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赤人館の殺サンタ事件 | #パルプアドベントカレンダー2023

1. 探偵は遭遇する

 探偵とは死に遭遇し、謎を解き明かし、去っていく……そういう存在だ。探偵が行くところ、常に死と謎とがつきまとう。それはもはや、宇宙の法則だと言ってもいい。

 だが、それにしても……。

 と、八神やがみは思った。探偵である彼はいま、目の前の現実に戸惑っていた。

 洋館の歓談室のなかだった。パチパチと、暖炉が音を奏でていた。銀の燭台の上ではろうそくの灯が揺らめき、窓の外ではしんしんと、降り積もる雪が白銀の世界をつくりだしている。
 暖かく、静かな空間。
 八神はあらためて床を見おろし、顔をしかめた。

 サンタが殺されている――。
 絨毯を、赤に染めて。

「ヒィッ……」

 八神の背後で、小さな悲鳴とともにメイドが……七夕曜子たなばたようこがトレイを落とした。ガシャン。その音が、いっとき静寂を打ち破る。トレイにのせられていたティーカップが床を転がり、サンタの死体にぶつかって止まった。こぼれ落ちた紅茶の香り。八神は横目で曜子を見た。その表情は、恐怖によって歪んでいる。

 謎を、解き明かさなければならない。

 八神はため息とともに、己の存在理由レゾンデートルを思い浮かべていく。

 謎を、解き明かさなければならない。なぜならわたしは、探偵だから。真実はいつもひとつ。それこそが……いやそれだけが、探偵の存在理由なのだから。

 震える曜子に八神は告げる。

「曜子さん……皆を食堂に集めてください。いま、すぐに」




2. 聖なる夜の奇跡

 それはいまから二十五年前……クリスマスイブの出来事だった。

 山裾の開けた場所で、焚火を前に腰をおろし、男が独り夜を過ごしていた。

 男は思う。街はいまごろ、クリスマスの喧騒であふれていることだろう。だがこの静けさのなかで……俺はいま、最高に満たされている。

 聖なる夜。
 森と夜の闇。
 冷たい冬山の空気。
 暖かい焚火。
 見あげれば、満点の星空。

 独りですごすにはふさわしい夜だ……男はそう思った。そして、人生最後の夜としても――。

 男は生きることに疲れはてていた。事業に失敗し、多くの人びとの期待を裏切り……そして、すべてを失った。
 俺は充分がんばったじゃないか。もう、これで終わりでいいじゃないか……男はそんなことを考えていた。

 焚火にかけたケトルを見つめる。そこには穏やかな湯気の揺らぎがあった。とっておきの茶葉をつかって、贅沢な時間を過ごそう。そうしたら、この世からおさらばだ――。

 ケトルを取り、ティーポットにお湯をそそぐ。茶葉がゆっくりと開いていくさまを見つめながら、男は静かに微笑んだ。
 そんな時だった。

「いい香りがするね……お茶かな」

 森の闇から声がした。優しい声だった。男は不思議と恐怖も感じずに、声の主を見つめた。赤い衣装を着た老人だった。

 老人は男の向かいに腰を下ろす。まったく違和感を感じさせない、自然な所作だった。老人は言った。

「わたしにも、一杯いいかね」

「ええ、いいですとも」

 男はそうこたえながら、不思議な感覚に包まれていた。俺はここに、死にに来たはずなのに……。

 それからしばらくの間、男と老人は語りあった。老人は様々な時代、様々な場所で起きた不思議な出来事を、身振り手振りを交えて話してくれた。楽しいひとときだった。

 やがて会話が途切れ、ホー、ホー、とフクロウの鳴き声が聞こえてきたその時。

「ありがとう、おかげで体が暖まったよ」

 老人はそう言いながら立ちあがった。

「こちらこそ。よい思い出ができました」

 そう言う男に、老人は告げる。

「来年、またここに来なさい」

 男は怪訝な表情で老人を見つめた。老人は繰り返すようにもう一度言った。

毎年・・、ここに来なさい」

 そして、森へと歩みながらつづけた。

「今度は独りではなく、仲間たちとともに来るんだ。わたしは毎年、あなたたちの願いをひとつだけ、叶えてあげよう」

 老人は立ちどまり、首を回して男を見た。優しい笑みを浮かべていた。

「だから、死のうなどと思いなさんな」

 それだけを言い残して、老人は森のなかに立ち去っていった。男は狐につままれた気分で手元のカップを見つめた。お茶はすっかり冷めていた。

 空を見あげると、満天の星空があった。そのなかを、赤い軌跡を残しながら、何かが飛び去っていくのが見える。
 ホーホーッホー!
 老人の楽し気な笑いが、星空のなかを木霊していった。そこでようやく男は気づく。

 老人は……サンタだったのだ。


3. 食堂の八人

「あなたは翌年サンタと再会し、事業を成功させるという願いを叶えてもらった。そしてこの土地に……毎年サンタが訪れるこの場所に、我々がいま居る洋館を……赤人館せきじんかんを築いた。そうですね、大門寺さん」

 八神の問いが、食堂のなかに響きわたった。

 食堂には八人……この洋館の所有者と家族、使用人、招待客たちがいた。メイドである曜子を除き、全員が大きなアンティークテーブルを囲むように着席している。

 人びとの前にはティーカップが置かれ、高級そうな茶葉の香りが漂っていた。もちろん、そうして皆が着席している理由は、食事のためなどではない。

 張りつめた空気のなか、八神は自然な眼の動きで全員の顔色をうかがっていく。誰もがショックを隠せない表情を浮かべている……少なくとも、表面上はそのように見える。

「そのとおりだ。だが、なんてことだ……信じられん……信じたくもない……」

 テーブルの上で頭を抱え、そう呻いたのは大門寺正道だいもんじまさみち。この赤人館の主人であり、大門寺グループを一代で築いたカリスマ経営者だ。五十二歳という年齢よりも若々しく見えるその顔には、いま、昏い影が落ちていた。つづいて妙齢の女が口を開いた。

「サンタが死んだって、本当なんですか……?」

 彼女の名は音無佐奈子おとなしさなこ。県議会議員だ。あか抜けないが、愛嬌のある顔をしている。だがそんな彼女もまた、いまは顔面を蒼に染めていた。

「サンタが死ぬなんて、あり得るんですか……?」

 そうつづけた音無の言葉を、険しい目つきの男が遮る。

「おいおい、音無さん、あんたも聞いただろ? 死んだんじゃないよ。殺されたんだよッ! サンタはッ!」

 男の名は牧村大介まきむらだいすけ。投資家だ。牧村はファンドを運営し、いわゆる「モノ言う株主」としてたびたびニュースを騒がせている男だった。牧村は一同を睨むように見渡してから、吐き捨てるようにして言った。

「サンタがいなければ……すべてが台無しなんだよ。どうしてくれるんだよ、クソがッ!」

「ねぇ、マッキーさぁ……」

 と、牧村を諫めるように声をあげたのはナナミこと七海美奈ななみみなだった。ナナミは動画配信者であり、若者から圧倒的な支持を得ているインフルエンサーだ。

「ここには子どももいるんだし……言い方、自重しなって」

 ナナミはそう言いながら、大門寺の隣に座るふたりの少年を見た。大門寺家の長男長流たけると、次男である正吾しょうごだった。

「お気遣い、ありがとうございます」

 と、長流が頭を下げる。いかにも育ちのいい、気品のある口調で長流は続けた。

「俺はもう十八です。だから、大人として扱ってくださって大丈夫です。でも弟は……正吾は」

 そう言いながら、長流は横に座る弟の正吾を見た。正吾はオドオドと下を向いた。

「正吾はつい先日、十歳になったばかりなんです。だから……」

 そう言いながら、長流は唇を噛んだ。ナナミは

「うん、だよねー」

 とうなずく。そして批難のまなざしを八神へと向けた。

「八神さん、だっけ? あんたさぁ、何がしたいの? 子どもへの配慮が足りんくない?」

 牧村も同調するように八神を指さし、色をなした。

「そうだ、そもそもこいつだ! 八神だって? そんな探偵は聞いたこともないぞ。怪しいやつ!」

 やれやれ。と、八神はため息をつきながら、その場にいる人びとを脳内で整理していった。

大門寺正道: 赤人館の主人。大門寺グループのトップ
大門寺長流: 正道の息子。長男。十八歳
大門寺正吾: 正道の息子。次男。十歳
七夕曜子: 大門寺家のメイド
音無佐奈子: 県議会議員。赤人館のゲスト。来る衆議院選挙で、大門寺の支援のもと国政にうって出ると言われている
牧村大介: 投資家。赤人館のゲスト。大門寺グループの大株主のひとり
七海美奈: インフルエンサー。通称ナナミ。赤人館のゲスト。大門寺グループの商品CMにも出演

 そして、探偵である八神。いま、赤人館に滞在する人間はこの八人で全員だった。八神に無視されたと感じたのか、牧村は立ちあがり、八神を指さしたままさらに語気を強めた。

「おいお前ッ、聞いているのかッ!」

 八神は哀れみの眼差しで牧村を見た。

 悲しいやつ……。これからどうなるのか・・・・・・・・・・知りもしないで・・・・・・・

 そして思った。

 すでに謎のほとんどはわかっている。そして、これからどうなるのかもほぼ理解している……。

「もういい。牧村君、やめたまえ」

 そう静かに牧村を諫めたのは、大門寺だった。

「八神さんを赤人館に招待したのは、この私だ。そのことに、何か文句でもあるのかね?」

 ぐっ。言葉に詰まり、牧村は呻いた。そして怒りの矛先を見失ったように弱々しく手を降ろしながら、

「全員わかっているだろうに……サンタがいなくなったら、すべてが台無しだぞ……」

 そう呟き、着席した。
 八神は一同を見渡し、声をあげる。

「よろしいですか?」

 誰も発言はしない。同意を得たと理解し、八神はうなずく。

「あらためて、こうして皆さんを集めた理由をお伝えします」

 誰かが、ごくりと唾を飲む音がした。

「サンタが、殺されました」

 正吾の肩がびくりと震える。八神はかまわずつづけた。

「探偵としての立場から伺います。大門寺さん、クリスマスイブの夜、赤人館にはサンタが訪れる……それで、間違いありませんね」

「その通りだ。それこそがこの館、赤人館の名の由来でもある……」

「そしてサンタは赤人館に滞在する者の願いを、一人につきひとつだけ叶えてくれる……そういうことですね?」

「……そうだ」

「だから皆さんは、サンタに願いを叶えてもらうためにここに集まった。そうですね?」

 牧村が忙しなく指でテーブルを叩きながら声をあげた。

「だから、なんなのよ? お前は何が言いたいの?」

「先ほど牧村さん、あなたはこう言いました――全員わかっているだろうに。サンタがいなくなったら……と。サンタが殺されたことによって、皆さんの願いは叶わなくなってしまった。そして、困ったことになっている。そういうことですよね?」

 牧村は何かを言いかけ、チッ、と舌打ちをして横を向いた。ナナミが深くため息をつく。音無がぽつりと呟いた。

「どうしよう……」

「だがそもそも……」

 と口を開いたのは大門寺だ。

「サンタが殺された、というのは本当なのかね。何かの間違いではないのかね?」

 八神は首を振った。

「大門寺さん、あなたがそう思いたい気持ちもわかります。でも、歓談室に行ってみればいい。サンタの死体がそこにはある。曜子さんもよくご存知だ」

 テーブルの傍らに立つ曜子は、死んだような表情で首を縦に振って首肯した。それを見て大門寺は大きく息を吐き、「なんてことだ」と、再び頭を抱える。

「そして……」

 と八神は窓の外を見た。

「昼から振りはじめた雪によって、赤人館への山道は閉ざされています。さらに、ここには携帯の電波は届かず、電話も引かれていない。そして大門寺さん。あなたはこの場所を、一部の人間を除き秘密にしてきましたね。いわば……」

 一同が八神を見つめた。
 八神は告げる。

「いま、この赤人館は陸の孤島と化している」

 再び牧村が、苛立った声をあげた。

「だからさぁ、お前は! さっきから何が言いたいわけ?」

「簡単なことです」

 八神は淡々と応じる。

「このなかに、サンタを殺した犯人がいる。そういうことです」

 その言葉に、食堂は静まりかえった。誰もが不安げに周囲の人びとを見まわした。

 このなかの誰かが、サンタを殺した……。

 音無が口に手をあて呟く。

「そんな……」

 ナナミが顔を歪ませながら言った。

「じゃあこういうこと? あたしたち、雪がやんで、道が通れるようになるまで……サンタを殺したような危ねぇヤツと、ここで一緒に過ごさないといけないッてわけ?」

「そうなりますね」

「そうなりますねって、ちょっと!」

 長流が尋ねる。

「八神さんは、探偵ですよね。なんとかできないんですか?」

 八神は淡々とこたえる。

「探偵として、謎は解き明かします……謎はね。そのつもりです」

 そして「まずは」と八神はつづけた。

「あらためて、この赤人館の構造について確認をさせてください。この館は――」

 赤人館は、二階建ての洋館である。一階中央には玄関とエントランスホールがあり、その先には二階へとつづく大階段がある。一階右手には厨房、貯蔵室、そしてメイドである曜子の居室。
 左手には配膳室、食堂、歓談室、サンルーム、トイレ。食堂には三つのドアがあり、それぞれ配膳室、歓談室、廊下へとつながっている。
 二階に続く大階段は途中の踊り場から二手に分かれ、左手には四部屋のゲストルーム。ゲストルームにはそれぞれシャワーとトイレもついている。
 右手には大門寺の書斎と寝室、長流の部屋、正吾の部屋、更衣室と浴室、トイレがある。

「これで、間違いありませんね?」

 大門寺と曜子が同時にうなずいた。

「では、つづいて時系列を確認させてください。まず最初に、この赤人館に入ったのは曜子さん、あなたで間違いありませんね」

 曜子は死んだような表情のまま、か細い声でこたえる。

「はい、そうです……。皆さまをお迎えするために、三日前にこの館に入りました……。翌日には長流様、正吾様にも合流いただいて、準備を手伝っていただきました……」

 弱々しい声だった。

「準備とは何を?」

 曜子の様子に見かねたのか、それにこたえたのは長流だった。

「この館は、ふだんは父が懇意にしている……信用できる業者に管理してもらっているんです。でも、業者がやるのは必要最小限、維持のための作業だけです。だから、あらためて掃除をしたり、電気や空調の確認をしたり、あとは食材の搬入とか……やるべきことはたくさんあるんですよ」

「なるほど、わかりました」

 八神はうなずく。

「では、皆さんの本日の行動を確認させてください」

05:30頃 曜子起床
07:00頃 長流起床
08:00頃 正吾起床
08:30頃 曜子、長流、正吾の三人で朝食
10:30頃 大門寺到着。曜子に準備状況を確認したのち、二階の書斎へ。長流、正吾は自室へ
12:00頃 雪が降りはじめる
14:00頃 ナナミと音無が到着。曜子が出迎え。それぞれゲストルームに荷物を運んだ後、歓談室へ
14:10頃 長流も歓談室に合流
15:00頃 牧村到着。曜子、大門寺が出迎え。牧村はゲストルームに荷物を運び、その後、大門寺とともに歓談室へ。入れ替わるようにナナミと音無はそれぞれのゲストルームに
16:00頃 牧村もゲストルームに移動。大門寺、長流も自室へ
18:30頃 曜子、長流、正吾が晩餐の準備を開始
18:45頃 八神到着。大門寺、曜子、長流が出迎え。八神は「雪で道が閉ざされている」旨を伝達
19:10頃 八神、歓談室でサンタの死体を発見。曜子は晩餐の準備を中断
19:30頃 サンタの死について、曜子が大門寺に報告
19:45頃 各部屋で過ごしている一同に曜子が声がけ
20:00頃 一同が食堂に集まる

「本格的な検死をしたわけではないので、正確なところはわかりませんが……」

 と八神はつづけた。

「死体の状態から、サンタは死亡直後と推測できました。おそらく殺されたのは、十八時から十九時までの間。つまり……直前にこちらを訪れたわたしも含めて、完全なアリバイを持つ者は、このなかにはいない。そういうことになります」

「ちょっと待ってよ」

 と再びナナミ。

「そもそも、サンタってどうやって殺されてたの? 首絞められてたとか、刺されてたとかさ。それによって犯人が誰か、けっこう絞りこめるんじゃない?」

「刺殺です」

 八神は淡々とこたえた。

「おそらくは、腹部大動脈切断による失血死。ほぼ即死に近かったと思います。なお、現場に凶器などは残されていませんでした。また、サンタの刺傷は腹部の一か所のみです」

 ナナミは驚きを隠すように口に手をあてる。

「つまり……?」

「犯人は、人の急所を熟知している。そして、迷うことなく殺人を遂行できる……そういう人間だということです。凶器も証拠も残さずに、素早く的確に。むろんこの場合、殺されたのは人間ではなくサンタですが」

「くそッ、なんだよそれ……!」

 牧村が呻き、そのまま一同は沈黙した。


4. ピタゴラスイッチ

 カタカタと、正吾の震えが椅子を鳴らしていた。大門寺は頭を抱え、音無の目には涙がたまっている。ナナミは呆然と爪を噛み、牧村の血走った眼は、他人の様子をうかがうようにギョロギョロと蠢いていた。底知れぬ恐怖が皆を支配しようとしていた……その、静寂のなかで。

「ぁ……」

 と、吐息のような呻きが漏れた。曜子だった。

「曜子さん!」

 叫びながら、長流が立ちあがる。皆が注目するなか、曜子が床へとくずおれていく。

 八神は呟いた。

「心的外傷後ストレス障害による失神……」

 長流は曜子に駆けよる。長流につられるように、大門寺、そしてナナミも立ちあがる。正吾は驚いたように目を見開いていた。そのさなか、

 あぁ……!

 と、八神は心のなかで叫ぶ。

 ついにこの時が来たか・・・・・・・・・・
 立つな……よせ……ッ!
 よせッ!

 直後。

「あが……?」

 大門寺が奇妙な呻きをあげた。

「父さん……?」

 曜子を抱えた長流が見あげる。その見あげた先で、大門寺は喉元を押さえ……その喉元には赤い花が咲いていた。

「え?」

 赤はみるみるうちに大きくなっていく。そして、噴水のように噴きだした。ブシュ―、ブシュ―……。鮮血だった。

「父さん!」

 大門寺は倒れてゆく。倒れながら、もがくようにテーブルクロスを掴んだ。鮮血に染まりながら、クロスは大門寺に引きずられ、卓上のティーカップを巻きこんでいく。カップはつぎつぎと落ちていく。けたたましい落下音。

 八神にとってそれはさながら、崩壊の序曲のように感じられた。

「ひぃぃッ」

 音無が悲鳴をあげ、

「うわぁぁぁッ!」

 牧村が叫び、のけぞって椅子ごと倒れた。

「やだ……そんな……正道さん」

 ナナミは呆然と呟く。ふらつき、大門寺へと近寄ろうとする。八神は……平常心を保とうと息を吸った。

 ナナミ。お前はまだ・・・・・その時ではない・・・・・・・……。

 そして息を吐きだしながら、ナナミに向かって

「動くなッ!」

 と一喝した。

「え……なに……?」

 と、虚ろな表情でナナミはふりかえる。と、同時。

「それ……」

 と、感情のない表情で、正吾が空中を指さした。皆の視線が少年の指さす先へと移った。

「あ……?」

 そう呻いたのは牧村だった。少年が指さすその先に、かすかに空中を斜めに横切る赤い線が見えた。そこからポタポタと、大門寺の血が滴っている。八神は一同に告げる。

「鋭利に加工された、ワイヤーロープのようです」

「そんな……」

 誰もが息を呑み、衝撃のあまり動けなくなっていた。そんななか、床に伏した大門寺だけがもがき、呻いていた。

「う……あ……」

 その出血量から、もはや助からないことは明らかだった。大門寺はもがく。もがきながら、切れ切れに何かを伝えようと口を動かす。

「八、神……八神……」

 八神はワイヤーを避け、大門寺の傍らへと移動した。大門寺は、なにかを求めるように空中に手を伸ばしていた。

「あ……ぁ、八……神、は……る……」

「え……?」

 と音無が呟いた。

「春……香……春香はるか……」

 春香、すまない。

 最後にそう呻くと、その腕は力無く床の上へと落ちていった。八神は大門寺の手を取った。脈を診て、それから瞳孔を確認し……無言で首を振った。

「そんな……父さん……」

 と長流。ナナミは嗚咽をあげながら、床へとうずくまる。牧村が呻く。

「なんなんだよ……なんなんだよ、これは……」

「このワイヤーロープは」

 と、八神は空中を横切るワイヤーロープに、慎重に触れながら言った。

「窓のカーテンレールから、テーブルの下へと伸びています」

 音無がかすれた声で言う。

「そんなの、さっきまで無かったじゃないの……」

「そうですね。ワイヤーロープはカーテンのなかに隠され、絨毯の下へと這わされていたのでしょう。そして……」

 八神は惨劇直前の光景を思い浮かべていた。

 まず長流が立ちあがり、つづいて、大門寺とナナミが立ちあがる……。

 手のひらでテーブル近くの床を押してみる。

「微かですが、床が不自然に沈みます。おそらくは床下に……全員が着席するとスイッチが入り、ふたり以上が離席すると、ワイヤーが跳ねあがる……そんな機構が隠されている」

 は、はは……、と牧村は震えながら笑った。

「なんだよそれ……まるでマンガじゃないか」

「もう嫌……」

 ナナミは嗚咽しながら立ちあがり、ふらふらと歩きだした。

「おい、どこに行く……」

 と呼びとめる牧村に、ナナミは振りかえる。

「サンタが死んで、正道さんも死んだ……」

 その表情はみるみるうちに鬼気迫る表情へと歪んでいった。

「どう考えても殺そうとしてるしッ! 犯人は、あたしたちも……全員殺そうとしてるしッ!」

「俺も、そう思います」

 と、曜子を抱えた長流が賛同した。

「この食堂……なんだか変です。他にも何か仕掛けがある気がする……早く出た方がいいと思います」

「もう……嫌……ッ!」

 ナナミは駆けだした。

「おい、待て……」

 と、止める牧村の声も無視して、廊下へとつづくドアのノブに手をかけ、捻る。

 その瞬間。

 カチリ。

 不気味な作動音がした。

「え?」

 と見あげるナナミに、ドアの上から何かが降りそそいでいく……液体と、火花。

「ギャァァァァッ!」

 明るく輝きながら、ナナミは燃えあがった。みるみるうちに、その全身が炎に包まれていく。

「ヒィッ」

 音無が悲鳴をあげ、

「うわぁぁぁッ!」

 牧村が叫び、転がるように逃げだした。

「なんだよ、なんだよこれ……死にたくない……死にたくないッ!」

「牧村さん、待ってくださいッ!」

 制止する長流の声も無視し、牧村は近くにあった歓談室へのドアノブに手をかけ、捻った。

 カチリ。

 不気味な作動音がした。

「え?」

 と見あげる牧村に、ドアの上から何かが降りそそぐ。

「うあぁぁぁぁぁ!」

 牧村は絶叫した。だが……。

「……って、」

 牧村の体は、ナナミのように燃えあがっていない。

「冷たい!? あ? なんだ……?」

 牧村は呆然としながら、己の手のひらを見つめる。

「んだよこれ……。ただの、水……?」

 引きつった笑みを浮かべ、

「クソッ……驚かせやがって……」

 と呟くその背後で、黒焦げとなったナナミが倒れた。バタリ。

 カチリ。

 ふたたび、不気味な作動音が生じた。

「は?」

 と目を見開く牧村に、ドアの上から何かが降りそそぐ……ドライアイスのような、煙をともなった液体だった。

「……液体窒素」

 と八神が呟いた。

「ギャァァァァッ!」

 マイナス百九十六度の冷気が牧村を包みこんでいく。激しい音をたて、その全身が凍結していく。

「ヒィィィィッ!」

 音無が叫んだ。
 八神は淡々と呟く。

「液体窒素は沸点が低く、人体との間には蒸発気体の層が生じます。だから直接肌に触れることはない……それをライデンフロスト現象といいます。そのため本来、浴びても実害がないものなんです。犯人はそれを回避するために、わざわざ水をかけておいたのでしょう……」

「冷静に、解説している場合ですか!」

 長流が怒鳴った。長流は気絶した曜子を背負いながら、右手で正吾の手を引いていた。

「音無さん、八神さん。配膳室です。そっちであれば、晩餐の準備で何度も行き来しています。問題ないはずです!」

 実際、配膳室側のドアは開け放たれたままだった。長流は曜子を背負ったまま、正吾の手を引いて駆けだす。

「長流くん、待って……」

 音無、そして八神もそれにつづいた。配膳室の先……廊下側のドアもまた、開け放たれたままだった。

「よし、こっちです!」

 長流が廊下へと踏みだした、その時。

 カチリ。

 不気味な作動音がした。

「え?」

 つづいて、ガタンと不吉な音。

「は?」

 長流たちの足元の床が開いていく……。

「え、うわぁぁぁぁぁ……!」

 長流たちは落ちていった。
 漆黒の、闇のなかへと。


5. そして誰もいなくなった

「ヒィッ!」

 音無は戦慄わななき、ひきつった顔で八神を見た。

「残ったのはあなた……やっぱり、あなたが犯人なのね!」

 八神は哀しげに微笑み、首をかしげる。音無は後ずさった。後ずさりながら、その視線はキョロキョロとなにかを求めるように動いている。

 武器を探しているのだろう……と八神は見当をつけた。発狂寸前の笑みを浮かべて、音無はわめいた。

「何かがおかしいと思ってたんだ……。牧村のヤローが言っていた通り、八神なんて名前の探偵は、聞いたこともない……。それに、大門寺さんからも探偵が来るなんて話、聞かされてもいなかった!」

 その後ずさる足が、ぴしゃ、ぴしゃ、と床のうえの水溜まりを踏んだ。

「でもね。大門寺さんの最後の言葉……それで気がついたの」

 首を巡らせながら、音無の瞳孔が微かにひろがる。八神にはわかっていた。音無は見つけたのだ……背後の配膳台の上にある、ナイフの輝きに。

「大門寺さんの亡くなった奥さん……春香さんの旧姓が、八神……八神春香」

 じりじりと、音無は後ずさりながら配膳台へと近づいていく。

「あなた、春香さんの関係者なのね? 目的は何なの? 春香さんが病気で亡くなったことについて、逆恨みでもしてるの……?」

 八神はため息まじりにこたえた。

「言っても無駄だとわかってますが。後ろにあるナイフを手にするのは、お勧めできませんよ」

 その瞬間、音無は叫んだ。

「うるせェェェーッ!」

 そして驚くほど素早く、配膳台に駆けよる。

「上等だよテメェ! 殺してやンよッ!」

 その手がナイフを掴んだ。刹那。

 バチィッ!

 すさまじい音が鳴り響き、

「ギャァァァァッ!」

 音無は絶叫した。その全身が激しく痙攣していく。八神は哀れむように呟いた。

「配膳台は鉄製……そして台の上はナイフも含め、しっかりと水で濡らされている」

 視線を下に移す。巧妙に隠されているが、配膳台の足には切断されたコンセントが貼りつけてある。

「ご丁寧に、配膳台側の床まで濡らしてありますね……通電のための準備は万端というわけです」

「そ……んな……」

 音無は口から煙をあげながら倒れていく……。そして……誰もいなくなった。

 八神は独りごちる。

「ここまでは想定通り。さて……」

 廊下へと歩みよる。スマホのライトをつけて、床に開いた穴のなかを照らしだしていった。

「ここからは、解明編といきましょう」


6. 深き闇の唄

 ライトに照らしだされたのは、館の下に広がる高さ二メートルほどの地下空間だった。

「……」

 八神は無言で飛びおりる。館のちょうど左手と右手側に……左右にトンネル状の空間が延び、漆黒の闇がつづいていた。闇の向こうからは、不気味な何かが聞こえてくる……。

 インフルエンサーが大炎上~
 投資家が凍死か~?

 カン高い、子どもがはしゃぐような歌声だった。それは館の右手側から聞こえてくる。不快さに眉根を寄せながら、八神はそちらへと歩を進めていく。

 やがて、闇のなかに浮かびあがるものがあった。トンネルの壁に背を預け、体育座りでうずくまる人影だった。

「やぁ」

 八神は優しい声音で語りかける。影の前でしゃがみ、その顔を覗きこむ。

「大丈夫かい……正吾くん」

 正吾は震えながら顔をあげた。その顔は涙で濡れそぼっていた。沈黙が流れ、やがて、八神は優しく正吾の肩に手を置いた。

「君は、本当はわかっているはずだね」

「……え?」

「今日ここで何が起きたのか。犯人は誰なのか。そしてこれから、自分が何をなすべきなのかも」

「僕……」

 正吾は弱々しく首を振る。

「ダメだよ……僕にはできないよ……」

 その瞳から、再び涙が溢れだした。

「怖い。怖いんだよ……!」

「そうか。そうだよね。そうだったね……」

 八神はため息をつくと、立ちあがった。そして、

「あまり、残された時間はないんだ」

 と言いながら、正吾の目を見つめた。正吾も八神を見た。八神は微笑むと、もと来た方角を……館の左手側を指さした。

「向こうだよ」

「え……?」

「向こうに行けば、サンルームへの抜け穴がある」

 そう言いながら正吾に手を貸し、引っ張りあげるようにして彼を立たせた。

「心配しなくてもいい。救助の手配は、もうしてあるんだ。ここに来る前にね・・・・・・・・……だから、怖がる必要はないんだよ」

 正吾は涙をぬぐった。

「おじさんも、一緒に逃げてくれるの……?」

「……おじさん!」

 八神は絶句し、苦笑した。

「……お兄さんはね、探偵だからね。謎を解き明かすのが、仕事なんだ」

 そう言いながら、正吾に背を向け、再び闇のなかへと……歌声の方角へと歩きはじめた。正吾は不安げに呟く。

「僕……一人じゃ……」

 そんな正吾に、八神は振りかえることなく告げた。

「君の願いは、叶っているよ」

「え……」

「君の去年の願いは、しっかりと叶えられているんだ」

 ――だからこそ、わたしはここに導かれてきた。

「おじさん……?」

「おじさんじゃないよ、お兄さんだよ」

 八神は再び苦笑した。

「あとはお兄さんに任せて、君は早く逃げなさい。暗いから、転ばないように気をつけて……」

「……うん」

 正吾はしくしくと泣きながら、闇のなかへと消えていった。その反対方向へと……歌声のする方へと、八神は決然と歩みを進めた。不気味な歌声はまだつづいていた。

 電気ショックで、議員辞職ジ・ショック
 父が、ち、血まみれだ~

 ライトの光が何かを照らしだしていく。天井から吊りさげられた、振り子のように揺れている何かだった。

 ブーラ、ブーラン、揺れながら
 メイドが冥土ゆき~

 吊りさげられているのは曜子の亡骸だった。八神は思わず目を背けた。

「曜子さんまで、殺さなくてもよかっただろうに……!」

 歌が止まった。吊りさげられた曜子の向こう。闇のなかで、身じろぎする影が見えた。

「よくないよ」

 ケタケタと笑い声。

「全然よくない。だって正吾以外、全員殺すって決めたんだもの」

「君は……去年のクリスマスに、サンタにそれを願ったんだね」

 曜子の亡骸の下をくぐり、影をライトで照らしだした。

 血走った眼が見えた。
 不気味な笑みを浮かべていた。

 ……長流たける

「そして君は業者を買収し、一年かけてこの館を改造した……今日、この日のために。そうだろう?」

「へぇ」

 感心したように長流は口角を吊りあげた。

「君の殺人は、あり得ないほど正確無比だった。だがそれも、サンタがもたらした奇跡の賜物だとするなら……すべてが説明できる。そしてだからこそ、君はまっさきにサンタを殺す必要があったんだね。他の誰かが、新しい願いを言う前に。サンタの奇跡を覆せるとしたら、サンタの奇跡以外にはないのだから」

「おほっ」

 と、感嘆の声。

「サンタの奇跡はサンタ自身と、奇跡を求める人びと……その双方に死をもたらした。皮肉なことにね。それが、この事件の真相だ」

「へー……八神さん、やるじゃん。じゃあ、俺の動機もわかる?」

「さぁね。動機には興味ないが……。ただ、想像することぐらいはできる。そうだね……おそらくは、母親の死がきっかけなんだろう。春香さんが不治の病で倒れた時、大門寺氏はサンタにその治癒を願うこともできたはずだ。だが、彼が願ったのは自分たちの事業の、さらなる発展だった……そういうことだろう?」

 その時、八神のなかでは様々な想いが渦巻いていた。それでも八神は、淡々とつづけていく。

「そして君は母を失い、この赤人館に集うすべての人間を……そして、彼らを狂わせたサンタを……それらすべてを憎むようになった。さしずめ、そんなところだろうね」

 長流はキャッ、キャッ、と楽しげに手を叩いた。

「全問正解ッ! やっぱ探偵ってすごいんだねぇ!」

「すごくはないさ」

 と、八神は寂しげに笑う。

「探偵は死に出会い、謎を解き、そして去っていく……ただそれだけの存在だ。殺された人間を、救うこともできずにね」

「ふーん……あっそ。あんた、不思議な人なんだねぇ」

 長流は目を細め、つづけた。

「八神さん、俺にとって、あんたは完全に想定外のイレギュラーなんだよ。だって俺、事前に来客予定はすべて確認してあったんだ。あんたが来る予定なんて、なかったはずなんだ……。俺は父さんの人脈もすべて把握している。探偵の知人なんて、いるはずがない……。でも父さんも俺も、他の皆も、突如現れたあんたを、まるで催眠にかかったかのように受けいれていた……。だから俺は思ったんだ。あんた、もしかして……」

 長流は哀しげに言った。

「弟の……正吾の、願いなのかい?」

「……」

 八神は何もこたえなかった。無言のまま長流に背を向け、闇に向けて歩きだした。

「えっ、つれない。もう行っちゃうの?」

「謎は、すべて解けたからね」

 このあと起こることを、見たくないんだ……八神は、その言葉を呑みこんだ。

「ねぇ……正吾はどうなった?」

「……ちゃんと逃がしたよ」

「あっそう。じゃあ、もういいかな……」

 八神の背後でばしゃばしゃと、液体を被る音がした。可燃性の液体特有の匂いが漂ってくる。それを合図に、八神は闇に向かって駆けだしていた。

 八神の背後で、激しく何かが輝いた。長流の楽しげな歌声が、トンネルのなかに木霊する。

長流たけるが、ける~!」

 長流は自らの体に火を放ったのだ。そして、八神にはわかっている……この館の到るところに、強引火性の物質が隠されていることを。遠からず、赤人館全体が燃えあがるはずだ……完全犯罪……正吾だけを残し、すべてを消し去るために。


7. 遠き思い出

 正吾はしくしくと泣きながら、燃えあがる赤人館を見つめていた。思い出すのは、去年のクリスマスイブ。サンタに何を願うのか……そんな他愛もない、兄との会話だった。

「んー。俺は」

 と長流は言った。

「完全犯罪者になりたいと願うね」

「完全犯罪者!?」

「そう。どんな犯行でも完璧にやってのける……そんな犯罪者さ」

 長流は微笑む。優しい兄だった。

「正吾は?」

「ん~。僕はねぇ……」

 その時、正吾の胸のなかに閃く感覚があった。

「そうだ! 探偵になりたい!」

「探偵?」

「うん。どんな謎だって解き明かせる、すごい探偵になるんだ」

 それでね……と正吾は満面の笑みを浮かべる。

「お兄ちゃんの犯罪を、僕が防いであげる!」


8. エンドロール

 正吾は……炎を見つめながら、わんわんと泣いた。

 僕にはできなかった。
 僕には……お兄ちゃん……。
 お兄ちゃん……!

「そう、君にはできなかった。だから、わたしが来たんだよ」

 八神だった。

「おじさん……」

「去年、君はサンタに願った。そして結果として、自分に呪いをかけた。どんな謎でも解き明かせる、解き明かさなければならない……そんな探偵になる、そういう呪いをね。でもいまの君には、謎を解き明かすために必要なものが……勇気がなかった。怖くて、謎を解き明かすことができなかった」

 八神の背後で、赤人館が燃え落ちていく。

「でもサンタの奇跡は絶対だ。願いは成就されなければならない……。だから、わたしはここに導かれてきた。君ができなかったことを、成し遂げるためにね。まぁ、最初は何がなんだかわからずに、さすがに戸惑ったけど」

 その八神の姿が、揺らぎ、かすれ、薄れていく。

「そろそろ戻る時が来たようだね」

「え……?」

「奇跡は成就した。だからわたしは、元いたときと場所に戻るんだよ」

 突如、降りつもっていた雪が吹雪のように舞いあがる。それに包まれながら、八神の姿はだんだんと見えなくなっていく。

「おじさん!」

 正吾は叫んでいた。

「行かないでよ! 僕を独りにしないでよ……!」

 吹雪のなかで、八神は優しく手を振りながら言った。

「大丈夫……君は、大丈夫」

「せめて……」

 涙を拭い、正吾は精一杯に叫ぶ。

「せめて教えてよ……名前を……おじさんの名前を、教えてよ!」

 八神は優しく微笑んだ。

「わたしの名は……」

 やがてその姿はかき消えて、最後に、木霊する言葉だけが残された。

 わたしの名は、八神正吾。
 探偵、八神正吾。
 未来から来た、君さ。


超探偵八神正吾
エピソード・ゼロ
『赤人館の殺サンタ事件』

(了)


パルプアドベントカレンダー、明日はベンジャミン四畳半さん『ビシン・トウルイ・ゲッペイ・ゴミパンダ』です! タイトルの時点でただならぬ雰囲気がある……楽しみですね!

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