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英語と子供と辞書とランチ (その2)

アメリカに来て2年半、もうすぐ9歳の子供の英語力は読解やリスニングに関しては、アメリカ生まれの同い年の子供と比べるとやや劣るくらいである。単語力も読解力も子供のそれで、まだまだ単語力も文章力も非常に拙い。例えば昨日は「Valuable」という単語の意味を聞かれて、ああそれは「値段が高いもの、大切なものとかいういみだね」と答えた。アメリカの小学校3年生の英語はこんな程度だ。私がValuableという単語に出会ったのはたぶん高校1年くらいだろうか。私の時代は中一から英語を勉強したから、まあ私が4年かかったところを2年半で進んでいっている感覚だ。

まだ教えられるなと思っていると、「Subordinating conjunctionとCoordinating conjunctionの違いって何のこと?」ときかれ、「ええ?ちょっとまって」と狼狽したが、Googleで調べて教えてあげた(Thank you Google)。というわけで訂正、長男は私の知らない英語の世界を知っている。英語をアメリカの小学校で勉強するのと日本で英語を勉強するのとではカバーされる領域が異なる。90%くらいは重なっていて私も知っているのだが、10%くらいは初めてみるか、最近勉強した単語、エリアである。例えば小学校なので動物の分類を学ぶわけだが、肉食、草食、雑食を英語で「Carnivore、Herbivore、Omnivore」なんていうなんて子供の勉強を見てないと知らなかった。

話は変わるけど、社会人になって始めて海外出張に行ったときのこと。シカゴでトランジットだったんだけど、荷物を一度受けっとってもう一度預けたときに「You are all set!」と言われたが全く聞き取れなかった。荷物をなくしたらせっかくの海外出張が台無しになってしまうので、「Pardon?」ときくと「YOU ARE ALL SET」とゆっくり言われた。「I am what?」まだall setが聞き取れないが、相手が「You can go now」と言葉を変えてくれたので、「まあ、じゃあいきますよ」とふんわりとした感じでカウンターを離れた。

後日「You are all set」は「あなたの手続きはもう完了したので、You are good to goですよ」という意味だと知り、シカゴで言われたことが「そんな簡単なことだったの」と理解できた。それ以来「You are all set」はチケットカウンターに並ぶたびに、レストランで食事をするたびに、車のメンテナンスを依頼するたびに聞く言葉である。何でこんな簡単なことを日本で習わなかったんだろう。こういうWall street journalやアカデミックな論文には出てこないけどよく使う言葉が、日本で英語を学んでいるとどっかり抜け落ちている。どんなに難解な大学受験の英語の文章を訳せても、You are all setとかが分からなければ、こういう初歩的な、実際の場面でサバイブできない。今は子供の英語教育が実践的になっていることを期待しつつ、話をもどす。アメリカの小学生の英語力について、語彙力の絶対数では日本で英語を勉強した私の方が圧倒しているが、10%くらいは私が知らない単語を勉強しているということを書いておく。

さて、前回も書いたけど、私が長男に逆立ちしても勝てないのは英語の発音だ。長男の英語を聴いているとそれはもう典型的なカリフォルニアの英語で、完全にNativeである。Andを「アンド」ではなく「エーンド」、Rの発音がこれまでかというくらい強い。カリフォルニアの訛りはアメリカの中でも特徴的で、ミシガン出身のご近所さんから「お宅の息子はもう完全にカリフォルニアの発音になっちゃたね」とちょっと残念な意味を込められていわれたのが気になるが、ネイティブの発音ができない私にとっては単純に息子が羨ましい。前回書いたように勉強したからその言葉ができるという主張は変わらないが、発音だけは年を取ってから勉強してもなかなかマスターできない。これだけは子供の時のに浴びる言葉のシャワー効果があると思う。

発音は大切だ。純ジャパニーズの私はどうしてもRを強く発音できない。また、母音の発音も怪しい。アメリカで足首を折ったときに「I broke my ankle」と言っていたが、意識しないで発音すると「I broke my uncle」に聞こえてしまう。日本語にアという発音が一つしかないので、ankleとuncleのアを自然に区別できない。足を折ったときは動揺しているので、この区別ができていなかった。きっと看護師さんとかお医者さんは「おじさんを壊した」と言っている日本人の話を「足首だろ」と心の中で突っ込んでいたことだろう。

私は日本人が英語で話すときの一番の障害が発音だと思う。日本人は少ないながらも単語も知っているし、文章も作れる。ただ発音ができない。発音ができないから通じない。「はあ?、お前何て言ってんの?」みたいなリアクションをされて、心が折れてしまい、「もう英語なんてやらない。私は日本で生きていく。」という、自己防御、負のスパイラルに入っていく。これが発音が改善して、言葉が通じ始めると楽しくなってくるのでどんどんよい循環に入っていくことができる。

繰り返すが、私はもうNativeの発音にはなれないと実感する。発音だけは若いうちにやっておいた方がいい。多分音楽と一緒で一番伸びるのは10代まで。20代でやっても改善できるし、Nativeに近づけるけど10代のようにはいかない。30代を過ぎると直すのに相当苦労するし、もう改善できないところがあると感じる。それでも通じるように発音するコツがあるので、それを覚えればいいのだが、意識しなくても自然に通じる発音をすることはできない。ちなみに例えばインド人もフランス人もイタリア人もみんな独特の英語の発音(訛り)がある。ただし、通じるコツをおさえていて、通じる。一方、日本人の英語の訛りは通じない。ここが他国の英語の訛りと日本人の英語の訛りとの違いで、「日本人なんだから日本人の英語の訛りでいいんだよ」ではサバイブできない。中年の学び直しで英語をやるのではなく、発音だけはせめて20代できっちりやって頭に回路を作っておくべきだ。いつか「おじさんが腫れて痛い」と言わないためにも。次回は辞書とランチについて書いてみたい。










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