、ほかにもいろんな属性がありますが。あまり人気があったのでギリシアやローマ人にも信仰され、キリスト教の秘儀や慣習にも影響を与えています。

全智全善の絶対神アフラマツダよりも、身近な信仰の対象であったようです。どんな神さまだったかというと

☆☆☆リグ・ヴェーダの英訳版からの引用です。(誤訳御免)

ミトラ神、大地の主、その顔はテシュトリヤ(シリウス)星の如く輝き、神々の住まう光明の宮殿ガロンマーナより大地の果てまで照らしたまう。

黄金の兜と銀の鎖帷子、鋭く長い鑓と弓矢を携え、黄金の前蹄と銀の後蹄を履かせた四頭の白馬をくびきにおいた、黄金の車輪と銀の車軸の美しき戦車を駆る。

その手には、百の鋲と百の刃を備え真鍮で柄を巻いた、先端の重たい、強大かつ最強、常勝の黄金槌ヴァズラを揮い、人類に破壊をもたらす。

彼の先駆けは、鋭い牙と真鍮の背中と尾と爪を持ち、憤怒に身を焦がす巨猪に身を変えたヴェレスラグーナ(ウルスラグナ神・勝利の神)。

彼の背後には聖なる炎が気品と栄光の輝きを放つ。

戦車を守る千の骨弓は牡牛の腱を弦つるとし、千の矢にはカールカーシャ鳥の矢羽、鏃には木の柄を骨と鉄の薄片で覆った黄金の切っ先。

鋭い千の鑓、千の銅鏃、千の両刃剣……

☆☆☆

針鼠化した不動明王かと思いました。

金と銀と破壊力の絶大な武器が大好きなのですね!

「黄金槌」と訳しましたが、実は英語訳文では「棍棒」でした。「黄金の棍棒」では、わたくしの美意識が許さなかったので意訳(;´・ω・)

ミスラの棍棒はヴァズラという名前ですが、インドラの雷杖が「ヴァジュラ」なのでペルシアとインドの神さまが同起源なのが、ここでもわかります。インドにおけるミスラ神は、やがて阿修羅へと変遷していくのですが、その光と雷、正義と破壊の属性は、むしろシヴァやインドラに近かったのだと思われます。

「人類に破壊をもたらす」ってそう書いてあるんですが、かれが叩くのは悪神アーリマン(アンラマンユ)とその眷属なのです。嘘つきは大地の果てまで追いかけられて罰を受けるそうです。

とにかく怒らしたら怖い神様です。

ギリシア神話なら太陽神アポロン、キリスト教だと正義と審判と殺戮の大天使ミカエルに該当するのでしょうか。

ローマ兵に信仰されていたときは、青年の姿に先折れのとんがり帽子をかぶって、素手で牡牛をねじ伏せたりしておいででしたけども。人間フォームのときは、わりとイケメンでおられます。

どちらにしても、悪い子はおしおきされますので、現代日本人の感覚では「触らぬ神に祟りなし」

日本には、気分で荒ぶる神様はいても、人間の罪を責めて罰を下したり、無理矢理言うことを聞かせる神様はいないので、日本人はほんとうに気が楽だと思います。

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