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「語彙力」って本当に必要? 伝えるのがうまい人と下手な人の違い

こんにちは!

突然ですが、質問です。
みなさんは文章を書くとき、「語彙力不足」を感じる場面はありますか?

5、6年くらい前、「大人の語彙力」というテーマの本が流行りました。
Web記事だと、いまも結構出ているようです。語彙力の鍛え方。アプリも出ているんですね。

でも、語彙力は本当に必要なのでしょうか。そもそも語彙力って、なんなのでしょう。

今回は「語彙を増やすよりも大切なこと」について考えてみます。

「語彙力」とは?


まずは語彙力の定義を確認しましょう。

語彙力とは、「どれだけ多くの言葉を知っているか」および「どれだけ言葉を使いこなせるか」に関する能力を意味する表現。

Weblio辞書

前者の「どれだけ多くの言葉を知っているか」は「ボキャブラリーの豊富さ」、後者の「どれだけ言葉を使いこなせるか」は「言葉を適切に使う力」と言い換えられるでしょう。

ここから「語彙力がない人」を考えると、「言語化が不得意」「表現が単調」「場面に応じた使い分けが苦手」といった特徴が挙げられます。

伝えたいことがあるけれど、どう書けばいいかわからず、言葉足らずになる。結果、ネガティブな印象を与えてしまう、あるいは誤解させてしまう。

こんな経験がある人、たくさんいるのではないでしょうか。

ぼく自身、編集者として指示を出すときに「こんな感じで」と伝えた結果、相手を誤解させてしまい、作業が二度手間になった経験が何度もあります。文章で伝えるって難しいですよね。

「たくさん覚えること」よりも「適切に使うこと」が大事


語彙力の定義で、「ボキャブラリーの豊富さ」と「言葉を適切に使う力」の2つがありました。

ただ、多くの人は語彙力を高めようとするとき、前者、つまり「ボキャブラリーの豊富さ」に気をとられすぎているように感じます。

単語(言い回し)をたくさん覚えればいい。まるで受験生のようなマインドです。それを裏づけるように、語彙力の本は「単語帳」みたいな構成になっています。

でも個人的に、この考え方には違和感があります。

ぼくは仕事柄、文章でのコミュニケーションが多いのですが、経験上「語彙が豊富でなくてもやっていける」と思っています。少ない語彙でも気持ちを伝えたり、相手の行動を促したり、多くの読者に共感してもらったりすることは可能ということです。

むしろ重視すべきは、定義の2つめ「言葉を適切に使う能力」ではないでしょうか。

つまり、「たくさん覚えること」よりも「適切に使うこと」を意識する。この考え方のほうが「伝わる」に直結するのでは、ということです。

意外とできていない「言葉の正しい使い方」


では、どうすれば「言葉を適切に使う力」は身につくのか。

「言葉を適切に使う力」は、「正しく使う力」「相手に合わせる力」の2つから構成されます。

さらに前者の「正しく使う力」は、「1. 誤用しない」「2. 理解していない言葉を使わない」「3. 思考停止ワードは最小限に」に分かれます。

図にしてみました。一番右の3つを見てください。


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1. 誤用しない
使い方を間違えがちな日本語には注意。

例:
・話のさわり(「話の最初」ではなく「話の要点」という意味)
・NG:采配を振るう/OK:采配を振る

【とくに敬語の間違いには注意!】
「貴社」と「御社」
→「貴社」は書き言葉、「御社」は話し言葉。なので、メールやプレゼン資料などでは「御社」ではなく「貴社」と書くのが正しい。

・「拝見させていただきます」「先方がおっしゃられました」
→二重敬語の代表例。それぞれ「拝見します」「先方がおっしゃいました」が正しい

2. 理解していない言葉を使わない
いざ意味を聞かれると意外と答えられない言葉には注意(とくに横文字)。
例:コアコンピタンス、カスタマージャーニー、スケーラビリティなど

3. 思考停止ワードは最小限に
よく使われている言葉ほど、使うときは一旦立ち止まって考える(具体性を欠きがちなため)。
例:効率化、多様性、DX、サステナビリティなど
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ここで「3. 思考停止ワードは最小限に」の実体験をひとつ。

駆け出しの編集者だったころ、ギャル誌(ギャルのファッション雑誌)の編集をしていたのですが、当時「甘辛ミックス」という言葉が流行りました。女の子っぽい部分が「甘」、かっこいい部分が「辛」です。たとえば、「フリルのスカート+レザージャケット」みたいなコーディネートを「甘辛ミックス」といいます。
この「甘辛ミックス」は非常に万能な言葉です。見方によっては、なんでも甘辛にできます。

ファッション誌では、モデル一人ひとりに付くキャプション(短い文章)を大量に考えねばならないのですが、「甘辛ミックス」の万能さに気づいた編集者たちは(ぼくを含め)、あらゆるページを使いまくるようになりました。

「この子も見え方によっては甘辛だよね」
「黒いジャケットだから”辛”になるでしょ」
「バッグは甘辛な感じがあるから間違ってない」

こんな感じで編集部全体が思考停止になった結果、「甘辛ミックス」はあらゆるページに登場しました。1ページに3、4箇所くらい出てくることもありました。あれもこれも甘辛ミックス。なんならスーツ姿の男性でも「ネクタイとジャケットのコーデが甘辛ミックス☆」なんて書けそうなくらい基準が緩くなっていました。

そして、お別れは突然やってきます。

「おまえら、ちょっと来い。なんだこれ? どのページも甘辛ミックスばっかじゃねえか!」

編集長に怒られて、甘辛ミックスはしばらく使用制限が設けられました。

コンサル横文字を「語彙力」と呼んでいいのか?


話がそれました。

「言葉を適切に使う力」は、「正しく使う力」「相手に合わせる力」の2つに分けられるんでしたね(前掲の図)。

後者の「相手に合わせる」とは、言葉の使い分けです。
相手が小学生なら平易な言葉を選び、ビジネスパーソンなら畏まった言葉を選ぶ。日常のなかでごく自然に使っている力です。

ただ同じ環境で働き続けていると、無意識に「業界の共通言語」を使ってしまいがちです。

先月まで、ぼくはPwCという会社に勤めていたのですが、ときどき日本人のコンサルタントが使う「?」な言葉を見かけました。

たとえば、「Twist」「Boost」「At a glance」「Bullet Points」です。みなさんは意味がわかりますか?

Twistは「ひねり出す(工夫する)」、Boostは「促進する」、At a glanceは「ぱっと見」、Bullet Pointsは「箇条書き」という意味です。ぼくはあとから考えて(調べて)みてわかったのですが、最初見たときはまさに「?」でした。

動詞はともかくAt a glanceやBullet Pointsなんて、日本語のほうが確実に伝わりますよね。略しているわけでもないですし、むしろわかりづらくなっているだけ。こういう横文字を使う人は「語彙力がある人」とはいえないと思います。

語彙力は、あくまで相手に伝わるために必要な能力です。
自分では洗練された言葉を使っているつもりでも、相手に伝わらなければ、それはただの雑音。場合によっては「聞き返す(調べる)」といった余計な手間をとらせてしまいます。

結局、仕事のコミュニケーションで最も重要なのは、伝えたいことが正確に伝わること。そのためには、新卒でも伝わるような「わかりやすい言葉」を選ぶ。

これを実践すれば、語彙が豊富な人とは思われないかもしれませんが、少なくとも認識のズレや読み手の負担をぐっと減らせるはずです。

みなさんが仕事の現場で見聞きした横文字があれば、ぜひコメントで教えてください。

では、また次回の記事でお会いしましょう。

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