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放射線とは? どれくらい浴びると危険なの?

福島県で起きた第一原発事故をきっかけに、「放射線」「放射線量」「放射能」などの言葉がさかんに飛び交うようになりました。

言葉の意味をきちんと理解して怖れるのならいいのですが、あの事故発生以来、放射線や放射能という概念は存在すら許されないという空気が蔓延したのも、原発事故の発生で起きた奇妙な現象でした。

ここで放射線というものについて、今一度おさらいしておきたいと思います。

放射線と放射能の違い

放射線とは、放射性物質が発する光線のようなもの。放射能とは、放射線を発する能力のこと。人体への影響を論じる文脈で使われるのは、放射能ではなく放射線のほうです。「大量の放射線は健康に被害を及ぼす」とは言っても、「大量の放射能は健康に被害を及ぼす」とは言いません。まあこのあたりは日本語の問題ですね。

放射線は自然界にも存在します。人間が放射線の影響を受けずに生きていくのは不可能です。太陽光にも放射線は含まれますし、わたしたちが普段口にする食べものにも、放射性物質が含まれるものがあります。とくに人体の維持に不可欠なカリウムなどはその典型です。

自然摂取の放射線について

わたしたちは毎日微量の放射線を浴びながら生活しています。放射性物質は地球誕生のその瞬間から発生した言われ、大地や大気から放出を続けてきました。地球上のすべての生き物は外部被ばくと内部被ばくを繰り返しながら進化を遂げてきたのです。

人間はどれくらい放射線を浴びているかというと、日本平均でひとりあたり年間2.1ミリシーベルト、世界平均でひとりあたり年間2.4ミリシーベルトといわれます。

自然界にはもともと自然放射線が存在しており、あらゆる生物はその影響を避けられません。いっときテレビなどで著名人が堂々と「放射線がゼロの世界を目指そう」などと言っていたように記憶しますが、これは酸素や二酸化炭素のない世界を目指そうと言っているのに等しいくらいです。

食べものによる内部被ばく

食べものにも放射性物質が含まれます。つまり、わたしたちはほぼ100%、内部被ばくを繰り返しながら生活しているわけですが、安心してください。体内に取り込まれた放射線は細胞を一時的に傷つけますが、傷ついた細胞はすぐに修復します。DNAに蓄積されることはありません。なかには細胞が修復不可となるケースもありますが、それらは死滅してのちに新しい細胞に再生されます。

わたしたち人間が食品を通してもっともひんぱんに摂取している放射性物質が、カリウム40です。カリウムは動植物にとって必要な元素で、構成物質のうち0.012%をカリウム40が占めています。カリウム40を含む食べもの・飲みものは、生ワカメ(200ベクレル)、ほうれんそう(200ベクレル)、キャベツ(70ベクレル)、魚(100ベクレル)、ポテトチップス(400ベクレル)、米(30ベクレル)、牛乳(50ベクレル)、ビール(10ベクレル)などです。※原子力安全研究協会『生活環境放射線データに関する研究』(1983年)より。

ちなみに、日本人は平均7000ベクレルの放射性物質を体内に取り込んでいると言われます。もちろんこれらは天然の放射性物質で無害ですが、原発事故によって漏れる放射線も自然界に存在する天然放射線も本質的には変わりません。線量が同じなら人体に与える影響も同じです。

どれくらいの放射線を浴びると人は死ぬのか?

太古の昔より人類と深い関係にあった放射線。長年研究も続けられていますが、いまだその解明には至っていません。人体に悪影響を及ぼすと言われたり、反対に健康によいとも言われたり、不可解な部分が多く謎に満ちています。

ただひとつ分かっていることは、放射線を一度に大量に浴びると生物は死に至る、ということです。「一度に大量に」というのがポイントです。逆を言うと、一度に大量に浴びさえしなければ、死んだりがんになったりの可能性は低いのです。先述の通り細胞には再生と修復の能力がありますから、微量の放射線を長期にわたって浴び続けても、それほど深刻なダメージにはならないと言えるのです。

これは別に放射線に限らず、どんな物質もそうではないでしょうか? 納豆ばかりを食べても人は死にますし、コーラばかりを飲んでも当然死にます。自然現象といっていいくらいシンプルな論理です。

放射線医学の世界では、大量の放射線を浴びて健康被害が発生する症状を急性放射線障害と言います。それを引き起こす線量は、1シーベルト以上です。白血病や発がんなどを誘発する線量は、0.2シーベルト以上。いずれも年単位ではなく、瞬時に浴びる量です。

1~2シーベルトの急性放射線障害では吐き気や嘔吐、食欲不振、骨髄障害などの症状を誘発しますが、致死レベルではありません。確実に死に至ると言われるのが、4シーベルト以上です。4シーベルトの放射線を瞬間的に浴びた場合、60日以内に半数以上が死亡、倍の8シーベルトに達すると100%死亡すると言われます。

もちろん胎児や妊婦などは個別にリスクと影響の度合いを考えなければなりませんが、一度の大量被ばくが人体に悪影響を及ぼすという論理は同じです。

ちなみに、急性放射線障害が発生するほどの甚大な事故・人為的被害があった例というのは、広島・長崎への原爆投下、中国によるウイグルでの地下核実験、チェルノブイリ原発事故、東海村JOC臨界事故などです。福島の原発事故はあれだけ騒がれましたが、放射線障害で誰かが死亡した例は今現在ひとりもありません。これだけはしっかりと認識しておきたいものです。


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