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デフバレー大会は、平昌五輪や東京マラソンにも負けずアツかった。

聴覚障がい者(デフ)バレーボール女子日本代表チーム監督の狩野美雪さんについて、1月9日にnoteを書いたところ、「国際大会だけでなく国内の大会も書いてほしい」という意見を多数いただきました。ありがとうございました。その意見はごもっともだ、と私も思いました。ならば出かけよう。

きのうの2月25日には、平昌五輪の閉会式があり、東京マラソンも開かれました。しかし、私が向かったのは川崎でした。お目当ては、「ジャパン・デフバレーボール・カップ」(デフカップ)です。

19回目を迎えた今年のデフカップには、北は北海道、南は熊本県までの男女計41のクラブチームが参加しました。私が観戦した25日は決勝トーナメントの試合があり、前日24日の予選リーグを勝ち上がった男子8チーム、女子9チームが日本一を目指しました。私自身、デフバレーを間近で観るのは初めてのこと。多くの出会いがあり、スポーツとは何かを考えさせられました。本日お届けするのは、デフカップ観戦記です。

今回の取材にあたり、ライター・編集者の桑原利佳さんとカメラマンの今村拓馬さんがボランティアで協力してくれました。原稿は桑原さんの取材成果を含めて書きました。掲載した写真はすべて今村さんの撮影です。

聴こえないのに…掛け声って不思議です

会場となったカルッツかわさきの体育館の観客席からは、あの「ニッポン、チャチャチャ!」のような声援はない。審判の笛の音とコート内の選手の掛け声が最大音量で響いている。だが、いくら審判の笛の音が大きくても選手には聴こえないから、タッチネットなどがあっても、ボールが地面に落ちないかぎり選手はプレーをやめない。審判はネットを激しく揺らして、プレーを止めていた。

選手は互いの声も聴こえない。ラリーが続いて選手同士の中間点にボールが行くと男子チームでは選手同士がぶつかっていた。だが、なぜか勝っているチームは大きな声を掛け合っている。逆に、連続失点やミスが相次いだチームはあまり声が出なくなる。実際に聴こえてはいなくても、雰囲気が伝わるのだろうか。声が出ているチームが勝っているという事実を目の前にして、不思議な気持ちになった。

独自の合図を考えているチームもありました

掛け声が聴こえないのを補おうと、独自の合図を作っていたチームもあった。

東京都の男子チーム「Challenger」だ。好プレーのあとに選手同士が3本指を立てて唇につけて笑い合っている。他のチームはしない仕草なので、手話とは思えない。試合後に聞くと、「あれは手話ではなくて、僕らが決めた『笑顔』『いいぞ』の意味の合図です。誰が考えたか忘れたけど、今年に入ってから使っています」と言う(言われて気づきました。確かに3本指を立てると「W」に見えますw)。

64歳のプレーヤーがバレーを続ける理由

山口県から参加した男子チーム「デフきらら」は選手7人のチーム。決勝トーナメント初戦の相手は、強豪の豊鯱会(愛知県)だった。監督の石風呂知典さんは指導を始めて約5年。試合前、「相手のスパイクは強烈なのでブロックをしよう。際どいプレーもチャレンジしよう」と言って選手をコートに送り出した。

控え選手は岡田宏実さん1人だけ。しかも岡田さんは64歳。出場選手のなかで最高齢だ。生まれつきのデフで、バレーは小学校6年生から始めた。この日は第2セットの後半、レシーブ役としてコートに入った。「昔は高いジャンプもできたし、強い選手だったんだよ(笑)。バレーは『努力を続けないといけないこと』『あきらめてはいけないこと』を教えてくれる。だからやめない」と話した。

結果はストレート負けだった。「スコアほど実力差があったわけではない。予選を勝ち抜いて決勝まで進めた。選手は自信をつけたと思います」と話す石風呂監督に、指導を続ける上で気をつけていることはありますか?と尋ねると、「選手たちを認めること。対等に付き合える関係になれるかどうか、に尽きます」と答えが返ってきた。

デフリンピック金メダルの影響? 6割以上が女子チーム

デフリンピックで女子の日本代表が金メダルを獲得したとあって、女子チームの戦いは熱気を帯びていた。参加41チームのうち、27チームが女子だった。狩野美雪監督が率いてデフリンピックで金メダルを獲得した「狩野ジャパン」のメンバーもデフカップに出場していた。取材をしてみると、選手はもちろんのこと、多くの人がかかわってチームを盛り上げていたことがわかる。

チームの救世主は小学校5年生でした

北海道DVC(デフ・バレーボール・クラブ)は、昨年の結成時は4人しかいなかったが、下は13歳の中学生から上は44歳までのメンバーを集め、初めてデフカップに参加した。大友吾基さんは知人の紹介で監督に就任。20年間のバレー指導歴があるが、デフチームの指導は初めてで、「手話もわからず最初は思うようにいかなかったが……」と当初を振り返る。

チームの救世主となったのは、選手の娘さんだった。

「選手の小学校5年生の娘さんが通訳をしてくれてコミュニケーションが取れるなどして、やっとチームが形になってきた。準決勝で負けはしたが、食らいつくことができた」(大友監督)。3位決定戦に勝ち、初出場ながら3位に食い込んだ。

「めっちゃ粘る」が信条も、一歩及ばず…

岐阜県を象徴する「鵜」からネーミングされたチーム「鵜女(うじょ)」の前島奈美さん(28)は「狩野ジャパン」のメンバー。「気持ちが強くて、めっちゃ粘る。アドバイスをしあって伸ばしていける仲間」とチームを説明してくれた。選手の多くはろう学校出身の社会人だという。

決勝戦でコート脇のベンチに座った天木智子さんは、ろう学校の教員で普段はチームのマネージャーだが、今大会は監督の代わりにチームを率いた。「私はチームをサポートしているだけ。監督代行というより選手を盛り上げる役割です」。試合中、大きな声や大きな身ぶり手ぶりで選手を鼓舞し続けていた。

相手は大阪府の強豪「SUN BOMBER」。第1セットは先行されたが逆転し25―19で先取。しかし第2セットは22―25で競り負け、第3セットも押し切られた。前島さんは「ゲーム中に『集中してひとつになろう』と声を掛けあったが、決定力が足りなかった。SUN BOMBERは落ち着いて周りを見ていて、勉強になるチーム。私たちも次は課題を克服して優勝したい」と決意を口にした。

Vリーグ経験者が語るデフバレーの魅力とは

デフカップで優勝した女子チーム「SUN BOMBER」の中でひときわ背が高い(178センチ)山崎望さん(32)は狩野ジャパンの主力で、小学校6年生のときにバレーボールに出あった。健常者のチームでプレーを続け、20歳のときからデフバレーを始めた。かつてVリーグでのプレー経験もある彼女は「デフバレーは、聴こえないからこそチーム内のコミュニケーションが重要です。その経験が健聴者チームでプレーするときにも役立ちました」とデフバレーの魅力を口にする。

そんな経験があるからこそだろう。彼女はこうも言った。
「まだバレーボールを始めていなかったり、健聴者チームに交じってプレーしていたり、健聴者チームでのプレーを断念したりする『潜在的なデフバレー選手』はまだまだたくさんいると思う。その人たちが、デフリンピックを目指してバレーを始めてくれればうれしい」

聴導犬ケリーは人気者でした

観客席には聴導犬がいた。試合中は出動機会はなく、観客に触られても静かに眠っていた。持ち主は、SUN BOMBERコーチの物袋(もって)信行さん(47)。もともとペットとして飼っていたが、人懐っこい性格だったため、聴導犬養成所に2年間預けて自身の聴導犬にした。耳が聴こえない物袋さんにとって、外出の際には欠かせないパートナーだ。名前はケリー。服を着ているときは聴導犬としてふるまうが、服を脱いだ途端ヤンチャになるのだという。物袋さんは「聴導犬は10歳で引退なのですが、ケリーが10歳になったらペットとして一生飼い続けます」と話した。

取材していると、助けてくれました

相手の耳の聴こえる程度や読唇術の技術の高さ、発声技術の高さなどによって、デフ選手への取材方法は異なった。

SUN BOMBERの山崎さんには質問を紙に書き、口頭で答えてもらった。こちらが質問を書くのが遅かったり、字がきれいに書けなかったりしていると、山崎さんは「大丈夫。ゆっくり話してくれれば書かなくてもわかるから」と言ってくれた。

途中からは、デフバレー日本代表の三浦早苗さんが取材を手助けしてくれた。前日の予選で敗退し、この日は観戦していた三浦さんがこちらの言ったことを手話通訳して、山崎さんに伝えてくれたことで、一気に取材はスムーズになった。「鵜女」の前島選手の取材のときも、紙に質問を書いて取材していると、監督の天木さんがさっと近くに来てくれて、質問を手話で前島さんに通訳してくれた。

健聴者は、デフカップ会場ではマイノリティだ。なにせ、みんなは手話で自由にコミュニケーションしているのに、こちらには、その手話がまったくわからない。

取材をしてると、近くにいる誰かが助けてくれた。助けてくれた人の思いは、山崎さんや前島さんが答えやすいように、こちらの至らないところを補おうとしてくれているのだが、結果的にこちらはとても助かった。

私たちは普段、障がいがある人をこんなふうに助けることができているだろうか?

スポーツの素晴らしさを感じつつ、帰りの電車の中で自問した。

19回目のデフカップは、女子が「SUN BOMBER」、男子は「好きやねん」と、ともに大阪府のクラブチームが優勝した。

決勝トーナメントの結果は以下の通りです。本文中のプレー写真は、いずれも男女決勝のゲームで撮影しました。

□男子【準々決勝】豊鯱会(愛知)2ー0 デフきらら(山口)、播摂デフバレーボーイズ(兵庫)2ー0 ミライ(愛知)、愛天翔(愛知)2ー1 熊本よかばい!(熊本)、好きやねん(大阪)2ー0 三重ボーイズ 【準決勝】豊鯱会2ー1 播摂デフバレーボーイズ、好きやねん―愛天翔(好きやねんの勝利) 【3位決定戦】愛天翔2ー1 播摂デフバレーボーイズ【決勝】好きやねん2ー1豊鯱会(①25ー19②22ー25③15ー7)

□女子【1回戦】KOBE WINGS(兵庫)2ー1 なでしこ(大阪)、北海道DVC(北海道)2ー0 tortoise(大阪)、鵜女(岐阜)2ー0 デフ・ウインドー2(茨城)、Amazones(東京)2ー0 タイ王国(神奈川)【2回戦】SUN BOMBER(大阪)2ー0 KOBE WINGS【準決勝】SUN BOMBER 2ー0 北海道DVC、鵜女2ー0 Amazones【3位決定戦】北海道DVC 2ー0 Amazones【決勝】SUN BOMBER 2ー1 鵜女(①19ー25②25ー22③15ー8)




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shoichiro kawano

新聞社で社会部記者や週刊誌の編集をしていました。中退して現在はフリーランスです。独自取材したオリジナルなものを、できるだけ多く書いていきたいと思っています。ダジャレもたまに書きます。Twitterは@shoichirok
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