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激しく身体感覚に訴える〜ジャック・ロンドン 『火を熾す』

ジャック・ロンドンというと『野生の呼び声』や『白い牙』あたりがよく知られ、読まれているのかな?

でも、短編にもすこぶる魅力的な作品は多い(短編のほうが筆力を発揮できているのではないかと思うほど)。

10年以上昔、スイッチ・パブリッシングから出た柴田元幸氏セレクションの『火を熾す - 柴田元幸 翻訳叢書 ジャック・ロンドン』は

一時期品薄で、プレミア価格までついて(けっこうな、そしてあこぎな)いたことからも、当時からその内容と評価がたかかったことがわかる。

その高値がついたところでわたしは購入したんだけれど、とはいえ、それに見合う十分な内容、満足度だった(10年近く積読だったけれど、寝かす必要があったのだろう)。

表題の『火を熾す(おこす)』という作品は、地味ではあるけれど、知る人ぞ知る作品で、知っているひとからすれば「そりゃそうだよな」と納得の、揺るぎない代表作のひとつ。

その『火を熾す』はもちろんのこと(絶望的な寒さと、それに対する恐怖、生きのびることができるか否かのギリギリの境界線上で浮かび上がる生命の描写)

実際にボクサーだったことがあるんじゃないかっていうくらい高い臨場感、リアリティ、迫真にみちたボクシングもの(ボクシング、ボクサーものは二作収められているけれど、どちらも白眉の出来)など。

とくに圧倒されたのは『メキシコ人』。

ここまで終始ヒリヒリ(肌感覚)させられ、読んでいるあいだずっと、胃の腑になんともいえない塊(かたまり)をグリグリとねじこまれ続けた読書体験はない。

感覚(身体)だけでも近いものはなかったかなと思ったら、パッと浮かんだのは高橋和巳の『邪宗門』。

これは劇薬だったなぁ。

長編とかは関係なく、内容的に手に負えなくて(そこまで精神が成熟していなかった)読み終えるのに3年くらいかかってしまったけど。

『メキシコ人』にもどって。

この一編だけでも本書を購入して読む価値はある。

もちろん、読みて次第ではあるけれど。

それと、これは未読だけど、ジャック・ロンドンの半自伝的小説として『マーティン・イーデン - MARTIN EDEN』なる作品もあるんだよね。

映画化もされていたりして。

ジャック・ロンドン
『火を熾す』

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