根源のヴィリャヴァーン_05

根源のヴィリャヴァーン

 わたしたちは誰もがヴィリャヴァーンの輝きから生じ、その根源の炎を胸に抱きながらこのエ・ルランの地へと落ちてきた。

 だから、誰もが落ちてきた苦しみに囚われ続け、輝ける炎を胸に抱いていることすらも忘れて、その生命を終えていくのは悲しいことである。

「なればこそ。人の身のままヴィリャヴァーンに到ろうなどと望むことは、人としての分際を超えた行いでありましょう」

「それは許されざる行い。エ・ルランの地に災いと争乱とを招き入れることになりましょう」

 壮麗なる列柱が輝く中、少女たちは厳かに告げていく。まるで祈るかのように。

 ブンッ

 そしてその写像は唐突に掻き消えて、ただ、朝焼けの空のみが残された。

「以上である。かくして洗礼者による裁定は下された」

 執行者ル・リエムが冷たく言い放つ。後ろ手に縛られ跪かされた少年は、それでもなお空を見上げていた。朝焼けの彼方、うっすらと浮かぶヴィリャヴァーンの輝ける天柱。少年の胸の奥、熱く炎が疼いている。

「最後に何か言い残すことはあるか、咎人サ・ラクよ」
「俺は……」

 ル・リエムの事務的な問いかけにサ・ラクは絞り出すようにして言った。

「俺は憶えている……ヴィリャヴァーン。それは永遠の空虚、永遠の充満。俺はいつか辿り着く。あのヴィリャヴァーンに。それが今も変わらぬ俺の望み。そして、俺の憧れだ」

 その胸の奥。熱い炎が渦巻いていた。

「ふん……狂人め」

 ル・リエムは冷ややかに見つめ、それからその手を高く掲げた。

「サ・ラク。傲慢の罪により、死刑」

 シルファの風が吹いていた。その風に乗ってメヴの花が水玉のような花弁を巻き散らし──花びらとともに、衛士が血を吐きながら倒れていった。

「君の憧れ。君の記憶。しかと聞いたよ、少年」

 吹き荒れる花弁の中、サ・ラクは見た。血濡れた拳を掲げ、背を向けて立つ女。その黒いマントが靡いていた。その装束は血の色に染まっていた。隻腕。じゃらり。その腕から垂れる、鎖の音。

【続く】

#逆噴射小説大賞2019

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