日本に病院船は必要なのか?

以前から、定期的に病院船の議論が出てくる。今回は病院船が日本にとって有益なのかを考えていく。

結論から書くと、日本に病院船は必要ない。持つことに意味はあるが費用対効果が悪い。

以下では病院船について、その役割と課題から見ていく。

まず、病院船の役割を考えていく。病院船の役割は大きく有事と平時に分けることができる。
つまり、「戦時の負傷兵収容拠点」「災害時の救援拠点」(有事)
「外国派遣によるプレゼンスの強化」(平時)

である。

この中で「戦時の負傷兵収容拠点」は戦場の近くに利用可能な医療拠点がない場合、つまり遠征を想定しているので日本の場合は憲法の兼ね合いから想定されない。下記の記事で主な病院船保有国として挙げられていた3か国のうちアメリカは世界中が戦場になりえる国であるし、イギリスもフォークランド紛争のような例がある。

二つ目に挙げた「災害人の救援拠点」としての役割。これは災害の多い日本にとって病院船を持つ意味になりえるのではないだろうか?
大規模な災害が起きた時は病院も被災している可能性が高いし、道路が安全に使える保証もない。
ここで病院船は必要であると書きたいところだが、病院船が活動するであろう港は使えるのであろうか?そして港に向かう道路は安全なのだろうか?
 道路は無くてもヘリコプターで患者を輸送すればいいが、だったら被災していない地域の病院に運んでもいいのではないか?災害発生時に被災地近くにいるとは限らない病院船を回航してくるよりよっぽど早く対応できる。
それにアメリカは都市間の距離が開いているため都市間の医療リソースの融通が困難だが、日本の場合は都市間の距離が近いので有用な輸送手段さえあれば医療リソースの融通は容易にできる。

三つ目の「外国派遣によるプレゼンスの強化」は外国の災害への派遣や交流のための派遣を想定している。困っているときに病院船を派遣してもらえれば助かるし、平時の交流でも武装した軍艦を派遣するより圧迫感がすくないだろう。実際、アメリカの病院船マーシーが交流のために日本に来たのは記憶に新しい。
この外交目的の保有は病院船を保有する理由になるが、外国に派遣した病院船は派遣期間中日本の災害対応ができないという欠点がある。

次に、病院船を保有するにあたっての課題を見ていく。下記の記事によれば「建造費280~700億円、維持費18~50億円のコスト」「平時の活用方法」「医療スタッフの確保」が課題という。それぞれ順番に見ていく。

まずコストの話をする。建造費280~700億円、維持費18~50億円というのはイージス艦などと比べると安いかもしれないが、この予算をすべてドクターヘリに回せるとしたらどうだろうか?ドクターヘリの運用コストは年間2億5000万円、つまり最大で20機のドクターヘリが病院船の維持費だけで賄える。建造費の280~700億円で拠点病院の能力強化を行えば災害時の対応能力は病院船導入並みに向上するのではないだろうか?
そして大事なのはこうして強化した医療インフラは平時にも役に立つという点である。つまり「平時の活用方法」「医療スタッフの確保」という問題を論じる必要はなくなる。


以上が、病院船は日本には必要ないと考える理由である。


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