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空と沼 【詩/現代詩】

玄関には
清潔な
白い靴が並んでいた

アパートの前には
沼があり
やわらかな子どもが遊んでいた

立ったり
座ったり
踊ったり
寝転んでは

いまは春だ
ものみな芽吹く春だ

マリーは両手を空いっぱいに広げた
胸いっぱいの愛を果てもなく広げた

玄関には
声が落ちていて
やわらかな子どもがそれを拾う

さあこっちだよマリー

健康な白い靴
やわらかな子ども

声がほしいなら
さあここまでおいでマリー

この沼が
この沼が

やわらかな子どもが
手招きをする

ざらついたマリーを呼んでいる
ざらついたマリーが揺れうごく
ざらついたマリーは沼をあるく
ざらついたマリーが空にしずむ

みんな笑っている
空に
みんな笑っている
沼に

顎を外して笑っている
水の向こうから
笑っていた

どこ
どこ

健康な子ども
やわらかなわたし

白い靴

どこ
どこ

この沼には

空がない

底がない

どこかで

わたしの声が

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