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私立単願による学力低下は高校無償化の弊害ではなく、高齢化の必然


高校無償化の流れ

高校無償化を打ち出す自治体が増えつつあります。

このニュースに関してはまず補足をしておくと、そもそも私立を含む高校無償化はすでに2020年から国の政策としてスタートしていました。

ところがこの制度は所得制限によって無償化の恩恵を受けない世帯も多く、その点が問題となっていました。

今回のこの流れは、大阪を中心に支給額の引き上げや東京都の所得制限撤廃といったものが話題になったものであり、実際には新しい制度がスタートするのではなく、制度が拡充されるというものです。

私学は私企業だから無償化はおかしいという主張

私は私立高校に勤務していますし、教育は国家のインフラでありその受益者は社会全体であると考えているため無償化に大いに賛成しています。

しかし一方で私立学校無償化に対しては違和感を抱く人もいるようです。

その中でも最も代表的なものは「私立は私企業だから補助を受けるべきではない」という意見です。

まずこれに対しては反論をしておくと、私立学校は「学校法人」が経営をする公益法人等に分類される法人です。

学校法人が行う教育事業は公益性が高いことから収益は非課税となっており、税制上の優遇を受けています。

また私立学校は私立高等学校経常費助成費等補助金(私学助成金)と呼ばれる私学経営の補助金を国から受け取っており、公的な存在としても位置する団体となっています。

実際、教育内容などに関しては学習指導要領に準拠するなど、私立学校における教育活動は国の様々な規定や制限に基づいて行われています。

したがって私企業だから無償化がおかしい、というのは実情に反した主張であると言えるでしょう。

私立単願は学力を低下させているか

私学無償化反対論についてはこれ以外にも存在します。

それが「私立単願によって勉強をせずに高校に入る生徒が増える」というものです。

 従って受験勉強したくない子ほど、進学コースのある私立校への単願を希望する傾向にある。自分の偏差値よりも高めの高校でも受かってしまうし、授業料の負担がなくなったことから、親からの反対も少ない。

まずこの批判に答えるとすると、そもそも現行の高校入試においては下半分の生徒の進学する学校はもはや選抜する倍率になっていない、ということです。

田舎では公立高校の入試が第一選択になっていますが、県庁所在地クラスでもほとんど選抜としての機能は果たしておらず、ほぼ全入となっている学校が多数存在します。

さらに言えば、単願の場合も「偏差値が上の学校に合格する」というのは間違いで、単願の生徒の合格ラインをクリアしている、というだけです。

そもそもこうした低偏差値層に対してのフォローやケアが充実している私学が選ばれているという背景も存在します。

 以前であれば、勉強が嫌い、学業がふるわないと言う子は、実業系の公立高校へ進学して、資格や免許など何らかの「手に職」を身につけて社会に出て行ったものである。それが私立進学校に行ったものだから「手ぶら」で卒業だ。就職も難航するとなれば、その先の人生設計も立てられない。

その上この主張です。これはいつの昭和をイメージしているのでしょうか。実業系高校は依然として地方では人気ですし、そもそもが普通高校を希望する生徒とは最初から受験者層がずれています。

実業系の学校を好んで志望する「手に職をつけたい」生徒は初めから進学校を志願していませんし、普通高校でふらふら遊び回るような覚悟しかない生徒は工業や商業高校に行ったとしても資格も取れなければ、就職もおぼつかないのが目に見えています。

義務教育化した必然

若者たちの進学意識や就職意識の低下(と老人たちが認識する)は私立単願制度といった個別の事情が原因ではなく、高校教育が義務教育化し大学進学が半数を超える社会において必然的な現象です。

中学校卒業後に集団就職をする時代や、高校卒業後に現場仕事で汗を流す時代はとうに過ぎ去り、ほとんどの中学生は高校進学を前提として考える時代になっています。

しかしこれは嘆くべき社会の幼稚化でもなければ、若者の無気力化でもないでしょう。

平均寿命が80歳になろうかという時代において、かつてと同じタイムスケジュールで社会が動くことは難しいでしょう。

変えるべきは社会ではなく、私たち大人の認識なのではないでしょうか。

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