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【読書感想】 ニュータウンは黄昏て

垣谷美雨著 2015年6月刊行 

タイトルが気になったので読んでみた。
賃貸、持ち家、一口に家といっても色々ある中で、様々な境遇の人を描いた物語。
私は実家住まいなので「家」というものについて深く考えたことがなかったが、家を持つことになると家賃や近隣住民との関係などリスクの大きさに気付かされる。
そんなことについて考えさせられる作品。


あらすじ

バブル崩壊前に高値で分譲団地を買ってしまい、今もローンの返済に追われる織部頼子。余裕のない生活の上、団地の理事会では老人に振り回されることに。
娘の琴里は宅配寿司屋のアルバイトで教育ローンの返済に追われている。
ある日、幼馴染の三紀子に資産家の彼氏の黛を紹介されるが、その後彼女は失踪してしまう。そして琴里は黛と婚約することに……
織部家は幸せをつかむこと合出来るのか?
家や生き方について考えさせられる社会派エンタメ。

オールドニュータウン問題

本作の一つの問題となっているものがニュータウンについて。

ニュータウンとは日本の高度経済成長を受けて、首都圏の過密化対策として郊外に建設された新しい市街地であり、1960~1980年代にかけて首都圏郊外に巨大なマンション群が建設されたものである。
織部家が購入した分譲団地のように道路も整備されており、公園や緑地に囲まれ当時は人気があった。

しかし、住民の高齢化、施設の老朽化が進み、新たに入居する若者は少なく、子育てを終えた人が多くなったため、孤独死や周辺地域のインフラが撤退するなど賑わいを失いつつある。

小説内にもあったがニュータウンの問題としては、

  • 主要都市にアクセスするまでに時間がかかり、立地が悪い。

  • 立地の悪さにより、新たな世代を呼び込むことが難しい。

  • 住民により建物を維持していく活動が難しい。

  • 行政からの支援が乏しい。

など問題点が多く感じられるが、バブルの景気が良く、地価が上がり続けていた時代では魅力的だったのかな?
ともかく、景気の良かった時に見えなかった問題が年月を経て一気に浮き上がってきたように思える。そこら辺の悲哀は作品の中ですごく伝わってきた。

感想

基本的に母の頼子と娘の琴里のパートに分かれて物語が進む。
どちらもローンの返済に追われ、生活が苦しいので、なんとかして脱出の機会を探していくことに。

母の頼子が団地の理事会を通じてニュータウンの問題(家の問題)を、娘の琴里が生き方やパートナーについての問題を扱っており、どちらも生きていくうえで重要であること。
バックボーンや経済力によって、ここら辺の価値観は変わってくるが、この小説では様々なタイプの人物が出てくるため、一つの意見が偏らないところが良かった。

団地を購入したがバブル崩壊で価格が下がり……が作者の実体験から来るためかとにかく描写が生々しかった。
値上がり前に購入できた人、高値で購入した人。織部家は後者だが、とにかく人生は一筋縄ではいかない、現実をさまざまと見せられるような作品。

冒頭にも書いたが、「家」というものについても考えさせられる。
基本的に一生に一度の買い物であるが、住む地域、住居の種類、近隣の環境など考える要素が多いことに気が付く。

しかし、どれだけ住む前にリサーチを済ませても、転居してきた住民が騒がしかったら駄目だし
「家ガチャ」じゃないけど運による要素も大きい。難しいな……

この難しい課題に対してどう向き合っていくのか!ぜひ読んでいただきたい。

おわりに

これから引っ越す、将来家を持ちたいと思っている方に読んでほしいです。

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