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映画感想『燃えよ剣』


ネタバレ気にせず

原作を読んだので、もう一度観てみることにしました。

原作を読む前は、早口すぎて訳分からず、何をやっているかも訳わからず、という感じでした。
原作を読んだ後は、はしょりすぎて物足りなく、もっと時間さえあれば...という感じでした。

要するに、勿体無い。

土方歳三の生涯を追う物語ですから、映画化するとしたら、当然石田村から函館まで描かないといけないと思うのはわかりますが、どう考えても流石に無理がありますよね。2時間半でこんな重厚な原作を描くだなんて。

とりわけ、僕は原作の鳥羽伏見の戦いがとても好きです。読んでいて心臓が止まるような緊張感を抱きました。そこがあっという間で泣けましたね...。

どうせ他の人も言っているのでしょうが、原作のように前後編にするか、ドラマにしてやれば、かなりの良作になったのではないでしょうか。

何故なら、岡田准一の土方歳三が好きすぎるからです。熱烈な原作ファンがどう思っているのかはわかりませんし、しったことではありませんが、個人的にはしっくりきていました。彼の人生にはじっくり観る価値というか、じっくり観させるような魅力のオーラが出ていますし、殺陣は言うまでもなくカッコよかったです。
原作を読んで最も発見があったのが、京都を出てからの土方歳三の方が、よっぽど孤独で魅力的に映ったということです。なので、改めて映画を見直して、オールバッグのカッコいい土方歳三の出番があまりに少なくて、もっともっと細かく彼の人生の道程を、岡田准一の土方歳三で観たかったという思いが強くあります。
軍艦に乗る土方歳三の絵も見たかったですし、ストーンウォールという当時の最強船に奇襲を仕掛ける土方歳三も心の底から見たかったです。近藤勇と別れた後くらいから、五稜郭までの、平坦に映る激動の日々こそ、土方歳三の最後を美しくする材料です。映画にはそれがありませんでした。ならば、五稜郭まで描く必要もないわけです。鳥羽伏見の戦いで終わらせる代わりに、鳥羽伏見までの、いわば青春時代を重厚に描いた方が、作品的にもまとまりがよく、原作の魅力を存分に出せたのではないでしょうか。
本当にもったいないと思いました。土方歳三だけでなく、絵の作りや、展開のリズムや、役者たちの真摯な態度も本当に素晴らしかったので、心の底から、もっと内側の炎が燃え滾る最高傑作になる可能性があったと思えて仕方がありません。

また、今回の映画で最も力が入っていたのは池田屋事件でしたね。あそこのクオリティはよかったですね。事件が起こる前の緊張感の高まりの作り方がまずよかったです。山崎烝の暗躍が原作以上に丁寧に描かれていて、これをやりたかったから山崎烝に焦点を当てていたのだと感心しました。肝心の切り込みも、近藤勇の豪胆さぶりが出ていて、荒々しく、血なまぐさかったですね。でも、新選組のエピソードとして最も濃いのは池田屋事件ですが、土方歳三はたいして何もやりません。何せ、別のところに行っていますからね。
原作の燃えよ剣は土方歳三の物語です。ですが映画の燃えよ剣は、新選組を描こうという、つまり、新選組の知名度で金を稼ごうという魂胆が若干の邪魔をしているのではないでしょうか。そんな気がしてしまいます。原作では何度も、鳥羽伏見の戦いの後から、土方歳三が最も輝いた時期だ、というような表現が使われます。ここからなんですよ、土方歳三は……。

原作を読んだことで、より映画に対する失望と、映画に対する可能性を感じてしまったわけですね。

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