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ふわふわふあん回想録

 15番目 「新しい担当医」

   担当医が新しくなりました。
   30歳前後くらいの男性。
   背が高くて、骨格がしっかりしているかんじ。
   話し方はゆっくりで穏やか。

   この医師は、診察に30分くらいの時間をとってくれていました。
   薬の効果や副作用の確認はもちろん、
   日頃の生活で困っていることや心配事などを、
   なんでも聞いてくれました。
  
   話しているうちに、感極まって泣いてしまうこともありましたが、
   そんなときは、きまって
   デスクに向けていた体をサッと私のほうへ向けてくれました。
   「大人なのに、泣いたりしてすみません」
   私は、自分を恥ずかしく思いましたが、
   医師はただ黙って私を見て、
   最後まで話を聞いてくれました。
  
   この医師に変わってから半年くらいたったころ、
   私は1年勤めた工場を辞めました。
   すぐにキレる社長だったので、
   とにかく穏便に去る必要がありました。
   たまたま、両親が引っ越しを決めたので、
   私も一緒に引っ越すことにし、
   それを理由に退社しました。
   社長も納得してくれました。

   私は住む町が変わってからは
   ちゃんと仕事を続けたいと考え、
   引っ越すまでに1年あったので、
   その間に資格を取っておく決心をしました。
   今から10年くらい前のことですが、
   すでに介護職は必要とされていましたので、
   ヘルパーの資格を取ろうと考えました。

   それは、昔、元夫が受けた
   依存症の診察をした専門医が言っていた言葉を
   思い出したからでもありました。

   依存症の専門医は、私と元夫と
   別々に診察をしてくれました。
   そのとき、私に
   「離婚を考えているなら、
   一時的に逃げられる施設もある」と
   教えてくれました。
   そして、そこで就職先を探せると。
   そのとき、
   「あなたみたいな共依存の人は、
   なぜか介護職に就く人が多いんだよね」
   と言っていました。
   その言葉が、頭に残っていたのです。

    たしかに、働かない夫に対してでも尽くしてしまうこの性質は、
   介護職で役立ちそうな気がしました。
   けれども、私は死への恐怖がとても強く、
   死を意識するような場面で
   パニック発作が出てしまうことがあります。
   介護職は死の場面に直面することが多いので、
   そこが不安で踏み込めませんでした。

   そこで、担当医に相談したところ、
   挑戦してみたほうがいいと背中を押されました。
   慣れていくことも大事だと。

   そうして、ヘルパーの資格を取得するため、
   私は学校に通い始めました。
   学校の授業で死を連想してしまう話がでると、
   動悸が出て息が苦しくなるようなこともありました。
   そんなときはきちんと担当医に相談し、
   自分をコントロールするようにし、
   無事に卒業することができました。
   秋には資格をとることができました。

   引っ越しは春と決定しており、
   まだ引っ越すまでには時間があったので、
   ヘルパーではないものの、一時的に働きました。
   そこで、むくむくと顔を出してきたのが、
   確認障害の症状でした。

   そこの職場には給湯室があり、
   お湯をわかすことがときどきありました。
   また、私が遅番の時は施設の施錠をする必要がありました。
   この、ガスの元栓と鍵は私にとっていちばんやっかいでした。
   家事になるかもしれない。
   泥棒が入るかもしれない。
   自分のミスから、大惨事が起こるかもしれない。
   そういった思いが発端だとは思うのですが、
   いま改めて感じているのは、
   たしかに「締めた」という実感がわかないのだよなぁ
   という悩みです。

   この、確認障害の症状はいまだに引きずっていて、
   調子が悪い時では何十回も繰り返し確認します。
   同じコンセントを何十回。
   同じスイッチを何十回。
   同じ鍵を何十回。
   このころには、最初に見たコンセントに
   本当にプラグがささっていなかったという自信が消失しており、
   またコンセントを何十回と確認。
   またスイッチを…といったぐあいです。
   職場に遅刻する危険もはらんでいるし、
   職場からなかなか帰れなかったりもします。
   いくら確認したって、残業代は出ないのに…
   確認し続ける自分にも疲れ果て、ばかばかしく、
   確認をやめたいのに、やめられないのです。

   この確認して回る姿を他人が見たら、
   本当に気持ち悪いだろうな、と思います。
  
   確認したそばから
   たしかに大丈夫という確信がもてないのは、
   自分に自信がないせいもあるだろうけど、
   どうも、目に入っている光景に
   実感が伴わないかんじがあるんですよね。
   たしかに甘いものを食べていれば、
   これは甘いと確信が持てるのですが、
   目で見たものは、
   どうも確信できない。
  
   ほんと、わずらわしいです。

   そんなわけで、
   私の身をおく環境が変わりました。

   ソラナックスの量はおおむね変わりませんでしたが、
   調子があまりよくない時期が出てきました。
   寝つけなくなったり、
   寝ても悪い夢にうなされて目が覚めたり。
   鬱々としたり、不安感が襲ってきたり。

   そんなときも、担当医は薬を変えるかどうかを
   しっかりと説明したうえで、私に選択させてくれました。
  
   パニック障害や不安障害のお薬として、
   ソラナックスのような抗不安薬は
   発作時の頓服として使用されることが多いようです。
   私は常用もしていましたし、頓服としても飲んでいました。
   それでも不調が続いたとき、
   医師から新しい薬として説明を受けたのが、
   SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)というものでした。

          SSRI 薬の効果と作用機序
    脳内の神経伝達を改善し、憂うつな気分を和らげ、意欲などを
    改善する薬
     ・うつ病では脳内のセロトニンなどの量が少なくなっている
     ・本剤は一度放出されたセロトニンの細胞内への回収
      (再取り込み)を阻害することで脳内のセロトニン量を
      増やし抗うつ作用をあらわす
    強迫性障害やパニック障害などに使用する場合もある

              出典 「日経メディカル処方薬事典」
                  https://medical.nikkeibp.co.jp

                

  医師の説明を受け、よく考えてみました。
  たしかに、不調は出ていましたが、
  体が動かないようなこともありませんでしたし、
  困りながらも出勤できていました。
  副作用に対する不安感もかなり強かったので、
  まずは飲まずに、もうしばらく様子をみてみようと決めました。
  そのことを担当医に伝えると、
  彼は表情を変えることなく、
  すぐに承知してくれました。
  そして今まで通り、
  ソラナックスを飲みながら、
  この医師のカウンセリングを受けるというスタイルで、
  けっきょくは安定していきました。

  このときSSRIを飲まずして
  安定していけたのは、
  きっとこの担当医が、
  私の心については医師自身の意見は何も語らず、
  ただただ傾聴にとどめてくれたこと。
  そして、
  実際に起きている困りごとに関しては、
  具体的な対策を
  アドバイスしてくださっていたからだと思います。


   まとめ
    * この章を書いていて、つくづく思った。
       俯瞰してみた私の姿は、やっぱり不気味。
      指さし確認しながら、部屋をぐるぐるぐるぐる
      行ったり来たりして。
       しかも、これほど確認しているときに
      上の空ってことがよくある。
       指さししながら、脳は別の心配事について考えていたりして。
      体と脳がリンクしていない。
      で、我にかえって、さらに確認作業が増える。
       こんな自分を自分で録画してみてみたら、
       ショック療法(?)で、改善するかも?
       こんな自分は嫌だ~!ってなって。
      床にすごろくのマス目でも描いてみるかな。
      自分をゴールへ導くように外出する。
      玄関がゴールでは外出できなくなっちゃうので注意か。
      玄関の鍵の確認もそこそこに、
      スマートに外出したい。
      
      

      
      
           

   


 

    
  
  

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