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手づかみ食べって必要なの?

前回までに、BLWやRFの特徴を含めてご紹介いたしました。

BLWとRFの違いは、要するに手づかみで自分で食べるか、スプーンで大人で与えるか、です。
BLWの本質はそこではなく、赤ちゃんが主体的であるかどうかが大事なのであり、RFとの共通点があるのだということをお伝えしましたが、今回はあえて手づかみ食べの重要性についても振り返ってみたいと思います。

手づかみの開始

まずは、色々と問題のあるガイドではありますが、厚生労働省の授乳・離乳の支援ガイド1)を見てみます。

手づかみ食べは、生後9か月頃から始まり、1歳過ぎの子どもの発育及び発達にとって、積極的にさせたい行動である。食べ物を触ったり、握ったりすることで、その固さや触感を体験し、食べ物への関心につながり、自らの意志で食べようとする行動につながる。子どもが手づかみ食べをすると、周りが汚れて片付けが大変、食事に時間がかかる等の理由から、手づかみ食べをさせたくないと考える親もいる。そのような場合、手づかみ食べが子どもの発育及び発達に必要である理由について情報提供することで、親が納得して子どもに手づかみ食べを働きかけることが大切である。
(p.30)

とあります。
手づかみの開始については、改訂日本版デンバー式発達スクリーニング検査では4〜8か月、津守・稲毛式乳幼児発達質問紙では6か月、遠城寺式乳幼児分析的発達検査表では5〜6か月となっていますので、実際には9か月よりもっと前から見られることが多いと思われます。

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食との関わりの始まり

こちらは日本の赤ちゃんを調べた研究2)ですが、実際には赤ちゃん自身が早くから自発的に手で食べていくことが示唆されています。
この研究は離乳期の母親と赤ちゃんとの関わりについてみているもので、BLWやRFについてもとても重要な視点が書かれています。

https://www.researchgate.net/publication/229940745_Weaning_in_Japan_A_longitudinal_study_of_mother_and_child_behaviours_during_milk-_and_solid-feeding

「9か月以内に固形食を摂取していない子どものほうが7歳時点での摂食に問題を抱えやすい」としている研究3)もあります。

これまでにもご紹介したBLWに関する総合的なレビュー4)においても、食との向き合い方について、食行動そのものへの関わりとしての重要性が語られています。
ただしBLWを選択している養育者は元々子ども自身の能力を尊重することや自主性を重視する傾向をもっていると思われますので、単純に手づかみをさせることだけが食行動の違いを生んでいるというわけではないでしょう。

手は突き出た脳!?

手づかみ食べについて語られるときによく言われるのが「手は突き出た脳である」という表現です。

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キモっ。
なんて言わないで・・・。キモいけど。
「ペンフィールドのホムンクルス」という有名な絵とそれを立体化させた人形です。
脳のどの範囲が体のどの部分と関わっているかを表現しています。
見ての通り、手と口の部分がとても大きいですね。
そもそも人類が人類として進化してきたことに道具を使って食べ物を得てきたことが大きく関わっていますから、手も口もとても重要であることに間違いはないでしょう。
赤ちゃんが手を協調的に動かすためには脳の様々な場所が関わっています5)。

実際にBLWを実践してみると、顎や舌の動きなどの口腔機能よりもまず、食べ物を扱うことがどんどんうまくなっていくことを実感すると思います。
最初はアボカドのような滑るものはうまく扱えなかったり、豆腐のような柔らかいものは潰してしまったりしますが、多くの赤ちゃんは本当に短期間でそれらをうまく扱うようになっていきます。

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この写真は初めてアボカドに触れたときの赤ちゃんの様子を撮影したものです。
最初はアボカドをナデナデしていました(笑)
これはこれでかわいい。
でも掴むことができないので食べることもできませんでした。
しかし一週間程度でこのように掴んで食べることができるようになりました。

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これが早くからできたからなにというわけではありません。
特に問題のない赤ちゃんであれば、当然ながら手で物をもつことはいずれはできるようになります。
ただし先に紹介した発達検査にもあるように、多くの赤ちゃんは6か月ごろから手でつかんで食べることができますし、させてあげればやるのです。
そのためには脳の様々な場所が関わり、体の色んな場所が協調して動いているということです。

手づかみをさせないとどうなるか?

先程の研究2)にもあるように食具を使い始めるのは個人差も大きいですが、うまく扱えるのは少なくとも1歳を過ぎてからになることが多いでしょう。
つまり1歳までは養育者が子どもに食べさせるのが主になるということです。
従来法でもそうなることが多いと思われますが、開始からおよそ6か月間は養育者が食べさせてきていることになります。
しかし多くの赤ちゃんはそれまでに、養育者が差し出したスプーンをつかんだり、大人が食べているものに手を伸ばしたり、「自分で食べたい」という行動を見せているはずです。
そのときにたとえば「汚れてしまうから」という理由であったり、大人が食べているものは味付けや形態などの観点から与えられずに、それを拒むということになってしまう。
そうした行動を通して、
「食べ物は自分で食べるものではなく、大人が与えるもの」ということを教えてきてしまっていることになるのです。
これを経て1歳を過ぎて自食を促そうとしてもうまくいかなかったり、手づかみをしたがる様子が全く見られなくなってしまうこともあるのではないかと思います。
そうしたことが先程の「摂食の問題」の研究結果3)につながってしまうのではないかと考えています。

何を優先し、どう育てるか。

とはいえ、汚れてしまうことがストレスになるのは受け止め方の大小はあれど当然ありますし、片付けも含めてそんなに時間をかけられない!という事情などもあると思います。
手づかみをしなくても栄養を摂ることはできるし、離乳期はほとんど親が与えていたけど特に問題なく育っているという経験談だって多くあるでしょう。
絶対にやらなきゃいけないの?と言われたら、それを絶対やるべしというような根拠はないと思います。

子育てはなにについてもそうだと思いますが、何を優先するか、どう育てていくかに養育者の方針がそれぞれにあります。
子どもの自主性を尊重したい気持ちが強ければ上記のような様々な検証をせずとも、BLWであれ従来法であれ、手づかみでも食具を用いるでも、自分でやろうとすることをやらせていこうとされるでしょう。

私個人は、それぞれが自分で生きる力を育んでいきたいと思っていますので、食べることに限らず子どもの自主性を重んじています。
それはあくまで私の考え方、ですね。

手づかみについては、させないよりはさせたほうがいい。
させないほうがいい理由は、子どもにとっては何もない。


でもそれを一緒に楽しむことができないのであれば無理にやるものでもないかな、というようなところでしょうか。

おそらくは、従来法で養育者がスプーンで与えることが始まりになってしまい、途中から手づかみでの自食が追加されていくからこそマイナス面が強くなってしまうのではないかなと思うのです。

あぁ・・・結局BLWがいいねって話じゃん、ってなっちゃいますね(笑)
まずはこれもひとつの考え方として受け止めて、それぞれの方々がいろんな側面から検討しながら、一番幸せで楽しいと思える方法を見つけていっていただければと願います。

一般の方であればこちらの書籍もオススメです!

1) 授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)厚生労働省
2) K.Negayama. Weaning in Japan: A longitudinal study of mother and child behaviours during milk‐ and solid‐feeding.  Early Development and Parenting. April 1993 2(1):29 - 37 DOI:10.1002/edp.2430020106
3) Coulthard H, Harris G, Emmett P. Delayed introduction of lumpy foods to children during the complementary feeding period affects child's food acceptance and feeding at 7 years of age. Matern Child Nutr. 2009 Jan;5(1):75-85. doi: 10.1111/j.1740-8709.2008.00153.x. PMID: 19161546; PMCID: PMC6860515.
4) Boswell N. Complementary Feeding Methods-A Review of the Benefits and Risks. Int J Environ Res Public Health. 2021;18(13):7165. Published 2021 Jul 4. doi:10.3390/ijerph18137165
5) 鈴木良次 手のはたらきと手による理解 1989 年 7 巻 5 号 p. 484-485 DOI https://doi.org/10.7210/jrsj.7.484


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