見出し画像

中小企業の役員個人やその相続人のリスク


 株主代表訴訟や第三者訴訟、これら役員個人に対しての損害賠償請求は株主やその他利害関係者の多い上場企業や大手企業ならではのイメージをされている方も少なくないだろう。しかし、役員等賠償責任保険(通称D&O保険)の引受ならびに開発をしてきた私が実際に関わった役員個人への損害賠償請求は意外にも中小企業が多数である。本記事は中小企業の役員が何故、そして、誰から訴訟を提起されてしまうのかの概要をまとめている。

株主代表訴訟

 広範囲の親族(姻族等)が株主等に含まれている場合は、一定の株主代表訴訟リスクが考えられ、実際に、株主代表訴訟の80%以上が中小企業を舞台に起きている。
 特に多発しているのは同族による経営権争い、すなわち、経営者の私的流用だ。中小企業の場合、特に創業者から次世代に会社の株式について相続がなされると、同族で株式を持ち合うこととなり、(代表取締役は会社を支配できているが)同族で会社の経営に関与できていない者には不満が募るであろう。代表取締役が同族会社であることを良いことに、会社の財産と個人の財産を混同したり、会社の財産で投機を行って損を出したりすれば、経営に関与していない同族株主は、絶好の機会と考えて株主代表訴訟を提起する傾向にある。
 また、同族以外に取引先等の第三者が株主の場合も株主代表訴訟のリスクは高まる。第三者の株主は、リターンを求めることを主な目的として会社に出資しているため、当然だが同族株主以上に出資金以上のリターンを求めることになることは明白だ。もし、会社がその出資金をうまく活用できず、結果的に会社が損を出すようなことがあれば、第三者の株主は自身の出資金(保有株式の価値)が極端にマイナスにならないよう、会社の損を役員に補填させるために株主代表訴訟を提起する可能性がある。

第三者訴訟

 会社の業務に基づいて損害を受けた第三者は、通常は会社に対して損害賠償請求するのが自然だが、最近は、代表者個人(役員)に対しても損害賠償請求をすることが多発している。中小企業ならではだが、会社よりも代表者個人の方がお金持ちであるケースが多いからである。訴訟を提起する第三者側としては、可能な限りの損害賠償金を得るため、(当然だが)お金を持っている代表者個人へ損害賠償請求することは自然な流れであることは想像が容易いだろう。アメリカではこのような考えをDeep Pocket Theory(ディープ ポケット セオリー)と呼ぶ。「Deep Pocket(深いポケット)=お金持ち」を意味し、請求するならばお金持ちに対して請求すべきという理論だ。
 また、(代表者個人の資産を脅かす)役員個人への第三者訴訟を提起することで、被告である代表者個人は、損害賠償請金が必要以上に膨れ上がることを避けるため、原告である第三者に有利な和解を持ち込むことも期待できる。

会社役員の遺族が抱えるリスク

 会社役員に起因した損害賠償請求を遺族が相続してしまうリスクだ。前述の損害賠償責任に伴う会社役員の損害賠償債務は、その役員にとってのマイナス財産(=連帯保障や借金等)となるため相続の対象となる。つまり、会社の役員として活動していた個人が死亡した際に、その相続人にあたる遺族が損害賠償請求を受けてしまうというケースが想定される。
 相続制度上、被相続人や相続人が存在を知らない財産も相続の対象となることから、その役員自身が、損害賠償責任を負っていることに気付いていない場合でも、その損害賠償債務は相続人に引き継がれることになる。相続人は、相続が発生したことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所に対し「相続放棄」の手続きを行い、(損害賠償請求も含めた全ての財産の相続を放棄すれば)損害賠償債務を免れることも可能だが、相続を放棄するか否かを決めるに際しては、被相続人の財産を調査することになり、その調査には相当程度の時間を要することもあって相続放棄の手続をすべき3か月以内に調査が完了しないことも考えられる。(期間を延長する制度もある)
 そのような背景から、目に見えるプラス財産(=現金、預金、不動産等)があれば、相続を放棄するといった選択を取る相続人は少ないと言われている。

 以下の記事でも中小企業の役員個人に纏わるリスクを述べているので、関係者は是非参考にしていただきたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?