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牡丹から薔薇へ、そして昭和のモダンなバラへ

1 愛されるモチーフ・薔薇

大正から昭和初期(太平洋戦争前まで)の着物や帯の文様を調べると、すこしずつ薔薇の絵柄が増えてゆくのが興味深いです。薔薇は遠慮がちに、着物の裾模様や帯の端に出現し、徐々にその範囲を広げてゆきます。

昭和初期のモスリン帯
昭和初期の昼夜帯

今も昔も、新しい意匠を求める呉服の世界です。顧客のすでに持っているものでは販路が開けません。まずはカジュアルなお品から、ということで、モスリン帯(上)や若い女性向けの昼夜帯(下)に薔薇が現れ始めます。

2 牡丹にとって代わった薔薇

明治・大正・昭和初期を通じて、花の王者は牡丹でした。どんな帯でも中央を占めて毅然と咲くのが牡丹です。

牡丹花は咲き定まりて静かなり 花の占めたる位置のたしかさ 
                        木下利玄


この句にあるように、着物でも帯でも、牡丹は一番良い位置を占めて、華やかに咲いています。

牡丹の刺繍帯
牡丹と桜の刺繍帯
牡丹と四季の花々の子供着物

こうした傾向が変わってきたのは、昭和10年頃からでしょうか。顧客に新しい商品を提供するために、薔薇の絵柄が少しずつ増えてきます。面白いことに、牡丹をそのまま薔薇に置き換えているデザインが多くなってきます。少しずつ主役交代というところでしょうか。

3 太平洋戦争後の薔薇

ご存じのように、昭和きもの愛好会では、薔薇モチーフの帯を多数所蔵しております。また、薔薇モチーフのものを集めて展示を行ったこともあります。戦後の薔薇、いえ、バラと呼ぶのが適切かもしれません。この花々のモダンさ、お洒落感は洋服そのものです。

昭和50年頃の帯(染め)
昭和50年頃の帯(織)
昭和40年頃の帯(織)
昭和40年頃の帯(織)
昭和40年頃の帯(染めに刺繍)

年代はお譲りいただいた方の聞き取りに基づくもので、おおよそで恐縮ですが、いずれのコレクションも戦後の経済成長の時期に作られたものです。上向きの日本経済を反映して、華やかで明るいデザインです。着物も帯も、洋服のテイストが反映していた時代です。和のものとはいえ、衣服は時代と経済をそのまま反映することが良く分かります。
似内惠子(一般社団法人昭和きもの愛好会理事)
(この原稿の著作権は昭和きもの愛好会に属します。無断転載を禁じます)

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