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掌編とか短編とか!

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自作の掌編・短編小説を格納していきます。
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記事一覧

固定された記事

【ぼくときみの海辺の村の】 #第一回お肉仮面文芸祭

 ゴッゴッカン……  ゴッゴッカン……  ぼくの記憶はそんな音からはじまった。繰り返し打ちならされる音には不思議な静けさがあって、そしてぼくの口のなかには、いっぱいになにかがひろがっていて、ぼくはとにかく夢中でそれを食べていた。とてもおいしかったことだけはよく覚えている。  ぼくは食べる。ゴッゴッカン……。するとそれは少しずつ小さくなっていく。ゴッゴッカン……。ぼくは食べる。ゴッゴッカン……。それはかけらのようになっていく。ゴッゴッカン……。ぼくは食べる。ゴッゴッカン……

夢と孤独のザイカ

 生きるか、死ぬか。  一か八か。  この刹那だ──。  モドキは考える。  この刹那に、すべてがある。  凝縮された時間感覚のなかで、モドキは見ていた。上方。無限にひろがる、まばゆいまでの光と色を。それは壮絶にして壮大。万華鏡を思わせる圧巻の光景だ。  しかし。  生きるか、死ぬか。  一か八か。  モドキは見とれることもなく、色と輝きに向けて意識の焦点を絞りこんでいく。すると色と輝き、そのひとつひとつに別の「世界」が見えてくる。  ある輝きのなかには、風景を置

【地獄サンタ】 #パルプアドベントカレンダー2022

intro. 二〇二一年、サンタは死んだ。だがやつは戻ってくる……そう今宵、この聖なる夜に。 Ⅰ. カチ、カチ、カチ、と腕時計の針は進んでいく。少しずつだがゆっくりと、十二月二十五日は近づいてくる。  だが、夜明けまで……あと十時間もある……。  山田太郎は腕時計を見つめ震えていた。呼吸は荒く、手足は凍えるように冷たかった。太郎のいる路地裏は生臭く、不気味なまでに静まりかえっている。  表通りとはまるで別世界だった。楽しげな人びとの声。仄かに差しこんでくるクリスマス・

校則になった君と #架空ヶ崎高校卒業文集

2222年卒 絶対屈 折率夫  長いようで短かった三年間の高校生活。いろいろなことがあったはずなのに、思いだせるのは校則になった君のこと、ただそればかり。  あれは入学して間もないころだった。お互いに帰宅部だった退屈な日々、みんなが部活動や奉仕活動にはげむさなか、ふたりきりの下校時間。誰もいないあぜ道、僕の前をスキップするように歩く君の姿。今でも鮮明に覚えている。そのとき、ただカ=ラスの鳴き声だけが聞こえていたということも。  君は振りかえってこう言ったんだ。 「同好

【アラヤスカの聖なる夜】 #パルプアドベントカレンダー2021

 ──老いろ。躊躇なく、老いろ。  モヤがかかった感覚のなか、脳裏に浮かぶのはその言葉だけだった。  自分は何者で、どこにいるのか。いまはいつなのか。すべてがおぼろげで、まだらな、パッチワークのような記憶の欠落。  ──老いろ。老いろ。躊躇なく老いろ。  周囲を見渡す。  静かな闇と、木々の影とに囲まれている。  いまは夜で、ここは森のなかだ。  男はぼんやりと、そんなことを考えた。 「ひ、ひ、ひ、どうした。もう限界か?」  背後で不気味な声が笑った。振りかえると、

宇宙最強のサンタ #パルプアドベントカレンダー2020

 暗がりのなか、ゆっくりと息を吐きだしていく。  拳を握りしめ、開く。確かめるように、握りしめ、開き、また握る。己の体温と、静かに高まっていく鼓動。今はただ、それだけがともにある。  窓の外を見る。星が流れていく。宇宙船は進む。巨大な球形構造物が近づいてくる。球形構造物の名は、ヒアデス・スーパーアリーナ。決戦の舞台。拳を打ち鳴らす。再びアイツと相まみえる時が、近づいている。 ✨✨✨  ついにッ! クリスマスイブである! 地球時間で年に1度の究極祭典! いよいよこの時が

【アクズメ・ザ・キラー】 #AKBDC

 ガンギマリ一家のドン、ガガンボの邸宅は騒然としていた。伝説の殺し屋にして国際指名手配犯の殺人鬼、アクズメ・ザ・キラーによる襲撃予告が届いたためだ。  ガガンボは襲撃予告を握りつぶし、怒りをこめて叫んだ。 「ドンヅマリ・シティを影から支配する、このオレ様を殺すだと? 理由は『お前の犬がうちの前でクソしたから』だと? 抵抗する奴は皆殺しだと!? なめくさりやがってドグサレがァッ!」  そのまるまると太った体がわなわなと震えている。こめかみには怒りのあまり血管が浮かび上がっ

君との想い出 #同じテーマで小説を書こう

 シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタム。  それは奇跡だ。  君は、たしかにそう言っていたね。  今になってしまえばボクにも良くわかる。  シュピナートヌィ・サラート・ス・ヨーグルタム。  それはたしかに奇跡だ。  失われた時間を取り戻すように、ボクはそれを食べる。それは輝いている。それは香しい匂いでボクを魅了している。スプーンをいれる。サクサク、ポクポクと楽しげな音がする。一匙すくう。輝きが軌跡となって、スプーンのあとについてくる。  奇跡だ、とため息をつく

竜攘虎搏の遊戯

みながすなる 会話劇といふものを われもしてみむとて するなり 「よろしいですか? よろしいですか、皆さまッ! 同意が成ったと見做してよろしいですか、皆さまッ!?」 「はッはッ! 当然だッ!」 「同じく。ふふ。なんであれ、結果は変わらないもの」 「ワシも……うん。別にその遊戯(ゲーム)でかまわんよ」 「……同意する」 「はは。ま、皆さんそう言うなら。僕もそれでいいです(バカどもが)」 「同意が成りましたッ! でーはではでは、この遊戯の戯律(ルール)をご説明いたしますッ!

太郎の居る世界

 壁がある。  その向こうからは声が聞こえてくる。 『あいつらが悪い』『こんなことになったのも……』  別の壁からも声だ。 『批判はもうたくさん』  どこか、もがくようなそれらの声は、刺すような刺激とともに木霊している。やれやれと息を吐き出して、太郎は前を向いて歩きだした。  壁に囲われた回廊のような世界だった。白い壁、白い天井、そして静寂。太郎が歩く世界の中に、人の影は存在しない。誰もいない空漠の中を、ただ一人で太郎は歩き続けていた。  その足取りはゆっくりと、

臨界決戦プロメテオン

 俺の家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。  つまり、あの恐るべき邪火リレーによって──言うも憚られる、あの百鬼夜行の群れによって──列島が蹂躙され、次々と都市が陥落してから半年が過ぎたということだ。  今や我が家は人類に残された唯一の希望だ。多くの人々がその周囲に集い、俺の家を祈るよう見つめている。そう、だからこそ俺は──。 『YO!』  威勢のいい声が俺を現実に引き戻す。 『聖火ドライヴ臨界率80、90、100……臨界突破! YO! 覚悟はいい

ワニは100日後に殺された

 桜の花びらが、美しく舞っている。  交通捜査課巡査部長である犬山は、道路に横たわる遺体に手を合わせていた。綺麗な遺体だった。純朴そうなワニの若者。どこか、満ち足りた表情をしている。 「ひき逃げ……なのか?」 「そうだと思います……近くで花見をしていた複数の男女が、どすんという鈍い音を聞いています。ただ……」 「妙だな」 「ええ……」  犬山と、部下の雉沼は首を捻った。 「タイヤ痕が……ない?」 「はい。赤外でも確認しました。それに繊維も、塗膜片も、ガラス片も何もない

宇宙、燃えて #1200文字のスペースオペラ

 茫漠たる宇宙空間に、雄々しく佇む少年が一人。  その輝く体は真空の中においても泰然自若。その鋭く高貴な眼差しは大胆不敵に見据えている──天の川煌めく、宙の彼方を。 「ふん、来たか」  視線の先。空間が歪み、爆発的な質量が出現していく。それは巨大なる惑星群であった! 重力の嵐が荒れ狂い、潮汐力で自壊を繰り返しながら、惑星群は少年へと迫る! 「はは! 愚か!」  少年は呵呵と笑った。 「群体進化属〈ゾアス〉ども。この程度で超越神人〈ファウア・ターカ〉たるこのデリーサ

サンタ・リベリオン #パルプアドベントカレンダー2019

『市民。サンタは禁止である』 『やめなさい! 今すぐサンタ行為をやめなさい!』  威圧的な拡声器。〈抗サンタ委員会〉治安部隊の操る浮遊装甲兵器が、地上を舐めるようなサーチライトで照らしている。 「お姉さん……お姉さん!」  燃え盛る車両のそばで、倒れた女性を抱える少年。女性が身に纏う装束は、赤一色で染まっている。 〈第一次ゾンビ戦争〉。  多剤耐性インフルエンザパンデミックの発生と恐るべきゾンビ兵団の出現。辺境のコロニーから生じた戦争は、数十万もの人々を死に至らしめ