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【感想】ヴンダーカンマー

昨晩、もう少し仕事探しに時間を割こうと思っていたのに、一昨日から読んでいた星月渉さんの「ヴンダーカンマー」を夢中になって読んでいた。
読み始めた当初は「新年一発目の読書だし、読み終えるまでに少し時間がかかるかなあ」なんて考えていたのだけど、そんなことはなかった。読み始めたら止まらない、読者を一気に引き込んでいく展開は、ジェットコースターのような速度で進む。
けれど、あくまで読者は共感こそできても外野でしかない。決して目を逸らすことの許されない物語を前に、私たちにできることはないのだ。
唯一許されているのは「登場人物の信じたもの」「抱え続けてきた闇」に黙って耳を傾けることだけ。それぞれが壮絶な環境下におかれながらも、何故か執着してしまう「誰か」への愛。
愛そのものは人によって形や在り方が違うけど、純粋さを欠いて歪んだが故に繋がっていく狂気の連鎖。まるで蜘蛛の巣のように。

この小説は一見すると猟奇的な香りのするホラー小説だけど、開いてみると印象がガラリと変わる。最後まで読んだなら、きっと切ないと感じる人も多いんじゃないかと思う。
私はこの物語の根底に愛憎と執着を感じたけど、親子関係から見えてくる個人の恐怖も鋭く描写されている。

だが、あとがきまで読んで感じたのは、著者である星月渉さん自身の愛情だ。
深い深い愛がそこにはあって、本を閉じた時にもっと切なくなる素敵な作品だった。

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