無痛分娩について

昭和大学病院 麻酔科 医師

無痛分娩関係学会・団体協議会(JALA)

加藤 里絵


最近、『無痛分娩』が話題になることが増えました。

「良かった」という感想も聞くけれど、重大な事故についての報道もあるし、いったいどんなものなんだろう?と疑問をお持ちの方も少なくないと思います。

今回は、無痛分娩の方法や、メリット・デメリットなどについてご説明します。

l メリット

無痛分娩は、痛みの少ないお産です。

痛みが少ないことが最大のメリットです。

「楽だった」、「産後の回復が早かった」という感想もよく聞きます。

お産が進む中、家族とリラックスして過ごしている産婦さんの姿が、私には印象的です。

また、心臓や脳の病気をお持ちの方がお産するときに、体の負担を少なくするために無痛分娩を勧められることもあります。

l 痛みをとる方法

お産はなぜ痛いのでしょう?

図1をご覧ください。

痛みのおもな原因は、子宮が収縮することと、産道(赤ちゃんがお母さんの体の外に出るための通り道)が広げられることです。

子宮が収縮したり、産道が広げられると、それぞれの場所の神経が刺激され、その刺激は背骨の中にある神経(脊髄)を伝って脳に届きます。

そして、脳で「痛い!」と感じます。

(図1)

無痛分娩では、「硬膜外麻酔」という方法で痛みを和らげるのが一般的です。

硬膜外麻酔では、背骨の中の「硬膜外腔」という場所(図2)に細くて柔らかい管(直径1ミリ以下)を入れます。

(図2)


管から神経を鈍くする薬を入れると、子宮や産道からの神経がブロックされて、痛みを感じなくなります。

硬膜外麻酔に加えて、「脊髄くも膜下麻酔」も行うこともあります。(この方法はCSEAと呼ばれます。)

「脊髄くも膜下麻酔」も行う場合は、無痛分娩を始めるときに「脊髄くも膜下腔」という場所(図2)に少しだけお薬を入れます。

そうすると、痛み止めの効果が早く現れます。

l デメリット

無痛分娩中によくみられる副作用として

・ 足がしびれる、動かしにくい

・ 尿意がなくなる、排尿ができない

・ 皮膚のかゆみ

・ 軽い低血圧

・ 発熱

があります。

ときどきある不具合として、産後の頭痛があります。

これはお産の翌日、翌々日に出てきます。

治療をしなくても1週間ぐらいで治ってくることが一般的ですが、症状が強いときには、別途治療をすることもあります。

まれですが、重度の不具合を起こし得る原因として、

・ 高位脊髄くも膜下麻酔

・ 局所麻酔薬中毒

・ 神経障害

があります。

【高位脊髄くも膜下麻酔】

硬膜外の管が脊髄くも膜下腔に入り、それに気づかずに麻酔の薬が注入されたときに起こります。

最初は、足が動かないなどの症状がでますが、進行すると、重度の低血圧、呼吸困難などの重い不具合を起こします。

【局所麻酔薬中毒】

産婦さんの血液中の麻酔薬濃度が高くなった状態のことです。

硬膜外の管が血管の中に入ったり、また硬膜外の薬をたくさん使いすぎたときに起こります。

最初のうちは、口の周囲がしびれる、耳鳴りがするなどの軽い症状があらわれますが、さらに血中濃度が高くなると、意識がぼんやりしたり、不整脈がみられたりします。

高位脊髄くも膜下麻酔も、局所麻酔薬中毒も、症状が軽いうちに気づき、重い不具合を起こさないように努めています。

【神経障害】

とてもまれに、足を動かす機能、排便・排尿の機能が大きく障害を受けることがあります。

神経障害にはいくつかの原因がありますが、硬膜外腔の中の血管から出血が起こり、血液の塊が神経を圧迫することが一つの原因になります。

そのため、血液が固まりにくい方は、硬膜外麻酔を受けることができません。

l 無痛分娩のお産や赤ちゃんへの影響

無痛分娩は、子宮の収縮や、お母さんのいきむ力を少し弱める方向に働きます。

そのため、子宮を収縮させる薬の使用が増えたり、鉗子分娩や吸引分娩が増えやすいといわれています。

しかし、帝王切開が増えることはありません。

赤ちゃんへの影響もほとんどないと考えられています。

l 無痛分娩の実際の運用

硬膜外麻酔や、脊髄くも膜下麻酔による無痛分娩の実際の運用は、施設によって大きな違いがあります。

・ 計画分娩をするのか

・ 硬膜外の管をいつ入れるのか

・ 痛み止めはいつからいつまで使うのか

・ 痛みはどのくらいとれるのか

・ 誰が麻酔を担当するのか

・ 費用はどのくらいか

などを中心に、お産を予定している施設で説明をよく聞いてください。

疑問に思うことがあったらぜひ質問してください。

疑問をきちんと解決してから無痛分娩に臨むことが大切です。

l 無痛分娩を安全にするための取り組み ~JALA~

2017年春に相次いだ無痛分娩の麻酔事故の報道以降、医師や助産師、一般の方が集まり、事故を防ぐための方法を検討してきました。

そして2018年4月には、厚生労働省から、無痛分娩を安全に行うために医療施設や医師・助産師が守るべき通達が出されました。

その通達を実現するために立ち上がった組織が『無痛分娩関係学会・団体協議会』(JALA)です。

【JALAは】

1.無痛分娩を行っている医療施設の情報を公開すること

2.無痛分娩中に起こった副作用や不具合を調査して、さらに安全な無痛分娩体制をつくること

3.無痛分娩に関わる医療スタッフの研修体制をつくること

の3つを中心に活動をしています。

2019年3月にJALAのHPが開設されました。

https://www.jalasite.org/

無痛分娩に関する情報が広く掲載されていますが、産婦さんやそのご家族に特に注目していただきたいのは、無痛分娩を行っている施設の情報です。

https://www.jalasite.org/area/

「安全な無痛分娩を行うために必要な設備や医療スタッフが適切に配置されているか」に関する情報を中心に、施設情報が掲載されています。

安全かつ産婦さんの要望にあった分娩施設を選ぶために、ぜひ参考にしていただきたいです。

JALAのHPはまだ立ち上がったばかりで、改善すべき点が多くあります。

より良いHPに成長させるために、みなさんのご意見をお寄せください。

https://www.jalasite.org/inquiry

無痛分娩の方法、実際、副作用などについては、日本産科麻酔学会HPにさらに詳しい情報があります。

日本産科麻酔学会はJALAの構成団体の一つでもあります。

「無痛分娩についてもっと知りたい!」という方は、日本産科麻酔学会 無痛分娩Q&A http://www.jsoap.com/pompier_painless.html

をご覧ください。

無痛分娩はすべての妊婦さんに必要なものではありません。

しかし、無痛分娩を望む方や必要な方が、安全かつ産婦さんの満足できる無痛分娩を受けられるよう、私たちはこれからも努めていきたいと思っています。

毎月15日発行『しろうジャーナル』
メルマガ読者登録はこちらから!!
役立つ情報が満載☆お友達にもぜひご紹介を(無料)↓↓↓
http://www.mag2.com/m/0000285845.html

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?