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 仙台駅は黄土色を基調としており、物静かな印象を与える。西口から伸びる歩道橋は、喫茶店や雑貨店に行くならば必須である。その歩道橋の上から駅を眺めると、向かって左に黒い四角の時計がある。屋上駐車場がある。そのフェンスに立てかけるようにして、「仙台駅 SENDAI STATION」の文字を象った、夜になると橙色に輝く赤いネオンが設置されている。真昼の太陽と、空で滲んだ青白い月は、光を与えて、人に堅固な色素で裏打ちされたイメージを生み出す。太陽を鉄筋に埋め込まれたその駅を、ロフトが、ヨドバシカメラが、ロータリーを出入りするタクシーが、見ている。彼らは何も口にしない。彼らは歩道橋に陰を作る。そうやって出来た陰が互いの体を隠し合っていた。
 駅の構内は、本来ならば、照明がないのならば、暗いはずだった。誰もコンコースで身動きできるはずなどなかったのを、電気を通してきて光を作っている様は、地面を掘っていると不意に現れる大きな空洞に似ていた。
 人は疎らに地面から浮き出ている。そうして地面が痩せ細り、果たして遊戯だけを作るようになったあの日、風は賢しげ、勇気を忘れた。ずっとずっと望まれていた。海猫が暇を文字に読み、冷涼と共に紫へと漂着した。誰だって悪意を持っている。
 高校二年生になった彼を受け持つ渡辺は、数学の教師だった。渡辺は痩身の女性で、冬になると決まって薄手のベージュのカーディガンを羽織っている。その下のシャツは翠色で、淑やかな印象とカジュアルとが肉体を舞台に踊り惚けていた。

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