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熊本市、部活動地域移行断念が本決定すれば公教育の終章となる


熊本市の中学校、「部活動を今後も継続」

熊本市の中学部活動の在り方について検討する「市部活動改革検討委員会」は同市の中学部活動に関して、今後も現行の体制を継続する中間報告を遠藤洋路教育長に提出した、というニュースが報道されていました。

部活動の地域移行が進む中で、その方向に逆行する中間報告を出したということは大きな波紋を呼びそうです。

下がり続ける志願倍率

ではこれほど従来型の強気な姿勢を示す熊本市は教員採用状況において志願者が十分に確保できているのでしょうか。

上のリンクを見る限りでは熊本市の中学校教員の志願倍率はR4年度4.2倍、R5年度3.2倍、R6年度2.1倍とここ数年で大きく志願倍率が低下しています。

これは「教師のバトン」などの教員待遇問題が顕在化、社会問題化したのと同じタイミングであり、現状では労働環境が改善するプレゼンスが一切ない状態であるため、このままであっても次年度の志願倍率が低下することが予想されます。

その上、今後も全く同じ状況であるということになれば推して知るべしでしょう。

「受け皿確保が難しい」

委員会はこの報告に対し以下のように理由をつけています。

地域移行した場合、地域スポーツクラブなどの受け皿確保が難しい状況も踏まえた。一方、教員の働き方改革との両立も重視。外部指導者を活用して教員の負担軽減を図る。

現状ではそうした受け皿が存在しないのは当たり前です。学校部活動がそうした地域のクラブ活動を阻害、駆逐してきたからです。

教員の無賃労働という奴隷制度を原資にして、指導料や施設利用料を価格転化しないダンピング行為で草の根の活動を邪魔してきたのに、いまさらになって受け皿がない、という言い訳はあまりにも稚拙です。

結局のところ、改革する意思がない、ということなのです。
(この委員会のメンバー選定からも現場の声を吸い上げる意思がないことはありありとうかがえますが)

そもそも熊本市は人口70万人を抱える政令指定都市です。仮に熊本市で不可能ならば、日本中のほとんどの都市ではこの取り組みは不可能なはずです。

このまま決定となれば公教育の終わりを意味する

現代の若者が無賃労働を覚悟で部活動を教えたい、というケースはほとんどありません。

特に仕事に紐づいているのに手当が出ないといったコンプライアンスを無視した行為は極端に嫌悪されます。
(一方で若者はボランティアに熱心な人も多く、地域のスポーツクラブにボランティアや指導員として活動したいという潜在的な人材はそれなりに存在します)

したがって、教員の不足はさらに加速することが目に見えています。

高校受験は昔から塾頼みだった

私が現役の中学生だったころ、今から30年近く前においても熊本市内の高校受験は完全に中学校から手を離れ教育産業に依存していました。

田舎特有の高校歴重視の風土に加え、普通科高校が偏差値順に序列化していたためです。

熊本市内の一般的な普通科高校は8校、それらの合否判定を行うことは学校の定期試験ではかなり難しい状況で、公立高校に進学を希望する生徒の大半は塾に通っていました。

その当時でさえそうなのですから、現在においてはさらに拍車がかかっていることは言うまでもありません。

実際、私も進学に関する面談では塾の言うことしか参考にしていませんでしたし、周囲の公立高校を目指す同級生も同様でした。

今回の中間報告が本決まりとなれば、もはや学校で勉強を教えたいという層は教員を志望することがなくなり、公立中学校は完全に部活動をするための場所に今まで以上に固定化するのは目に見えています。

遠藤氏の判断やいかに

熊本市の教育長を務めるのは記事にもあるように、元文部官僚の遠藤洋路氏です。

コロナ前の2018年度から熊本市の小学校に一人一台のタブレットを導入するなど、先進的な改革を行ってきた人物でもあり、彼の判断が注目されるところでしょう。

とはいえ、この報告を無視することは不可能でしょうし、熊本市の中学校は部活動機関として機能していく方向性が濃厚なのではないでしょうか。


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