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短い物語 『国会郁茂の冒険』その2

償った罪は消え去り、新たなる過ちへの力を得る。重い荷物を谷底へ投げ捨てる前に、中身を確かめる者はいないのだろう

○カフェ・八埜森

総理の声「おぱようぽざいぱす、ぽの度は、みっかんのまいだで、ばい務省をぷくめ、ぱまぱまま」

客の少ない静かな店内。

郁茂、カウンター席に座りポータブルテレビを観ている。
テレビ画面内、総理官邸内でぶら下がりで会見をする総理大臣。

店主、郁茂の前に置かれた冷めた珈琲を下げ、湯気の立ち上る入れたての珈琲を郁茂の前に置く。

郁茂、珈琲をチラリと見てポケットから取り出した千円札を一枚カウンターに置く。

店主、千円札を手に取り、

店主「冷めても、甘味が出て美味しいですよ、うちの珈琲は」

郁茂、珈琲から上がる湯気をぼんやり見て、

郁茂「ノック先生」

ノック「呼んだかい?」

郁茂「ノック先生!?」

ノック「郁茂くん、君だけだよね、僕の身体的特徴を眉毛だけで言い表すのは」

郁茂「これは、まぼろし」

ノック「そうだよ、ある一定の基準を超えた国会議員を同時に三人も見た衝撃で、君の精神は一時的に破壊され、僕が選挙カーの中でセクハラをしたのちに死んだことも忘却の彼方へ消しさってしまっていたのだよ」

郁茂「ノック先生、あなたは本当に選挙カーの中でセクハラをしたのですか?」

ノック「ふふ、したよ、セクハラを、女の子の太ももをまさぐったよ。しかしね、同時にセクハラをしていなかった僕も存在しているのだよ」

郁茂「それは、いったい、どういう?」

ノック「僕がセクハラをしていないと、信じる人々が少なかった、それだけのことだよ」

郁茂「では、やはりノック先生は」

ノック「したよ、セクハラを」

郁茂「いや、僕は、貴方がどんなに女性の太ももを触りそうな太い眉毛をしていようと、セクハラはしていないと、信じています」

ノック「ありがとう、でも、したよ」

郁茂「僕はしていないと、信じます」

ノック「たくさんしたよ」

郁茂「僕は信じます」

ノック「太ももに我慢できなかったよ」

郁茂「いえ、あなたはそんな人ではない」

ノック「そうか、ありがとう……」

郁茂「ノック先生」

ノック「でも、したよ」

珈琲から立ち上る湯気が消えていく。

郁茂、閉じていた瞼をゆっくり開く。

店主、珈琲豆を挽いている。

郁茂「マスター、ご馳走さま」

珈琲豆が挽かれていく。

郁茂、店から出る。

つづく

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