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劣等感の話

・鬱漫画で有名な、浅野いにおの「おやすみプンプン」が7/7から全話無料だったので週末に一気読みした。


・はるか昔にサラッと読んだ記憶はあるのだけど全然内容覚えてなかったので新鮮に読めた。そして、ちゃんと陰鬱な気分になった。ああいうのに触れるときは後に人と会う予定を作っておく必要があるよな。

・主人公が小学生から成長していく中で色々思い悩んで、どんどん破綻していきながら、どうやって現実と折り合いを付けていくのか、みたいな話。…なんだけど、まあそんな一言で表現できないようなものだというのは読んだ人なら分かるよね。なんか自分でも意識していないような心の奥の方の部分を、冷たい棒でグチャグチャにされる感じがある。

・誰しもが少なからず経験したであろう外部(他者とか社会)との摩擦が露骨に発現したり、それが自分のどっちつかずな性格に由来しているために罪悪感を揺さぶられたり、結局そんな事は自分しか気にしておらず、自意識が肥大している故の苦しみでしかないということに気付いてしまったりする。

・この手の、登場人物がどんどん落ちていくタイプの作品で気分が落ち込んでしまうのは、十中八九自己を投影してしまう(≒自分も同じようにどうしようもない人間なんだという感情になる)ことに由来していると思う。

・ここで発生する劣等感っていうのは文字通り他者との比較によって発生するものだが、それはつまり他者(特定の個人ではなく、「誰かしら」)はそのような悩みを抱いていないという前提で成り立っている。

・しかし、この漫画が大多数の共感を得るということは、誰しもがそういった劣等感を抱いているということになる。結局こういう感情は、自意識に由来した、取るに足りない感情でしかないことが分かる。そんなこと、誰しも気付いているのだけれど。

・いちいち写実的な街並みのカットが挟まれるのも、社会と自分が乖離しているということを強調しているようで焦燥感を煽られる。実際は他者の視点でも同じように見えているし、自分もそんな社会の一部でしかないのに。

・「おやすみプンプン」の最後の数話では、そういった要素が如実に表現されていた。

・主人公は壮絶な展開を迎えつつも、最終的には人並みの生活を送ることになる。視点は主人公の小学校時代の友人(それまではすごくマトモな人間として描かれている)に移るのだが、この友人も順風満帆な生活のようで、実は小さなストレスから漠然とした殺人衝動を抱いている。そこで10数年ぶりに主人公と出会うのだが、主人公の周りには仲間がいて、とても眩しい人間に映る、という感じ。

・そういえば今更だけどネタバレ注意ね。(!?)

・読んだ人向けに言うと、雄一おじさんの子供の目に神様が居たり、ハルミンの生徒が第一話の主人公のような心情を抱いていたり。それぞれにどんな人生があろうとも、それは当人のストーリーでしかなくて、そんな中で誰しもそれなりに生きているんだよ、ということが言いたいんだろうなと。こんな感想、死ぬほど擦られているのだろうけど。

・自分と本当の意味で一緒に生きていくのは自意識だけなんだという、結構考えさせられる教訓を感じた。そんな週末。


・まあそういう訳で感情移入して読んだら相当面白かったんだけど、自分ももういい大人なわけで、客観視というか、どこか冷静な視点を持っている部分もあった。これは昔読んだ時にはなかった感覚だった。

・ということで、ここから思想強め。

・まず、主人公は物語を通して散々ああすべきこうすべき、ああしなければよかった、こうしておけばよかったと悩み続ける。自分もその考えは分からなくもない。けど、そんなこと考えても何にもならなくね?ということをずっと考えながら読んでいた。

・主人公は悩む中で、こういう行動を取ると自分の思いにそぐわないから…とか誰かがこう思うだろうから…みたいな思考に陥る描写が非常に多かった気がする(自意識過剰ゆえ?)が、そういうところに折り合いをつけて上手に生きていくのが大人だと思うし、そこを上手いこと対処できる自分を愛せばいいのに、とか思っちゃったな。本当の自我とあるべき社会性が相反することがあって、意に反して社会に適応する選択をしたとしても、その選択をするのは自分の意志なんだし。なんやかんや生きていけている自分を毎日褒めてあげればいいと思うんだよな。結局、最後に自己肯定感を与えてくれるのは(いろんな過程はあれど)自分しかいないんだから。

・あと、主要な登場人物、軒並み家庭環境が終わっている。そりゃ陰鬱な雰囲気にもなるわ。

・ちなみに、登場人物の中では早乙女さん(幸の元旦那)が好きです。ちゃんと努力に裏付けされた自信を持っていて、結果を出しているから。

・早乙女さんのように後から自分を正当化できるようになるためにも、日々を適当に過ごしちゃいかんよってことだね。自分の機嫌は自分で取れ。そのためには何でもしろ。⇐俺はそうやって生きる。⇐君たちはどう生きるか。⇐映画やるらしいね。観に行きます。⇐この勢いのまま終わります。引き続きよろしく。

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