国の舵取り役を失った日本

これは「日本弱体化プログラム」の一環なんじゃないかと思う。なぜ東大法学部という当時最難関から官僚を目指すのがステータスだったかといえば、「国の運命を左右する」という使命感がたまらなく魅力だったから。そのやりがいの大きさで、優秀な人材の多くが官僚を目指した。
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官僚になると、行政の現場で様々な問題に直面。それを交通整理するため、あるいは抜本的改革のためにデータを整理し、法案にまとめ、政治家に説明しした。
本来法案を作るのは、立法府の国会議員の仕事。しかし議員は行政の現場がわからない。わからない人間が法案作ってもろくなことにならない。

官僚は法案を作っても、自分たちにその権限は本来ないことは承知しているので、議員が作った体にして華をもたせた。議員は法案の良し悪しの「目利き」の能力さえあればよい。行政の現場から上がってくる諸問題を踏まえた法案は、時に問題も含んでいたが、おしなべて上手く作られていた。

何しろ、行政の現場というのは膨大なデータが集まる。問題も含めて何もかも。だから民間には真似ようのない優れたシンクタンクとして機能した。民間は行政の現場を持たないのだから、この経験知は圧倒的。政治家は陳情しか聞かないから身勝手な要求も多く、バイアスが強い。行政現場は情報の質も高い。

戦後昭和は、官僚が政策シンクタンクとして機能するという仕組みが実にうまく機能した。しかしあまりにうまく機能しすぎて、政治家があまりにも官僚の力に依存しすぎ、「指示待ち人間」化した。また、この国を動かしているのは我々官僚だ、という傲慢さが現れた。

この事態を憂慮した経産省官僚の朝比奈一郎氏が率いるプロジェクトKは、官僚から政治家へ権限を移す改革を唱えた。ノーパンしゃぶしゃぶなどの問題を繰り返すようになった官僚は世間から大バッシングを受け、政治家主導の改革は支持されるようになり、ついにその改革は第二次安倍政権で成就。しかし。

権力を握った政治家に法案を作る能力はなかった。思いつきの政策を実施しようとすることが多く、それがマトモに見えるよう粉飾するという不毛な尻拭いを官僚がさせられるように。
しかも菅氏は「忖度」文化を官僚に浸透させることに成功した。官僚が職を賭してその政策は危険ですと諫言すると。

オレに逆らうのか、とあっさり左遷。職を賭して諫言しても左遷されるだけ、相変わらず政治家の思いつきを実行するよう求められるだけ。日本の行く末なんか考えず、政治家の言う通りにだけ動くヒラメ官僚が抜擢され、出世。まともな思考ができる官僚はバカバカしくなった。

「我々官僚が、行政の現場の声を届けても政治家は聞き入れてくれない。自分の思いつきの政策を優先する人間だけを出世させる。もう官僚なんかになるもんじゃない」と、先輩たちから愚痴られた若手官僚は次々に退職。外資系企業に転職するようになった。国内企業じゃなくて、外資系に。

先輩たちが次々官僚を辞めていくのを見て、東大法学部の学生は官僚を目指さなくなった。ひいては、東大法学部そのものを目指さなくなった。官僚になっても身勝手な政治家の思いつきにつきあわされるつまらない人生を歩むことになるなら、別の道のほうがよい、と。

今や東大法学部が一番人気ではなくなり、情報系の学部学科が人気だという。日本を代表する大学である東大が、日本という国の舵取りに興味を失うという事態。

私は朝比奈氏と面識があるし、当初は官僚から政治家への権力移行を支持していたが、途中から私は強い懸念を抱くようになった。権力の受け手である政治家にその能力がなく、しかもその責任の重さがどうもわかっておらず、最悪なことに忠告・諫言に全く耳を貸さない性質が強かったためだ。

結果的に朝比奈氏の構想が実現した結果、日本の行く末について、十分広く深く考慮した上で決定する組織を日本から消し去ることになってしまった。それでも残っている官僚は、なんとか日本をよくしたいと奮闘しているが、菅氏による忖度文化で人材が大量に失われたことの痛手は大変大きい。

官僚以外の形でも構わないから、日本の行く末を考える組織体があればいいけど、そうしたものは生まれていない。そうした民間組織は行政現場を持っていないから、ネットの情報を検索して政策考えていたりする。ピントのズレた政策提言が多い。官僚というシンクタンクを破壊した弊害は非常に大きい。

冒頭の記事では、官僚の使命感を向上させるよりも、「ただの公務員として待遇を向上させる」ことだけを考えているようだ。ということは、もはや官僚をシンクタンクとして機能させることは目指さない、と方針を決めたということ。

日本を良くしたい、そのために日本の舵取りができる活躍の場がほしい、と考える優秀な人材の行き場は、もはや日本にない。優秀な人材は、自分の人生を豊かにすることだけに専念するしかなくなった。朝比奈氏の改革は残念ながら、日本の舵取り役に優秀な人材が集まらないように仕向けた結果となった。

私はいっそ、官僚のシンクタンク機能を法律で規定する形で再構築しても良いのではないかと思う。各省に政策立案課を設け、行政の現場に立ち続けた優秀な人材を配置する。行政の問題点を調べ上げ、法案化し、そのメニューを政治家に提示する仕事。

あくまでどの法案を立法府である国会で取り上げるかの権限は国会議員にあることを明記した上で、きちんと法律で仕事の仕分けを明確化する。そうすれば、優秀な人材が日本の舵取りという実にやりがいのある仕事を目指して集まるようになるだろう。

朝比奈氏もいいかげん、自分のやってしまったことの惨禍に気がついているはず。私は朝比奈氏を責めるつもりはない。その当初の狙いは別に責められるべきものではない。しかしその結果がまずいと気がついたら、君子豹変すべきだ。日本をどう再生するか、朝比奈氏ももう一度考えて頂きたい。

朝比奈氏は結果的に、日本を弱体化させる方向に改革を進めてしまったことに、ぜひ思いを致してほしい。そしてその埋め合わせはどうしたらよいか、真剣に考えてほしい。私は私なりに、力を尽くそう。朝比奈氏もぜひ、頑張って頂きたい。

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