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Off Flavor入門〜コラム:構造をみること

前回は分子の形と極性について話しましたが、今回はちょっと休憩して雑談的なコラムです。
(ちなみに次回からまた本題に戻ります。次回は有機化合物の概論と官能基についての予定です。)


構造を理解すること

今回のオフフレーバー入門では、オフフレーバーを構造的に理解しようという試みをしています。

ビートルズ穴ぼこ論

Our life is our art.

ジョン・レノン

音楽評論家の渋谷陽一さんが提唱した「ビートルズ穴ぼこ論」という理論があります。1960年代前半までのポップミュージックはプロダクトアウト的で、プロデューサーが適当に企画したものを、職業的作曲家が作曲し、ルックスの良い歌手に歌わせて、綺麗にお化粧するようにプロモーションしていました。流れ作業のように音楽が作られることに対して、大衆は潜在的な欲求不満を抱えます。そこに登場したのがビートルズ。ヨレヨレの服装をした4人の若者が自分たちで作詞作曲演奏をする姿に人々は熱狂しました。
つまり社会の側にビートルズ的なものを求める巨大な欠落部分があったにもかかわらず、それを満たすものがビートルズ以前には何もなかったということです。ビートルズ以降に優れた音楽性を持ったアーチストが多数登場しましたが、ビートルズのような独占的な地位を築くことはありませんでした。
ビートルズの優れた音楽性に目を向ける評論家はたくさんいましたが、音楽性の素晴らしさだけではビートルズの社会現象的な人気を説明することはできません。ビートルズを受容する社会の側に目を向けて、構造を捉えることで全体像が理解できます。

構造化には幅広い前提知識が必要

人気ポッドキャストのCOTEN RADIOもまさに構造的な面白さを持っています。例えば、トルコの英雄「ケマル・アタテュルク」のシリーズは全14話ですが、ケマル本人が登場したのは6話目です。「第一次世界大戦」のシリーズにいたっては全14話で開戦したのは8話目です。本題に入る前にいかに歴史的な前提(構造)を提示できるかが面白さの鍵になっています。特定の人物や戦争などの特定の出来事を深堀りするだけでは見えてこない総合的な理解が得られ、いろいろなものが繋がっていく快感も得られます。
構造とは、歴史なら時代背景、自然科学なら様々な科学分野の横断知です。オフフレーバーを議論するときには、個々の化合物の紹介だけだとあまり本質が伝わらないです。「ケマル・アタテュルクは1881年に生まれました」から語りはじめてもケマルの本質が伝わらないように。

リベラルアーツ的な理解

ビールというのは様々な要素が関係する複雑な自然現象のうえに成り立っています。歴史が一人の人物を見ても理解できないように、ビールも様々な分野を繋げて横断的に見ることで立体的に理解できると思います。

繋ぎ合わせてみて理解できること

巷にあふれるオフフレーバーの解説は主に有機化学や生化学的な知見を元に書かれていることが多いと思います。ただ実際には有機化学や生化学は本来の学問の目的がオフフレーバーやビールを説明するためのものではありません。有機化学のメインのゴールは化合物の合成にあるし、生化学は生命の仕組みをミクロ視点で理解することにあります。また、ビールは人間が楽しむために飲むもの、そしてその人間の知覚というのは案外いい加減なものです。その前提がなく構造式を睨んでも深い理解には至らないと思います。つまり、オフフレーバーを理解するには、科学の一分野の専門的な内容を突き詰めるよりも、一般教養的な科学知識を繋ぎ合わせて、それらを一つの知識として再構築することが必要と思ったのです。
このシリーズで書いていることは、知覚、ガストロフィジクス、量子化学、有機化学、生化学など、それぞれの専門家から見ると薄い内容だと思います。時には初学者ゆえの間違った理解もあるかもしれません。一般教養を横断的に繋ぎ合わせて構造的に理解するという狙いがあってのことだと寛容に理解いただけると幸いです。

チャレンジ

とはいえリベラルアーツだから間違いがあっても許されるとは思っていないです。構造的な理解のためのざっくりした解説と言っても、正確じゃないといけないので塩梅は難しいです。そこが一つのチャレンジ。
もう一つのチャレンジは広い視野を持つこと。渋谷陽一さんが音楽評論家でありながら社会学やマーケティング視点でビートルズを語るのと同様、私もビール屋でありながら他の分野の視点も取り入れて語っていきたいと思います。これはオフフレーバーに限らず、ビールを理解する視点としていつも心がけています。

お読みくださりありがとうございます。この記事を読んで面白かったと思った方、なんだか喉が乾いてビールが飲みたくなった方、よろしけばこちらへどうぞ。

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北杜の華ホップス ペールエール

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Hanami Vibes

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