見出し画像

熱中症予防にスポーツドリンクはダメ!?

このところずいぶん暑い日も増えてきました。
この時期になると「熱中症予防にスポーツドリンクを!」という発信をよく目にします。
本当にスポーツドリンクは熱中症予防に適しているのでしょうか?
先に答えを書いてしまうと、もちろん「NO!」です。
この記事ではその理由を解説します。

熱中症対策は水分や塩分よりも、まずそういう環境にさらさないこと。

まず熱中症対策で最も大切なことは、
【暑い場所や大量の汗をかく状況に長時間さらさないこと】
です。
当たり前ですが、水分や塩分への発信が目立つためにこの部分が忘れられがちです。
暑くもなく汗もかかない状況なら普通の水分補給で十分なのですが、単純に暑い季節だからイオン飲料を常に持たせる、というようなこともありがちです。

授乳・離乳期はイオン飲料は不要。

幼いお子さんの場合、特に0歳は腎臓の機能が未熟です。
「3ヶ月ごろから」と書かれたイオン飲料なども市販されていますが、そもそも少なくとも6ヶ月未満のお子さんには母乳とミルク以外の飲み物は原則「与えてはいけない」です。

厚労省の授乳・離乳の支援ガイド1)には

イオン飲料の多量摂取による乳幼児のビタミン B1欠乏が報告されている。授乳期及び離乳期を通して基本的に摂取の必要はなく、必要な場合は、医師の指示に従うことが大切である。

授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)厚生労働省

と書かれています。
離乳期も含めて不要、です。

「学校でスポーツドリンク」はダメ!

では学齢期になったらどうか?ですが、その場合でもやはりスポーツドリンクは適していません。
日本学校歯科医会もスポーツドリンクについて警鐘を鳴らしています2)。

https://www.nichigakushi.or.jp/dentist/material/pdf/yobou_necchusyou.pdf

さらに、日本小児歯科学会は「イオン飲料とむし歯に関する考え方」として提言を行っています3)。
糖分濃度が高いため、スポーツドリンクがむし歯の一因となっているからです。
対策は以下のように示されています。

https://www.jspd.or.jp/recommendation/article10/

アメリカ小児科学会は、学校でスポーツドリンクを飲むことについては明確に「ダメ」と示しており、アスリートのみに限定しています4)。

https://publications.aap.org/pediatrics/article/127/6/1182/30098/Sports-Drinks-and-Energy-Drinks-for-Children-and

日本ではたまに「熱中症対策のために学校にスポーツドリンクを持っていく許可を」という働きかけを目にすることもありますが、暑い時期であっても日常からスポーツドリンクを飲むことは推奨されません。
熱中症の対応のために学校に経口補水液が備蓄されていればよいと思いますし、むしろ備蓄が必須だと思います。

なぜ熱中症対策に水やお茶ではなくスポーツドリンクが薦められることがあるのか?

ではなぜスポーツドリンクを薦める発信もあるかというと、大量に汗をかいた場合には水分だけでなく塩分も失ってしまうため、適度に塩分も補給することが必要となるからです。
そのため、文科省の「学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き」には

汗で失われた塩分も適切に補うためには、0.1~0.2%程度の塩分(1Lの水に1~2gの食塩。ナトリウム換算で1Lあたり0.4~0.8gを補給できる経口補水液やスポーツドリンクを利用するとよいでしょう。

学校における熱中症対策ガイドライン作成の手引き 文部科学省

と記載されています。
https://www.mext.go.jp/content/210528-mxt_kyousei01-000015427_02.pdf

あれ?スポーツドリンクって書いてあるじゃん、と思われるかもしれません。
確かに塩分補給も同時に行うという点では水やお茶にはない利点があるのですが、経口補水液とは異なりスポーツドリンクは塩分濃度が低く、糖分濃度が高いという特徴があり、この糖分が問題となるのです。
ここでは論点が塩分に絞られているため、経口補水液とスポーツドリンクの両方が推奨して書かれてしまっているものと思われます。

(以下、環境省の内容は2022年6月27日追記)
環境省は2022年に熱中症環境保健マニュアルを改訂し、「熱中症を防ぐためには」の章で、以前は塩分補給の観点からスポーツドリンクを薦める記述のみとなっていた部分に、

『ただし、これらの飲料には糖分を多量に(500㎖のペットボトル1本中、30g以上)含むものもあるので、飲みすぎによる糖分の過剰摂取に気をつけましょう。』

熱中症環境保健マニュアル2022

という追記をしました。
どのように気をつけるのか、もう少し踏み込んだ記述も欲しかったところですが、糖分の問題が少しずつ認識されてきているのでしょう。
また、いずれも『大量の発汗がある場合』の話となっています。

こんなところにもCOI。

「熱中症対策にスポーツドリンク」という発信への根拠としてよく用いられるのが「日本スポーツ協会」です。
この協会のホームページには推奨品として「ポカリスエット」、「ボディメンテ」、「アミノバリュー」といった大塚製薬の商品がズラッと並び、それぞれの商品ホームページへのリンクも貼られています。

わかりやすいなぁ・・・。


・・・とここまで書けば、僕のnoteを読んでくださっている皆様ならお気づきかもしれませんが、COI、利益相反が疑わしくなってきますね。

はい、支援団体企業にしっかり大塚製薬の名前が書かれています。
https://www.japan-sports.or.jp/

そりゃまぁ大塚製薬の製品を推奨しますわな。
ちなみにアクエリアスはコカ・コーラ社の商品ですので、推奨品には登場していません。
企業がらみの発信は基本的には信用してはいけません。
すべてが間違いとはもちろん言いませんが、彼らは商品を売るのが仕事ですから。

麦茶はミネラルたっぷり?

ちなみに、水よりも麦茶のほうがミネラルが入っているから良さそう!というのもありがちですが、これもさほどの量ではないので水と大差はなさそうです。

水分やミネラル補給を目的とした清涼飲料水のテスト結果について 石川県消費生活支援センター

スポーツドリンクが適したシチュエーションはほぼない。

熱中症対策の飲み物についても専門家や公の発信の中でもときにバラついてしまっているのが現状で混乱しやすいと思いますのではっきりと述べますが、スポーツドリンクが適する状況はほぼありません。
皆さんが熱中症対策として目にする発信の多くは「脱水症や熱中症の症状がすでにあるもの」だという点も注意が必要です。
その場合に適しているのは経口補水液ですね。

このテーマについても見事にまとめていてさすがだな、と思うのが、
「教えて!ドクター」様のフライヤーです。

熱中症の概要と応急処置のポイント
熱中症予防のポイント

すでに熱中症の症状があるものと、予防についてを分けて書いているところも素晴らしい。
スポーツドリンクに関してはわずかに注意喚起があるだけというところは残念ですが、そのあたりはまだまだ歯科の力不足もありますね。

誤った認識でスポーツドリンクを常飲してむし歯になったりしないように。
いつも発信しているように、「飲んだら歯磨き」ではむし歯は防げませんからね。
正しい知識を持って子どもたちや皆さんの体を守るために、この記事が少しでもお役に立てたら嬉しいです!

1)授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)厚生労働省
2)熱中症予防ポスター 公益社団法人 日本学校歯科医会
3)イオン飲料とむし歯に関する考え方 公益社団法人 日本小児歯科学会
4)Committee on Nutrition and the Council on Sports Medicine and Fitness. Sports drinks and energy drinks for children and adolescents: are they appropriate? Pediatrics. 2011 Jun;127(6):1182-9. doi: 10.1542/peds.2011-0965. Epub 2011 May 29. PMID: 21624882.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?