ポケモンGOとイノベーション

WebITやらUXやらの最先端をひた走る業界柄、テック系の流行には目ざとい。7月くらいから仕事先でもポケモンが流行しだした。

この流行には偏りがあって、だいたい島机それぞれごとにプレイヤーが多いほど、流行が続く傾向にある。最も長く流行が続いているのは、自分たちでSlackにポケモンチャンネルを立ち上げてしまったエンジニアチームで、職場周辺にレアポケモンが出現すると報告が入るようになっている。昔ポケモンが流行った時も、子ども同士のゆるやかな連携が本ゲームの流行に大きな役割を果たしていたのと同様、ポケモンGOもシステムの外側にこれを補完するエコシステムが構築されていて、そこに接続できた人は長く存命できる。

しかし、フロア内を見渡すと興味深いことに気付く。プレイヤーの中で最もレベルが高いのは、情報感度の高いエンジニアチームではなく、独り黙々とプレイを続けたおじさま方なのである。プレイされた方はお分かりだと思うが、ポケモンGOはレベルが高くなるほど、指数関数的にレベル上げに必要な経験値が増えていくので、レベル上げだけをモチベーションに続けていくのは実は難しい。しかし、おじさま方はカーブボールの投げ方も知らぬまま、エンジニアチームが見向きもしないコダックやキャタピーにモンスターボールを投げ続け、フロア内のレベル最上位に君臨し続ける。

職業柄、こういう現象をみると、ユーザーセグメントとは何かといった話につなげてしまうのだけれど、それと同時に、習熟や探求とはなにかを考えさせられるエピソードで、個人的にはそちらの方が興味深い。

企業が競争力を維持し生き残っていくためには、計画を立てて努力を積み上げていく(PDCAサイクルを回す)のはもはや時代遅れで、OODAやNCWのように、状況に即して様々な人とコミュニケーションを取りながら、パラダイムを変化させていく環境を作らなければならないと人は説く。

しかし、真に変革をもたらすようなことを率先してやり遂げているのは、どちらかといえば「独り黙々と」という人に多い。チームとしてのドグマと、個人としてのドグマは、必ずしも一致するわけではない。件のPDCA不要論というのは、優秀な個人が黙々と取り組む際に目指す方向性や感覚が、チーム全体の「計画」と不整合を起こしたときのプロセス損失を問題にしているのであって、結局のところ「大きな組織のイノベーション」に適用される話だ。

「個のイノベーション」は別に構える必要があって、たとえば2人や3人で始めたベンチャーは、先ほどのコミュニケーションを適切に取り、パラダイムを変化させ続けたエンジニアチームのやり方よりも、黙々とポケモンボールを投げ続けたおじさま方の方法論のほうが、むしろ成果を叩き出すことがある。OODAやNCWが必要になるのは拡大期に入ってからだ。内向的な積み上げ型の取り組みの重要性も無視できないほどに大きいし、自覚的にせよ無意識にせよ、それをうまく利用している組織が生き延びている。

しかしこれを世は俗にオタク気質と呼び、得てしてコンテンツ関連企業は、その気質故に拡大できず伸び悩むのである。むべなるかな。

本当はトサキントを例にVRにおける記号的受容の問題を論じるつもりだったのだが、脱線したまま今日はここまで。

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