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特別編:淫楽クラブ。

 ぱちん。
 照明が一気にピンク色になった。


 舞台上には2つの影。
 どちらも天井から吊るされた鎖に両手を縛られ、万歳するように両腕を上げさせられている。


 客席から見て左側には、目付きの悪い少年がアイスピックの持ち手の部分を口に咥えている。
 右側には、ずんぐりとした体型の男が赤覆面を咥えている。


 舞台の両側から子羊のお面を被った少女が2人ずつ登場した。すると、拘束されている2人の両側に立った。


 子羊のお面の少女達は横を向き、側にいる拘束された男を挟むようにして向かい合った。ゆっくりと子羊のお面を口上までずらす。


 始まる。
 そう思うと、心臓の鼓動が速くなるのは何故だろう。


 拘束された2人の呼吸が激しくなっていくのが、裸の上半身からよく分かる。


 いつの間にか、僕の両手には力がこもっていた。


 ちろ。
 4人の子羊のお面の少女達は一斉に舌を出た。そうして、顔を徐々に……。


「淫楽クラブ」。
 簡単に言うと、会員制の変態サークルだ。
 この劇場では「湿気の街」の住人を使った、特殊な公演が行われる。人の性癖を満たす為の舞台だ。


 セックスなんてそんな正統派なものはほぼない。
「金玉縛り」、「乳首弄り眼球舐め」、「太腿甘噛み」、「電動ドリル頬空け」、「脇腹抓り」……。
 一体何を見せられているのか分からないものから、拷問に近いものまで、多岐に渡る。


 観客は金持ちや政治家等、権力者が殆ど。海外の首相までもが足を運んだとの噂もある。彼等は全員、動物のお面を被って観劇をする。勿論、匿名性の為だ。


 権利を持ち、大概のことを出来るようになってしまった彼等。庶民が求める快楽に飽き、曲がってしまった性癖を満たす為に辿り着くのが、ここ、「淫楽クラブ」なのだ。


 裏ルートで参加することが出来た僕も、羊駱駝のお面を被って舞台上から目を離せないでいた。


 ぺちっ、ちょ、んちゅ……。
 湿った音が場内に響く。
 子羊のお面の少女が拘束された2人の腋を舐めている。


「んん、ん」
 先に声を漏らしたのは赤覆面を咥えた男だった。赤覆面に歯を立て、びくっびくっと、全身を震わせている。


「ぷっ、くく、くくくっ……」
 アイスピックを咥えた少年は耐えられなくなったのか、身体をくねらせて笑い出した。


「んん、んあっ、んん」
 赤覆面の男は内股になり、下半身を捩り始めた。まるで小便を我慢するかのように。


「ん、んん、んひっ、ふくくく……」
 アイスピックの少年は必死に頭を左右に揺らす。


 びちゅ、ちゃ、ぴちょ、んちゅ……。
 それでも止まない。子羊のお面の少女達の腋舐めは。


「んくふっ、んはっ、んひひひひひっ」
 アイスピックの少年の顎ががくがくと震え始めた。


 もう彼は駄目だ。やった。このままいけば、僕は……。


 その時、赤覆面の男の腋を舐めていた子羊のお面の少女達の動きがぴたりと止まった。
 突然のことに困惑し、彼女達を見る赤覆面の男。


 観客席からはひそひそと囁くような声。


「ふぅー……」
 両側の子羊のお面の少女達は、同時に赤覆面の男の腋に軽く息を吹きかけた。
「んふっあぁー……」
 情けない声を上げて、男は咥えていた赤覆面を床に落とした。


 4人の子羊のお面の少女達は動きを止め、ずらしていたお面を正し、正面を見て立った。
 数秒の沈黙の後、赤覆面の男を照らしていた照明が消えた。
 アイスピックの少年の周りだけを、円を描くようにピンク色の照明が照らしていた。


 ぱち、ぱちぱちぱち……。
 静かな拍手が場内に響く。


「……く、糞ぉ……」
 負けた。負けてしまった。1万円も賭けたのに……。


 今回の公演はちょっとした賭けごとだ。ゲームのプレイヤーの腋を舐めて、先に口に咥えていたものを落とした方の負け。どっちが先に落とすか。僕達は2人のうち、1人に賭けるのだ。


 ……しかし、息を吹きかけるのは狡くないか? 舐めて落としたわけじゃないし。


「では、先程お配りしたタブレットに次のプレイヤーの情報が送られていますので、投票してください。金額の入力も忘れずに」
 客席が若干明るくなる。
 紫色の豚のマスクを被ったボンデージ姿の大女が、舞台の前でマイク越しに静かに言った。


 これからは第2回戦が行われる。トーナメント方式で、勝ったプレイヤーが次へ進む。優勝したら演者にも何か景品はあるのだろうか。


 ぱちん。
 再び、ピンク色の照明が舞台上全体を照らす。
 縦長の紙を咥えた男VS白色の鬼のお面を咥えたご老人。


 頼むぞ、お爺さん!



【登場した湿気の街の住人】

・湿度文学。
・アイスピックの少年
・赤覆面の男
・子羊のお面の少女達
・豚のマスクの女王様
・張り紙の男
・死肉サンタ

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