物語 タイムトラベルキラー
私はとある機関から派遣された執行者だ。
訪れたのは、今から10年ほど前の時代。
ミッションは過去に起こった大量殺傷事件を未然に防ぐことだ。
支給された端末に今回実行する事柄が送られてくるようだ。
賑わう街中、ホルダーで厳重に保護された端末が震える。
「〇〇にあるコンビニにて販売されている△△という雑誌を売り切れにする」
微かな動揺。なんだこのミッションは?
早急に店内にて店員に指定された雑誌を全て販売するよう要求する。
繁盛店だからだろうか、疲労困憊した様子の店員は疑うことなく在庫全てを用意して袋に放り込んだ。
買ったばかりの雑誌をそのままゴミ箱に捨て、店内の様子を伺う。
するとまた端末から○○公園へ移動するようメッセージを受け取る。
店内の様子が気になるが指令は最重要事項だ。
視界の片隅に制服を着た女子高生が先程売り切れにしたポイントで何かを探す仕草が見えた。
公園に着くと再び「池の付近にある一番大きな石を池に投げろ」と指令が下る。
全く意味がわからないまま指令どおり石を見つけ出来るだけ物音を立てないように池に沈めた。
その瞬間、端末から驚く内容の指令が。
「帰還せよ」
そんな馬鹿な。事件解決のため相当の覚悟で今回のミッションに挑んだが、その意気も薄れてしまった。
街から少し離れた地区。現在では新たなビルが建っている場所には取り壊し予定の古びたアパートがあり、その一室に過去と現在に通じる歪みを作った。
端末を操作して閉じていた歪みを再度生じさせた。
現在に戻るとスーツの上から防護服を着た相棒がPCを睨んでいた。
「成功だ」
「本当なの?本当に成功したの?」
相棒の横から画面を覗くと本当に対象の男の死亡という情報が確認できた。
事件自体も歴史から消滅している。
機密情報のため突入前には何も指令内容を聞かされなかったためか目の前の現象が信用できない。
「私たちは日々生活する中で小さな選択をいくつも行う。そこに生じた現象に未来は大きく影響するということだ。」
相棒は嬉しそうな顔を見せて振り返った。
ミッションに突入する前にデスクの上に置いた携帯が鳴った。
メールの内容は亡くなったはずの娘からの買い物のリストだった。
女は袖で涙を拭って出口へ走る。
勢いよく閉めたドアの衝撃で壁掛けの小さなホワイトボードが落下する。
支えていた画鋲が床に転がった。