書評・安田浩一・安田菜津紀『外国人差別の現場』朝日新書

世の中に社会問題は数多くあって、どうにかしなければいけないよなと思うけれども、たいていほとんど何もできない。日々の暮らしで精一杯で、ニュースを追うことすらままならない。だからと言って、あきらめるわけにもいかない。よその国の戦争、他人の人権侵害、遠い地域の環境汚染であっても、人道的に許せないというだけではなく、必ず、自分や家族と繋がっているのだ。
 そんなとき、無力感にさいなまれてしまうのは、全か無かを選んでしまうからではないだろうか。全てに関わるか、全部を知らないふりをするか。
 でも、待てよとそこで立ち止まりたい。一部の問題でも、少しでも関心を持ったり関わったりすることで、少しずつ、社会の姿は変わっていけるかもしれないじゃないか。
 そういう思いを持って、社会問題についての本を読んでいる。ちゃんと背景から含めて問題を知るためには、ある程度の情報量が必要なので、勉強するには本が最適だと思う。
 入管施設で亡くなったウィシュマさんのニュースは見ていたし、入管法政府案をめぐる抗議の声もネットを通じて知ってはいた。だが、本書を読み、自分の認識がいかに浅いものであったかを思い知らされた。
 日本の外国人管理についての行政のあり方が、こんなにも人権侵害に満ちたものだったとは知らなかった。そして、知らずにいたことを恥ずかしいと思った。誰かを排除するシステムを持っている社会は、排除されない側にいる人にとっても、生きやすい社会であるはずがない。これはまさに自分の問題だということに、遅まきながら気づいた。そして、遅くたって、気づかないよりき気づいた方がいいに決まっている。
 もう1つ、外国人技能実習生と呼ばれる、低賃金労働者の問題も提示されていた。こちらについても存在は知っていたけれども、これほど現場は無秩序であるとは思っていなかった。そして、国産の洋服を選んで買うことが、労働者の権利を守ることになると認識したいたのだが、そうではないこともわかった。日本で縫製されている洋服も、低賃金外国人労働者からの搾取によって作られているのだったら、それらを選んで買っても、労働者のためにはならない。彼らの置かれている環境を改善してこそ、意味のあることになるのだ。そんなことも知らなかった。
 結局、自分がいたたまれなくなることばかり書かれている本なのだった。けれど、これからは関連ニュースを読み飛ばすことはないだろう。と思っていたら、まさに2022年9月16日に入館施設でカメルーン人男性が亡くなったことに対する判決が出たのだった。

『銀河通信』への寄稿

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?