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孤独のジャズめ。

大学時代、歌手とまでは言わずとも、大学を出たら「歌う会社員」くらいになりたいと思いボイトレに通っていた。

ボイトレの先生が歌手と兼業している関係で、通い始めて2〜3ヶ月の頃に仕事を一つ紹介された。

それは「クラブでジャズを歌うバイト」だった。

先生の知り合いのジャズクラブのような店で、歌う人が一人辞めてしまったのだがどうか、という感じで、特に私の歌唱力を大きく買われたわけではない。

しかし当時の私はJ-POPしか聴かない人。

最近映画ボヘミアン・ラプソディーがきっかけでQueenを聴くようになったくらいだ。

私は先生に、ジャズ一曲も歌えないです、と一蹴するようにバイトの話を断った。

結局、身体を壊して日常会話ですら難しい状態まで追い詰められ、会社員らしい会社員にさえもなれなかった。



先日夕方、とある駅を出て、そこからすぐ近くのライブハウスのホームページを何気なく見たら、ライブスタートはちょうどこれから、1ボーカル1ギターの2人編成となかなか良さそうなライブ情報が出ていた。

初めて踏み入るライブハウスって、なぜあんなに緊張するんだろう、ライブハウスを一度通り過ぎて、深呼吸して戻ってきて店に入った。

入ってすぐ店長さんを見つけ、飛び込み(当日券)で空いているか聞いたら、嫌な顔一つせずに受け入れてくださった。

そうなんだよな、こういう店長さんがいるライブハウスにたまたま出会えるところ、非常に私らしい。

第一印象がナチュラルに感じの良い人と出会いやすい星に属している私は、大袈裟な音楽が苦手だ。

その日の出演者さんのことは全く存じ上げておらず、入店してからライブスタートまでの間にスマホで調べることもせず、サプライズ的に音楽を楽しんだ。

1ボーカル1ギターの2人編成は何とも心地良い。

楽器が多ければ多いほど迫力があり楽しいが、その日も日中は猛暑日前後、疲労感強めの自分はちょうど安らぎたい気分だった。

そこで先ほどの、駅を出てライブ情報を見て、これは良いぞと足を踏み入れたのだ。

英語の知らない曲、時々日本語だけどやはり知らない曲。

たぶんだけど、これは全体的にジャズだ。

ありがたいことに、一曲歌うごとに次はどんな曲かをゆったりと挟んでくれる。ありがたい。

私にとっては知らないミュージシャンの、知らないジャズ楽曲の解説だが、それでも言葉の挟み方がお上手なのだ。

心地良い。

私はどうやら店に入れる客数の最後の1人くらいだったので、初対面で同じテーブルを共にする相席の方がいたが、変に絡んでくることもなく、最高の時間を過ごすことができた。

知らない店、知らない人、知らない曲、素晴らしい空間。

帰り際、会計がてら店長さんと話をして、内側が少しでも歪んでいたらそれが滲み出るくらいのところまで突いてみたが(私の性格は悪い)やはり明朗快活な方で嫌味が1ミリもない。


ライブハウスを出ると現実という名の、熱帯夜ですぐに腕がベタつく感じが戻ってきた。

その勢いで思い出した、冒頭の「歌う会社員」を目指していた話。

ボイトレに通っていた場所も、そういえばこのライブハウスから至近だった。

先生は今どうしてるのかな、今流行りの二刀流タイプの仕事の人は、時が経つとワークバランスがガラリと変わっていることも多い。

私もあの頃、少しジャズを学んで歌ってみたら、全く違う世界が見えていただろうな。

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