スライド0

前時代的モチベートから抜け出すためのデータドリブンアンケート

この記事で言いたいこと

・モチベーションを構成するのは、自律性、熟達、目的、心理的安全性
・データを取得する前に、目的変数を決めよう

私は誰か

どうもはじめまして、Shoです。メトロエンジンでCOO兼チーフデータサイエンティストをしています。メトロエンジンは、AIを使ったダイナミックプライシングシステムをホテルやレンタカーを中心に様々な業界に提供しているスタートアップで、2016年10月に創業し、これまでに累計13億円ほど資金調達をしています。

なぜモチベーションアンケートを作ることになったか

メトロエンジンでは、会社の成長に伴って社員の数もどんどん増えており、だんだん一人一人が何をしているのか、どういう状況で働いているのかが見えにくくなってきました。そこで、今年の6月から人事制度の改革を始めています。

私にとって人事とは、「会社のミッションを成し遂げるための”人”のマネジメント」です。会社のミッションを成し遂げるためには、お金や、ネットワークや、設備も必要ですが、その中でも”人”の重要性は群を抜いています。

人のマネジメントをMECEに分けようとすると、以下の図のようになります。まず、社員は今いる人と今いない人に分けられます。今いる社員に対しては、Skill(能力)Will(やる気)の両面からアプローチする必要があります。なぜなら、能力だけがあってもダメですし、やる気だけが高くても空回りしてしまうからです。両方兼ね備えてこそ、ハイパフォーマンスを発揮できます。そして、それぞれに対して、育成とモチベートという別々の施策が必要です。今いない人のマネジメントは、採用ですね。つまり、人のマネジメントは、育成、モチベート、採用の3要素から構成されているといえます。

採用と育成はどの企業も当たり前のように取り組んでいますが、モチベートをきちんと考えているところはまだ少ないでしょう。しかし、こうして考えてみると、3要素のうちの1つであるモチベートにしっかりと取り組まないことがいかに片手落ちの状態か、ということが分かります。

育成と採用については、また別の記事でまとめたいと思いますが、これらは、基本的に、中長期事業計画と現状の引き算から、計画や制度を定めていきます。

会社のミッションや事業計画を達成するためには、今の体制で十分なのか、不十分であれば、どんな能力や人員が不十分なのか、それらを部署ごとに落とし込み、それらを社員が目指すべき形として育成計画とし、育成では足りない部分を採用で補う計画を立てます。

それでは、モチベートは何から始めればいいのでしょうか?Skill(能力)と違って難しいのは、他人から見てWill(やる気)の状態が分かりにくいという点にあります。「みんながめっちゃやる気ある状態」なのがいいのは分かりますが、では今どのくらいやる気なんでしょうか?さっぱり分かりません。どのくらいまでやる気が向上すればいいんでしょうか?まったく分かりません。困りましたね。

こんなときは、アンケートです。

アンケートは、素晴らしいものです。定性的なものを定量化することができます。ブランドの価値、広告の影響、購買意欲、満足度、など、ありとあらゆるふわっとしたものがアンケートにより数値化されています。数値化できれば、データ分析することで、より説得力や納得感をもって施策を進めることができます。

定量化は、データドリブン化の大事な第一歩です。

モチベーションに重要な要素は?

よーし、モチベーションを測るアンケートを作るぞ、と意気込んでみたはいいものの、どんな質問をすればいいのでしょうか?

「あなたのやる気はどのくらいですか?0から10でお答えください。」と聞くのはどうでしょうか?

悪手です。

なぜ悪手かというと、打ち手につながらないからです。例えば、社員全体のやる気平均値が7だとしましょう。

で?っていう

7がいいのか悪いのかも分からないですし、これを上げるために何をすればいいのかも分かりません。最も重要な改善ポイントがどこにあるのかを突き止めることこそが重要です。会社の雰囲気なのか、タスクの割り振りなのか、給料なのか、福利厚生なのか。時間もリソースも限られるスタートアップにとって、どれも重要という解は要りません。どれが一番重要か、という解がほしいのです。

そのためには、何がモチベーションをもたらしているのか、網羅的かつクリティカルな要素を知るべきです。それらの要素について質問し、重要な要素の中でも、我が社にとってはどれが最重要なのか、特定するための質問を用意しましょう。

ある分野について知識がない場合、自分でオリジナルアイデアを生み出すのは非常に危険です。経営であっても、マーケティングであっても、研究であっても、まずは巨人の肩に乗りましょう。オリジナリティの発揮に取り組み始めるのは、巨人の肩に乗り終えてからです。守破離とも言います。

モチベーションについても、すでに先行研究があり、多くの書籍が出版されていますが、今回、私はこの本をベースに質問を組み立てました。

本書によると、人は豊かになったり、仕事の内容が変わっていくにつれて、モチベーションの源泉が変わってきています。

食べるものがない時代には、生き残ること自体がモチベーションでしたが、その後、生活が安定し、アメとムチでモチベーションをコントロールする時代に突入しました。今でも、多くの企業ではこの方法でモチベートしていますが、様々な実験結果から、アメとムチのような外発的動機づけよりも、内発的動機づけのほうが重要であることが科学的根拠とともに明らかになっています。

特に、興味深い実験は、献血にいくばくかの報酬を与えた場合と与えない場合、報酬を与えないほうが長期的に献血をする人が多かったというものです。

〈モチベーション2・0〉の観点から言えば、このグループは一つ目のグループよりも、もう少し献血率が高くなるはずだ。そもそもこの女性たちは、内発的動機づけからこのセンターに足を運んだのだ。そのうえ、いくばくかの金額を得られるとすれば、モチベーションを後押しするきっかけになるかもしれない。ところが ─ ─ ここまで読んでくれたみなさんならもうお察しかもしれないが ─ ─ そうはならなかった。このグループでは、献血した人はわずか三〇%しかいなかった。報酬は、献血者数を増やしたのではなく、一つ目のグループのおよそ半分に献血者を〝 減らす〟役割を果たした。

この例は、外発的動機づけが完全ではないことを端的にあらわしていますし、結果に対する納得感もあります。

モチベーション2.0と呼ばれるアメムチ法には7つの欠陥がありますが、要するに、アメとムチを与えることで短期的にはモチベーションをブーストさせることができますが、長期的に見ると、アメとムチが目的化してしまい、それらがないとやる気が出ない状態になってしまいます。

アメムチ法は、必ずしも悪いわけではなく、アルゴリズム的な業務、つまり単調作業に対してモチベーションを向上させるためには、有効であることが分かっています。

ただし、昨今、単調作業はどんどん自動化されてきており、実際にはそのような業務は少なくなってきています。創造性を働かせなければならない業務に対しては、モチベーション3.0の考えを導入していくことが求められます。

モチベーション3.0の中では、自律性熟達目的がモチベーションを司る3つの要素とされています。

自律性とは、個人が決定権を持っているか、を示すものです。特に、4T(Task, Team, Technique, Time)について、自分でコントロールする余地があるかどうかが重要です。すなわち、自分自身でタスクを決め、自分でチームを選び、自分で考えた進め方、自由なスケジュールで業務をすることがモチベーションにつながるということになります。

熟達とは、価値のあることを上達させられているか、を示します。人は誰しも仕事を通じて成長を求めています。しっかりと価値のある成長をできていれば、モチベーションが上がることは自然に理解できます。

目的とは、意義のあることに取り組めているかどうかです。自分の仕事が組織、顧客、社会に対して意義のあることかどうかによってモチベーションが影響を受けます。

これらは、言われてみると、確かに納得できる要素で、私自身の実体験とも合致します。私が新卒5年目のとき、(少なくとも自分にとっては)大きなプロジェクトを推進していました。あの当時、すべてのことを自分で立案しながら進め、自分の成長にもつながっており、事業の立て直しという明確かつ意義のある目的のもとに仕事をしており、確かにやる気に満ち溢れていたことを思い出します。

具体的には、新規事業の立ち上げを立案し、プロジェクトの進め方は自分で考えながら進めていましたし、事業計画の立て方、英語での契約書締結、価格交渉、工場の品質管理の考え方など多くを学びました。実際、大企業で新規事業を立ち上げた経験は、今、スタートアップのCOOとしての事業立ち上げに大いに役立っています。

と、ここで、一つ疑問がわいてきました。

「心理的安全性」はいらないの?

いま流行りのアレです。

昨今、職場に求められる要素として頻繁に挙げられる心理的安全性は、Googleがその重要性を提唱して注目を浴びています。

Googleは、この本でも語られているように、あらゆる人事施策をデータに基づいて進めています。

Googleが発見したのは、心理的安全性だけではありません。Googleがデータ分析をもとに人事施策を考案するre:Workという取り組みの中で、成功するチームの共通点として、以下の5つを掲げています。

1. 心理的安全性
2. 信頼性
3. 構造と明瞭さ
4. 仕事の意味
5. 仕事のインパクト

この中で、信頼性構造と明瞭さについては、先程モチベーション3.0の3要素の1つである自律性を表していると考えられます。互いに信頼していなければ、仕事を任せる、つまり相手に自律性をもたせることはできませんし、チーム目標や役割分担が明確でなければ、裁量権だけを与えられても、自律的に組織のための行動を取ることができません。

仕事の意味仕事のインパクトについては、モチベーション3.0における目的が相当します。また、仕事を通じて熟達すると感じられる場合、それは個人として仕事に意味を見出すことにも繋がります。

しかし、心理的安全性については、モチベーション3.0の中で触れられているようには思えません。

ということで、我々のモチベーションアンケートにも加えることにしました。これで、二人の巨人の肩に乗ったことになります。

しかし、これだけでは万全ではありません。

モチベーションアンケートの設計

ここまでで、アンケートの質問を、自律性、熟達、目的、心理的安全性、4つの大項目で構成することが決まりましたが、果たしてこの中で、どれが一番重要なんでしょうか。

それはおそらく、企業ごとに、また、フェーズごとに異なるはずです。大企業とスタートアップでは、重要性の重心が違うはずですし、また、同じ企業でも、黎明期と成長期では、必要な要素が異なるでしょう。そこで、目的変数をあらかじめ設定しておきます。

機械学習や統計分析における用語でもありますが、目的変数とは「結局何を目指すのか?」を表し、一方、説明変数は「目的変数に影響を与える因子」と考えればよいです。

機械学習のモデルでは、多数の説明変数(たとえば、年齢、職業、貯金額、など)から、一つの目的変数(たとえば、デフォルトリスク)を予測することが目的ですが、今回は、目的変数を予測することではなく、どの説明変数が特に目的変数に対する影響が大きいのかを特定することが目的です。

それでは、今回、「結局何を目指す」んでしょうか?

たとえば、社員のパフォーマンスを目的変数にするのはどうでしょうか?たとえば、営業であれば目標達成率や、部署に関わらないものであれば、昇進スピードのようなものです。

3つの理由で悪手です。

1つ目。これらはそもそもパフォーマンスを表しません。目標達成率の場合、そもそも目標の難易度が異なることが頻繁にありますし、達成できるかどうかは外部要因の影響も大きいです。また、昇進スピードが早いことは必ずしもパフォーマンスが高いことを意味しないことは、明らかです。

2つ目。パフォーマンスは、最初に提示したSkill(能力)とWill(やる気)が掛け合わされて発揮されるものです。今回のアンケートはモチベート、つまりWillを改善するためのポイント探しなので、パフォーマンスを目的変数にしてはいけません。

3つ目。このアンケートは匿名です。したがって、回答と社員をあとで紐付けることはできません。そのため、目的変数はアンケートの質問として盛り込んでおく必要があります。

それでは、総合的な満足度を目的変数にするのはどうでしょうか?

「あなたは、この会社での仕事に満足していますか?」

職場や仕事に対する満足度とモチベーションにはかなり高い相関がありそうです。自律性、熟達、目的、心理的安全性におけるスコアが高ければ、総合的な満足度もきっと高まるでしょう。

しかし、私は総合満足度ではなく、以下の質問を目的変数としました。

「今の会社で働くことを、親しい友人や知人に勧められますか?」

これは、NPS(Net Promoter Score)と呼ばれ、満足度の代わりに使われることが多くなっている指標で、今回は従業員が対象のため、特にeNPS(employee NPS)と言われます。

NPSが満足度よりもすぐれているのは、そもそもNPSが、業績と相関のある指標を探すために作られたものであるため、満足度よりも、企業としてのパフォーマンスをより表すように設計されている点にあります。

また、満足度を聞いてしまうと、その時点での気分が反映されやすいのではないかと個人的に考えています。たまたまその日に良いことがあったり悪いことがあったりして、それに影響された満足度を測定し、それに基づいて施策を考えるのはリスクです。

それよりも、「今の会社で働くことを、親しい友人や知人に勧められますか?」と質問することによって、自然と、その日の気分を除外して回答しようとすることを促せるのではないかと思います。親しい友人や知人に物事を勧めるというのは、それくらい重要なことですから。

以上のことから、以下のようなアンケート設計となっています。

eNPSを目的変数とし、自律性、熟達、目的、心理的安全性を説明変数とし、回答後に集計して相関を取ることにより、これらの説明変数の中で、今の弊社にとってどれが一番重要なのかを知ることができるはずです。

なお、このアンケートは、4ヶ月に1回実施して、経過を観察することにしています。そうしないと、打った施策の効果検証ができませんし、新たな問題が浮上したときに気づけないですからね。

ちなみに、現在第一回アンケートの回答が完了し、集計中です。このアンケート結果をもとに、施策を実施して、また結果が出始めたらnoteに書こうかなー。

まとめ

・モチベーションを構成するのは、自律性、熟達、目的、心理的安全性
・データを取得する前に、目的変数を決めよう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?