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世界 【詩/ショート神話】

1.

この世界がまだ
クリームスープだった頃

神々の夢は
かたちを持たなかった
オノマトペの豪雨は果てしもなく
顔のない妖怪みたいだった

2.

この世界がまだ
やわらかなスパゲティだった頃

バター漬けにされた
頭や指
眼や鼻や唇
喉元に心臓
毛むくじゃらの胴体や
脚の爪の先までもが
あぶらの臭いをさせて
原初の海に呑まれていった

3.

この世界がまだ
山盛りのアスパラガスだった頃

ミコトノリが
寄り集まって
さばえなすざわめいた
岩礁にはりついた
ハマボウフラの群れが
地球の裏側まで数珠をなし
未知の騒音が燃え広がった

4.

神々の歌声は
宇宙のヘリにまで届き
真昼の丘の甘やかな香り
大通りの曲がり角で聞いた
消防車のサイレン
刑務所の近くでは
暴動が起き
王宮では
勲章が燃えていて
あれから
どれほどの月日が流れたのか
神々の墓石が
転がっている教会の裏庭
私はひとりさみしく
さまよった
神々の痕跡を
確かめながら歩いた
いろいろな首や
ヴァイオリンや
シュールな処刑台が
散らばっている
ハマボウフラの飛び交う丘で
神話的な羽音が鳴っている

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