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【番外編】「しゅのばん」のこと

「しゅのばん」というお化けをご存じでしょうか。

福島県に伝わる鬼のような顔の怪物です。
おそらく赤色のお盆(盤)のような顔を
していることが名前の由来でしょう。


TVアニメのゲゲゲの鬼太郎には、
「しゅのぼん」の名前で、
宿敵ぬらりひょんの手下として登場しています。

また、江戸時代の文献
「老媼茶話(ろうおうさわ)」では、
舌の長い老婆の化け物と一緒に旅人を襲ったり、
度胸試しにきた武士を脅かしたりしています。


しゅのばん



以上のエピソードは、
僕もだいたい知っていたのですが、

最近観る機会があったアニメ
「まんが日本昔ばなし」で、
しゅのばんの新たな物語を知りました。

※ちなみに、上の拙い絵は
 そのアニメを参考に
 僕が描いたしゅのばんです。


内容はこんな感じです。



昔、生きることがつまらない
大工の男がいた。

彼は人生の目的が分からず、
女房にもそっけない態度。

毎夜、現実逃避のために
飲み屋をハシゴしては
そこの女中と酒を飲んでいた。

ある夜、
いつものように飲み屋へ行くと、
なんと、そこの女中の顔が、
しゅのばんに変わった。

大慌てで逃げ出した男は、
別の行きつけの居酒屋へ
飛び込むが、
そこの女中の顔も
しゅのばんに変わる。

しまいには、
道端の犬まで
しゅのばんの顔。

命からがら家へと戻ると、
女房の顔だけは、
いつもと変わらぬ
優しい顔であった。

この事件以来、
男は酒場通いを辞め、
家族のために一生懸命
仕事に励んだという。



この話は、
「それはこんな顔だったかい?」
と言って同じお化けがでてくる、
「のっぺらぼう」と同じ
怪異のパターンですが、

僕は、コチラの話のほうが、
「のっぺらぼう」より好きです。


観ていて、ラストでなんだか
目頭が熱くなってきました。



この主人公は
ニヒリズム(虚無主義)に
冒されていました。

生きる意味も、
目的も持てずにいました。

そんな男に、
しゅのばんが何気ない日常の
かけがえのなさを教えたのです。

そしてその日常を守ることに、
男は生きる目的を
見出しました。



こうして考えると、
しゅのばんは神の遣いのようです。

いや、
民俗学者・柳田國男が言うように
妖怪が「零落した神々の姿」
だとすれば(例外も多々ありますが)、
信仰を失ってもなお、
恐怖でもって人を救済する
しゅのばんは、
神様と同じくらい
尊い存在(=畏怖)だと感じます。


虚無の毒気が、
あちこちで濃密に
渦巻いている現代。

この物語は
輝きを失わないどころか、
ますます鮮烈に
われわれの心に
響いてくることでしょう。

ナレーションの常田富士男さんも、
最後にこう語っています。



『むかし、むかーし、
 今と変わらぬ、昔の話じゃ』

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