フィールドをたくさん持つということ
こんにちは、関野です。
最近、劇場を買いたいということやライナーノーツなど演劇のことについてしか書いていないが、僕は都内で正社員として働いている。
僕は大学卒業とともに劇団を旗揚げし、アルバイトをしながら劇団を主宰していた。それがちょうど1年前、今の会社の社長とゴールデン街で出会い、社員にならないかと誘われた。
それまでめちゃめちゃ小劇場界隈らしい生活、つまりアルバイトをしてお金を貯め、そのお金で公演を打ち、赤字になるか黒字になるかのヒリヒリを歩いていた僕は社員になってから少しだけ生きやすくなった。それは金銭的な面ももちろんあるが、どちらかというと精神衛生面のほうが大きかった。
社員になってから変わったことはたった一つ。
自分の価値がわかるようになった。
価値とは、必ず相対的で、量的な少なさか、程度の少なさでしか測れない。つまりめちゃめちゃ珍しい人か、めちゃめちゃできる人にしか価値はない。
アルバイトをしながら演劇をしている人たちはめちゃめちゃ多い。僕はそのなかでめちゃめちゃできるようになりたかった。つまり売れたかった。ただ残念ながら、みんな同じような背景を持ち、同じようなものを見た人たちの中で、僕が飛び抜けるには何かが足りなかった。
いまでももちろん程度で飛びぬけたいと思っていて、何か面白いことはないかと思いながら這いつくばってはいるが、会社に入って少し見方が変わってきた。
僕が会社に入ると、当たり前だが演劇をやっている人はおろか、演劇を見たことすらない人が沢山いた。僕がアルバイトをしてた頃はあんなにしょっちゅう見かけたのに。
生きてるフィールドが違うとこんなに人種が違うのかと、かなりの衝撃だった。
そして、一番の衝撃が言葉の違いだ。使っている共通言語があまりに違いすぎたのだ。それまで演劇業界でバカみたいに『第一の輪が云々』などと語っていたことは、会社では全然当たり前じゃなかった。
むしろ『なんだその言葉は!?』と不思議がられながら、演劇のとても基礎的な知識を喫煙所で話したりすると大層喜ばれた。
そして会社に入ってしばらくしたあと、自分の劇団で会社で使っている言葉を使うと、こちらももちろん『なんだその言葉は!?』と驚かれた。
これまで皆が同じように頑張っている世界の中で一番を目指しながら自分の技術を磨くことに一生懸命頑張っていた僕は少し拍子抜けした。
なんだ、価値ってすぐ出るじゃん。と。
もちろん程度の競争を諦めたわけではないし、ある特定の世界でめちゃめちゃ凄い!って言われたいけど、単純な数の少なさに目を向けることってとても重要だなと気がついた。
そして、程度の競争は自分の価値がある程度まで上がった上で、同等の価値の人と共有する方が精神的にも絶対効率的だと気がつけた。
だから、幾つかのフィールドを持ちながら、どこでも自分の価値を見出せるようになりたいなと思って、最近はとにかくいろんなことに手を出そうと思っています。
おわり。