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『紫式部と清少納言二大女房大決戦』試し読み④

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 こうして、後宮を舞台に、宮廷女房・紫式部としての生活が始まった。
 彰子の近くにはべり、漢籍の講義を行い、ときには倫子の話し相手も務める。そして、物語を書きつづるための大量の紙を前に、ひたすら苦吟する。
 宮仕えは気が張るもの。多くのひとびとが出入りする宮中で、いつなんどき呼び出されるかもしれず、女主人の話し相手をするだけならともかく、同僚たちの目、宮中に出仕する貴族たちの目を、常に意識しなくてはならない。
 そのうえでの執筆なのだ。
 引き受けるのではなかったと、香子は早くも後悔していた。
 白い紙の前に座し、筆を握っていざ書こうとしても、なんの文章も湧いてこない。以前は眠るのも惜しいくらい筆が走っていたのに、あのときの活力はどこへ行ってしまったのか。呼び戻せるのなら呼び戻したいのに、そのすべもない。
 道長からは矢の催促が来るし、何も知らないはずの同僚女房からも「あの物語の続きはどうなっていまして?」と無邪気に質問される。そのたびに香子は頭を抱えたくなった。
 書きたくないわけではない。書けるものなら書きたい。
 だがしかし、これまでとは状況が全然、違うのだ。
 唯一無二の存在、この国の天子に「面白い」「読みたい」と思ってもらえる物語を作らねばならない。さらに言うなら、帝の関心をこの藤壺に、彰子に向けられるよう、図らねばならない。果たしてそんなことが可能なのかと香子自身も疑問に思うが、彼女に望まれているのはそれなのだ。
 そんなこんなを考えると、深い山に迷いこんだかのようにますます心細くなり、書けるものも書けなくなってしまう。子供のように手放しで泣きながら御所を飛び出してしまいたくもなる。
「ですから、そう肩に力を入れずとも」
 事情を知る衛門は局をそっと訪ねては、彼女なりに香子を励ましてくれた。
「迷っているようなら、話だけでもわたくしが聞きましょうか? もっとも、わたくしは歌は詠みますけれど、物語を書いたことがなくて、なんの助言もできそうにないのですが」
「ご謙遜を。学者の背の君を持ち、博識で知られる衛門さま以外のどなたに、こんな話ができましょうか」
「そうなの? まあ、いつかは何か書いてみたいとは思いますけれどね。思うばかりでなかなか」
 そう言って笑いながら、衛門は脇息を引き寄せ、じっくり話を聞く態勢に入る。香子もおぼえ書きを広げ、再確認を兼ねて物語の骨子をざっと説明する。
「帝の皇子として生まれ、臣籍にくだった源氏の君……。彼が慕うのは、亡き母にそっくりだという藤壺の宮……」
「そう、その藤壺の宮なのだけれど」
 話し始めたばかりだというのに衛門に止められ、香子は出鼻をくじかれてしまった。
「はい? 藤壺の宮がどうされましたか?」
「病で実家さとに戻られた宮のもとへ源氏の君が無理に押しかけ、関係を持つ場面があるのだけれど、空蟬のときに比べると、描写があっさりしすぎてはいない?」
「はあ」
「はあではないわよ。しかも、これが初めてではないようにも読めるではありませんか」
「あ、いえ、それはどこかの段階で、宮は源氏の君から恋の告白をされ、これはいけないと距離をおこうとしていたのに、この〈若紫〉の巻でとうとう……という流れでありまして」
「だったら、その告白の場面をなぜ省いたのですか。いえ、義理の母と息子ですからね、あまり詳しく書くのはどうかと、ためらう気持ちはわかりますよ。けれども、初めてふたりが結ばれた夜は別でしょうに。なぜ、もっともっと詳しく書かないのですか」
 想定外の衛門の熱の入れように、香子はまごつきながらも、なんとか説明を試みた。
「それは……。藤壺の宮は帝の妃で、しかも皇族出身の姫君。そのような高貴なかたのねやをつまびらかに書き記すなど、さすがに畏れ多くて……」
「同じく皇族の姫君、末摘花の場面はなかなか細かかったのに?」
「末摘花の君の場合は、笑い話ですから」
 ふうむと衛門は不満げな息をつきながらも、「まあ、いいでしょう」と攻撃をゆるめてくれた。
「では、今後の展開は? やはり、朧月夜との恋が中心になっていきますの?」
「そのつもりだったのですが……」
 そこが悩ましいところだったのだ。
「朧月夜の君は、東宮――源氏の君の異母兄のもとへの入内が決まっておりました。ところが、源氏の君との関係が世間に知られてしまい、朧月夜の入内は難しくなってしまいます」
「あらまあ」
「当然、朧月夜の姉の弘徽殿の女御は激怒します。もともと源氏の君を目の敵にしていた弘徽殿は、『源氏の君には朝廷をないがしろにする気持ちがあるのです』と主張いたします。さらに、源氏の君の後ろ盾だった父君の桐壺帝が亡くなり、窮地に陥った源氏の君は、これ以上、事が大きくなる前にと、自ら須磨すまの地へ退きます」
「なるほど。高貴なかたがわれのない罪を背負って都を離れ、遠国えんごくをさまよう。しゅりゅうたんというわけですか」
 さすがは衛門さま、理解が早くて助かると、香子は感心した。
「はい。須磨から明石あかしへとさまよい続けた源氏の君は、そこで運命の女人と出逢うわけなのですが……」
「ですが? 何か不都合でも?」
「物語の舞台が宮中ではなく遠い須磨明石に移ってしまうと、いささか話が地味になるような気がいたしまして……」
「地味に」
「主上のご興味をひかなくてはならないのに、雅やかさが大きく減じてしまうこの展開で、それが果たして可能であるのかという懸念が……」
「雅やかさが減じる」
 問題点を把握した衛門は、ううむとうなって考えこんだ。智恵ちえある先輩女房のありがたい託宣を香子はおとなしく待ったが、衛門もだいぶ懊悩おうのうしている。
 やがて、衛門は用心深く言った。
「それはまずいわね」
 ですよね、と香子はうなずいた。
「流離譚自体は悪くないと、わたくしは思いますよ。ですが、物語が再開してすぐに主人公が都落ちするのは、どうでしょう。その前にもっと、都での恋の話の数々をこれでもか、これでもかとくり広げたほうが無難でしょうね」
「華やかな恋の話の数々……。書くべきは、やはりそれですよね……」
 納得しかけた香子は、しかし、暗い表情で肩を落とした。
「ですが、衛門さま。わたくし、結婚も遅く、夫しか殿方は知りません。その結婚生活もたった二年あまり。華々しい恋の駆け引きなど、それこそ、この頭の中だけで作りあげるしかありませんで、やはりそれは、あの、限界が」
「そんなことを言われても。わたくしだって、それほどの恋愛上手ではありませんでしたもの。それはまあね、宮仕えが長いと恋文の代作を頼まれる機会も多く、わかったようなふりぐらいはできますけれどね」
「ふりでよろしいのでしょうか」
「ええ。それで充分なのですよ。だって、ほら、考えてもご覧なさい。月から来たおぼえはなくとも『竹取たけとり物語』は書けます。天孫降臨てんそんこうりんを目撃しなくとも『古事記こじき』だって書けますからね」
「『竹取物語』に『古事記』……」
 竹から生まれたかぐや姫。『古事記』はともかく、誰しも知っている古い物語のほうを香子は思い浮かべた。
 竹取のおきなが竹の中からみつけた少女は、まばゆいほどの美女に成長する。うわさを聞いて求愛者が殺到するが、姫は首を縦に振らず、帝の誘いすらも退ける。
 やがて十五夜の晩、昼よりも明るい光に満ちる中、かぐや姫を月世界に呼び戻すため、大空より雲に乗って天人たちが降臨してくる。彼らは美しく完璧で歳をとらず、悩み事など一切ない存在。姫を渡すまいと武装して待ち構えていたひとびとも、なぜか天人への攻撃は通用せず、呆然としている。
 もはや、誰も天人たちを阻めない。かぐや姫は天の羽衣を身にまとい、大勢の天人たちにかしずかれて月世界へと帰っていくのだった――
 香子が思い描いたのは、かぐや姫が月へと去っていく場面だった。竹から生まれた絶世の美女に、雲に乗る天人たち。姫を乗せた特別な飛ぶ車には、薄絹を張った豪華な日傘のがいが差しかけられている。
 この世では到底あり得ない絢爛けんらん豪華な光景に、香子は陶然とした心地になった。
「確かに。天人を見たことはありませんが、いま、眼裏まなうらにありありとその姿を思い浮かべられましたわ……」
 心眼でとはいえ「見る」ことができたなら、それを文章化して他者に伝えることはできる。恋愛遍歴を重ねずとも、多彩な恋の物語を書くことは可能というわけだ。
 香子の共感を得られ、言った甲斐かいがあったと衛門も満足げな顔になった。
「わたくしひとりではなく、別の誰かの意見も聞くべきだと思いますよ。大臣はほうぼうにお声がけをして、優秀な女房をこの藤壺にさらに集めようとしておられますから、そういったかたがたの中からあなたの話し相手もみつかるのではなくて?」
 そうですわねと返しながらも、香子はまったく期待をしていなかった。そもそも、衛門以外の同僚たちと、彼女はうまく馴染なじめていなかったのだ。
 普通の女房ではなく、中宮に漢籍を教授する立場。そのことが同僚たちとの間に壁を生じさせていることは否めなかった。
 漢字などまったく書けないようなふりをして、とにかく目立たないようにしているのに、どうしてこうなるのか。執筆に加え、人間関係の予想外の難しさに、香子は二重に苦しめられていた。

 宮仕えにあがって、まださほど日が経っていないにもかかわらず、香子は早々に宿下がりを願い出た。
 執筆も進まない、慣れない環境に気も休まらないで、家に帰りたくてたまらなくなり、駄目でもともとと試みたところ、幸い、許可はすぐに下りた。が、いざ退出の日取りを迎えると、「今日はどの方角もよろしくない」「御所からは出ないほうがよい。無理にも出れば、鬼とも遭遇しかねない」と陰陽師から怖い見立てをされた。
 陰陽師とは、ごくごく簡単な言いかたをすれば占い師である。この時代、貴族は何をするにも陰陽師に吉凶占いを頼み、その判断に従って動いた。悪い方角を避けるための方違えなどは、そのいい例だ。
 陰陽師の占いは気になったけれども、香子は一日も早く家に戻って、わが子の顔が見たかった。
「では、いくら遅くなっても構いませんので、都の中をぐるりと大廻りして、とにかく悪い方角をことごとく避けていってくださいな」
 そう頼みこみ、無理にも牛車ぎっしゃを手配してもらった。かくして午後の遅い時刻、香子は少しばかりの従者と牛飼い童を伴い、車に乗って御所を退出していく。
 車内は狭いし、よく揺れる。乗り心地はけしてよくはなかったが、香子は物見の窓から外を眺め、往来の観察も怠らなかった。
(光源氏もこうやって牛車に揺られながら、女君たちのもとに通っていたのよね……)
 主人公と同じ状況に身を置き、彼の心境を想像してみる。生まれも歳も性別さえも違う相手であり、いくら考えたところで想像の域は出ない。だからこそ、少しでも精度を上げるため、観察と分析を幾度も重ねなければならない。
 季節柄、陽が暮れるのが早く、あたりはすっかり暗くなった。それでもなお、悪い方角を避けて、牛車はぐるぐると洛内らくないを廻り続ける。
 おかげでいろいろな場所を見られてよかったわ、と香子は思った。が、牛車に徒歩でついてきていた従者たちは、別の感想を持っていた。
「長らくのご乗車、お疲れではありませんか?」
 そう問いかけながら、自分たちも休憩したいと言外に訴えてくる。さすがに気の毒になって、香子は車をめるよう、指示を出した。
 停車したのは、都の内とはいえ、だいぶ寂しい場所だった。夜陰にぽつぽつと浮かぶ家の影は、どれも小ぢんまりとしている。
(けれども、物語では意外とこういう場所に、絶世の美女が隠れ住んでいたりするのよね……)
 夢想の世界にどっぷりと浸りこんでいた香子は、その気分のまま、車の後ろの御簾を押しあけた。
「車から降りてもいいかしら」
 従者たちはぎょっとしつつも踏み台を用意し、香子が降車する手助けをしてくれた。袿の裾が汚れないように少し上げて、香子は地面を踏みしめ、夜空を仰いだ。
 薄い雲の間から、月が白い顔を覗かせている。満月ほどではないにしろ、周囲を見廻すには充分な明るさだった。
「ずっと車に乗っていて身体からだが硬くなってしまったわ。そのあたりを少し歩いて、ほぐしてみたいのだけれど」
 そう香子が言うと、従者たちはこぞって反対した。
「そんな。洛内とはいえ、夜は何かと物騒でございますれば。どうしてもとおっしゃるなら、わたしがお供いたします」
 用心のためにも連れは必要だと思う半分、その連れに邪魔されたくない気持ちも半分。どうしようかと決めあぐねていると、十二、三歳の牛飼い童が「わたしがごいっしょしましょうか?」と提案してきた。
 見れば、なかなか小ぎれいな童だ。光源氏がつれない空蟬の代わりに、空蟬の幼い弟をかわいがったことが思い出されてくる。
「そうね。では、あなたに頼もうかしら」
「はい。喜んで」
 さっそく、香子は牛飼い童を連れてあたりを少し歩くことにした。
 白い月。冷たい夜気。踏みしめる大地の堅さ。枯れた草のにおい。すぐそばを跳ねるように歩いている牛飼い童の体温。
 そういったものを体感しつつ、無意識のうちに知識として蓄積していく。いつか、何かの描写に使えるかもしれないから。
 香子のその感覚が、遠くから接近してくる牛車の気配をとらえた。わいわいとにぎやかな声もそこに混じっている。
 いかにも軽薄そうな連中に、こんな寂しいところでからまれては厄介だ。牛飼い童も同じことを思ったらしく、「こちらへ。この木の陰に隠れてやり過ごしましょう」と、早口で勧める。
 言われた通り、香子が牛飼い童とともに身を隠してすぐに、一台の牛車が視界に現れた。
 若い公達きんだちが四人乗りの定員いっぱいに乗っているらしい。酒もかなり入っているようで、とにかく声が大きく、聞こうとしなくても車内の下品な会話は筒抜けだ。
 陽気な彼らは香子と牛飼い童に気づかぬまま、ふたりの前を通り過ぎた。その直後、
「そうそう、あそこが、かの清少納言の邸らしいぞ」
 そんな声が聞こえて、香子はぎょっとする。
「清少納言? もしや、それは皇后さまのもとにいた、あの清少納言のことか?」
「そうとも、『枕草子』の作者、あの伝説の女房だよ。ある雪の朝、皇后さまが『少納言、こうほうの雪はいかに』と問われた。それを聞いた少納言はさっと御簾を高く上げて、外の雪景色をお見せした。はくきょの詩に『香炉峰の雪はすだれをかかげてる』とあるのをすぐに思い出し、行動で示した、という話なんだが……。つまり、あれだな。わたしは漢詩を知っていますよという自慢だな」
 げらげらと品のない笑いが巻き起こる。
「なるほどね。その才女の顔をひと目、拝んでやろうじゃないか」
「それこそ、簾をかかげて看てやるのさ」
 ばさばさと車の御簾を押しあげ、公達たちはてんでに顔を突き出した。彼らの視線の先には、荒廃した邸が一軒、建っている。
 もとは悪くない造りだったろうに、塀は壊れたままで屋根は荒れ放題、庭も手つかずで放置されている。奥に小さな明かりがともっているので、かろうじて誰かが住んでいることはわかるものの、そうでなかったら無人の廃屋と思っただろう。
「やれやれ。宮中でちやほやされて、お高くとまっていた宮廷女房も、結局はこのように落ちぶれてしまうわけか。みじめなことだねえ」
 公達のひとりがそう揶揄やゆした刹那。
 廃屋のごとき邸から、だん、だん、だん、と荒々しい足音を響かせ、何者かが簀子縁まで躍り出てきた。
 鬼のごとき形相をした女だった。
 髪の長さは肩先につく程度しかなく、白髪も目立つ。あまぎと呼ばれる髪型で、出家した尼のあかしである。その髪型のせいもあり、一瞬、老女かと見えたが、それにしては背すじがしゃんとのびている。
 三、四十と見るべきか、六、七十と見るべきか。いや、そもそも、ひとなのか鬼なのか。
 彼女はふんにぎらつく目で牛車の公達たちをまっすぐに睨みつけ、だいおんじょうで怒鳴った。
「あなたがたは駿しゅんの骨を買わないのですか!」
 正直、公達たちはなんと言われたのかも理解していなかっただろう。
 荒れ屋から突然、出てきた鬼のごとき女法師に怒鳴られ、肝をつぶし、悲鳴をあげる。あわてて車内に引っこみ、牛車を急ぎ走らせて、だっのごとく逃げていく。 
 当の尼はからからと笑ってから、悠然と邸内に戻っていった。
 あたりは再び静まりかえる。
 それまでの間、香子と牛飼い童は木陰でじっと固まっていた。牛車が見えなくなり、邸からもなんの動きもないと判断できるようになってから、牛飼い童が小声で告げる。
「わたしたちもこっそり退散しましょう。こっそり、こっそり、あの鬼女にみつからぬように……」
 促されても、香子はなかなか動けなかった。ようやく言えたのは、
「……『戦国策』だわ」
 なんのことやら見当もつかず、牛飼い童は首をかしげる。香子の目にそんな彼の姿は入っていなかった。
 古より伝わる漢籍『戦国策』にいわく、えんの国の王が賢者を探す方法を郭隗かくかいなる人物に問うたところ、
「死んだ馬の骨を高値で買うように、まずはこの郭隗を用いなさいませ。さすれば、噂を聞いて、より優れた者がこぞって集まってくることでしょう」と、郭隗は答えた。
 まず隗より始めよ、の故事である。
 つまり、あの尼は「駿馬は骨になろうとも買い求めるに足るだけの価値があるのに、そんなことも知らないのか」と、無礼な若者たちを𠮟責したのだ。
 定子のもとに出仕していた当時で、清少納言は三十歳前後だったと聞いている。となると、いまはおそらく四十歳くらい。髪が短く、白髪が多いせいか、もっと歳がいっているようにも見えた。
 しかし、その眼光は鋭く、夜陰にとどろいた声の張りにも、衰えといったものをまったく感じさせない。ましてや、咄嗟に漢籍から引用する頭の回転の速さは、さすが皇后定子に重用された宮廷女房だけのことはあった。
 当人が主張した通り、駿馬は骨になっても駿馬なのだ。
「あれが……清少納言……」
 本物だ、と香子は心の中でつぶやいた。
 まったく予想もしていなかった邂逅かいこうに、彼女は身の内から来る震えをどうしても止めることができなかった。

(一 宮仕えが始まる 終)

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【著者紹介】
瀬川貴次(せがわ・たかつぐ)
1964年生まれ。91年『闇に歌えば』でデビュー。集英社コバルト文庫に「聖霊狩り」シリーズ、「鬼舞」シリーズなど著書多数。集英社文庫に『波に舞ふ舞ふ 平清盛』、『闇に歌えば 文化庁特殊文化財課事件ファイル』、「暗夜鬼譚」シリーズ、「ばけもの好む中将」シリーズ、オレンジ文庫に「怪奇編集部『トワイライト』」シリーズ、『わたしのお人形 怪奇短篇集』、「怪談男爵 籠手川晴行」シリーズ、『もののけ寺の白菊丸』がある。ほかに『化け芭蕉 縁切り塚の怪』『百鬼一歌 月下の死美女』など。また、瀬川ことび名義での著書に『お葬式』『妖霊星』などがある。

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