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この家どうするの?(42)葬儀屋さん今昔22 「親とのわかれ」

父と最後のドライブ。葬儀屋・社長さんの運転で。わたしより、ひとまわりほど若い50歳くらいの社長さんの経験をきいた。
つらくなるかたは、お読みにならないでください。
(1293文字)



とつぜんのわかれ

「あと5分ほどで斎場です。長女さん、待ち時間にお食事されるのでしたら、近くのレストランなどにお送りしますが……」

「いえ食事はちょっと……。空いてるところで座って待ってます。ありがとうございます。」

いろいろ気づかいがありがたい。食べれないこともないが、そこまでは……。
それを感じたのか社長さんが、くちをひらいた。

「長女さん……ぼくの父は……ある朝……ふとんから出てこなかったのです」

「えっ。わたしの祖母の葬儀にいた先代の社長さんが……」

「はい。突然死。それまでは元気で仕事をしていたので、警察に何度も きかれましたよ《昨晩、何をしていたか》って……」


病院以外でひとが亡くなると、変死・不審死。葬儀屋さんの家族でも例外はない。
とつぜんのわかれ。じぶんの親を検察医事務所までお迎えに行くなんて……。


わたしの身体ぜんぶの毛穴から、ぶわあっと何かがふき出した。
汗かなと思うよりさきに、いっしゅんで蒸発してしまった。


なんだかわからないこの経験。
有り難みがわかるのは、もうすこしあとになってから。
このおはなしを聞かなかったら……わたしは。
いまでも社長さんには感謝しています。



 斎場の控室

道のまえに木がこんもりと。斎場の入口だ。黒い車は静かにすすむ。住宅街の中ながら、敷地はおおきく外界とは遮断されている。

「斎場に到着しました。控室にご案内します。ここでお待ちください。」

ひろい駐車場。車はポツポツと。
白っぽいモダンなたてもの。社長さんに大広間に案内される。
テーブル席がたくさん。はしっこに座ると社長さんは退出した。


そうだ、いままでのお葬式はもっと大がかりだった。スタッフらしき人もなし。
「食事禁止」の貼り紙が寂しげに頭を下げている。


大広間には、自動販売機が2台だけ。
がらんとした空間に、3〜4人のグループ・5組ほどが座っています。ひとがすくない。
疫病からこっち、家族葬が多くなったんだなぁ。



火葬場

ひとりで座り、まわりのひとのように下を向く。《火葬場のこと、なんで斎場と言うの》なんて思ってたら社長さんがテーブルに帰ってきました。

「長女さん、ご用意ができましたので、こちらに。
わたしが《お骨あげ》も、ごいっしょしますので大丈夫ですよ。」


社長さんは、じぶんのことを「ぼく」といっていたのに「わたし」になった。彼にとって、火葬場は仕事場のクライマックス。
スイッチが入った瞬間を感じました。


お気づかいありがとう。わたしが下を向いてたのは、そうじゃなかったけど。


大広間の奥にかがやくのは、観音開きのトビラ。トビラというより小窓、それが30ほどつづく。ボーリングのレーンのように横に一直線。


ひとのさいごは、ここか。

火葬炉30基。
ある意味、奇観で。
ある意味、壮観だった。



(不謹慎ながらつづきます)

毎週金曜日は
「親の持ち家の日」

 

いつも こころに うるおいを
水分補給もわすれずに


さいごまでお読みくださり
ありがとうございます。



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