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三月場所は勝負の場所

相撲が好きだ。

と言うと、返ってくる言葉はたいてい決まっている。
 「えー、若いのに珍しいね」

 珍しい。十両から結びの一番まで、14時半から18時までの約3時間半、特に幕内の2時間は絶対に見逃せない。若い人たちにとっては、部活に勉強にバイト、なんでもフィーバータイム。まわしを着けた力士が取っ組み合って、それをただただ眺めているなんて、確かに珍しい大学生だと思う。

 相撲を好きになったのは大学生になってからのこと。

 大学を休んでしまった日、部屋で一人でいるのが寂しくてテレビを付けた。チャンネルを回しているとたまたま大相撲中継がやっていた。大学の授業で相撲の歴史について学んだことがあったわたしは、「へー相撲ってこんな感じなんだ」とぼーっと見ていた。

 次々と出てくる綺麗な色のまわしをつけた力士たち。決まり手の名前もルールもほとんどわからなくても、見ているだけで熱くなってくる。自分とほぼ歳の変わらない若い力士が、汗いっぱい力いっぱい体の大きな力士にぶつかっていき、鼻血を出して必死に押そうとする姿には思わず声が出た。がんばれ、がんばれ。負けるな。


 気付いたら15日間が終わっていた。
 毎日齧り付くように大相撲中継を見ていた。


 それからと言うもの、番付が出るのを毎場所楽しみに待ち、15日間は毎日テレビの前に居座り、力強い力士たちからたくさんのパワーをもらっている。


 「荒れる春場所」と言うもので、2024の三月場所は尊富士関が110年ぶりに新入幕での優勝を果たした。

 わたしにとって2・3月は、自分に合う薬を試すしんどい時期だった。最初は薬を飲むと手が震えてしまい、薬への不安感や不信感でいっぱいになった。それでもこのままの自分でいるのはもっと怖くて、薬に期待するしかない状況で心はぐちゃぐちゃだった。

 三月場所が始まった頃、薬の量が増えた。少しずつ自分でできることが増えてきた。太陽がすっかり昇り切る前に起きて、朝昼兼用で2回だったご飯が3回食べられるようになった。4月からの新生活でどれほど維持できるかわからないが、こんなに落ち着いて過ごせている日々は10年近く無かった。

 わたしはわたしとの、薬との、勝負に勝った。10年ぶりの偉業を果たしたのだ。毎日相撲を見て、わたしも負けていられないなぁなんて思わされて、日々を力強く生きていくためのパワーをもらって、3月を生きた。

 勝負の3月が過ぎて、明るくて眩しい4月が始まる。五月場所が始まる頃、わたしは何を思うだろう。強く強く、生きていたい。あの力士のように、なんにでもぶつかっていって、傷ついたって構わない。今日負けたってわたしには明日があるのだ。明日になればまた、力強く当たっていけばいい。たった15日間で終わってしまう勝負ではなく、人生という長い場所を、わたしはわたしの技で生きていくのだ。




そんな深いような浅いようなよくわからないことを考えている春の日。

あなたも相撲にハマりませんか。

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